Level 15

「女の子は突然綺麗になる時があるのです」

     level 15


「ふぅ~っ。なんか、やり遂げたって感じ」


『リア恋plus』撮影会が終わって、アフターでみんなで食事をしたあと、家に帰ったわたしはゆっくりとお風呂に浸かり、疲れを癒した。

今日一日、強い日射しにさらされながら撮影したので、肌の手入れは念入りにしておかないといけない。

『女の子の肌は17歳から劣化するのよ』と、みっこさんは言っていた。

わたしの肌はとても綺麗だと、みっこさんは褒めてくれたが、同時に、若いときからきちんと手入れしていた方が、年をとってから差が出てくるらしく、そのためのスキンケアの方法をいろいろと教えてくれた。


お湯のなかでゆったり手足を伸ばしたあと、適度な時間で湯船から出て、最初に髪を洗う。

ぬるめのシャワーで髪の汚れを洗い流しながら、指の腹で頭皮をマッサージする様にシャンプー。トリートメントは地肌につけない様にして、髪の中ほどや毛先に揉み込み、すぐには流さず、成分を染み込ませるのがコツだとの事。

そのあとは、フェイスソープをしっかりと泡立てて、洗顔。重力に逆らう様に、下から上へと洗うのがいいそうだ。

最後に、買ったばかりの天然ヘチマスポンジに、たっぷり泡を立てたボディソープで、隅々までからだを洗っていく。力を入れてこすっても、表皮が荒れるばかりなので、やさしく撫でる様に洗う方が、お肌のためにはいいらしい。


女の子は突然綺麗になる時がある。

初めての恋を経験し、ヨシキさんから身も心も愛され、モデルに向かってレッスンを重ねている今が、わたしのその時なのかもしれない。


バスタオルを巻いてお風呂を出ると、キッチンの冷蔵庫から麦茶を出してコップに注ぎ、乾いた喉を潤す。

コップを手にして部屋に戻ったわたしは、キャミソールを着てローチェストの鏡の前に座り込むと、化粧水をたっぷりとコットンに含ませ、顔にパッティングしていった。そうしてお肌の水分補給がすんだあとは、乳液で潤いを保つようにする。

みっこさんから教えて頂いた入浴法や化粧法を実践していると、わたしの女子力もグングンアップしていく気がする。

スキンケアが終わったあと、部屋でゆっくりとくつろぎながら、わたしは満足げに今日の撮影のことを思い出していた。


 お昼休みのあとの撮影会は、のんびりとみんなでふざけあっていた午前中とは、なんとなく雰囲気が違っていた。

カリスマモデルの森田美湖さんから直接レッスンを受けていることが知れて、みんなのわたしへの接し方が、少し変わった気がする。

例えて言えば、みんなで並んで走っていた集団から、わたしひとりが飛び抜けて前を走り出したというか。

モデルレッスンをしていると知ってから、みんなわたしに一歩譲る様な感じになって、あの自由奔放な恋子さんでさえ、撮影の際にはわたしを気にして、ポーズも合わせてくれていたし、わたしの意見に素直に従うことも多かった。


「まぁ。悪い気はしないけど」


窓を開けて涼みながら、コップに残った麦茶をひと息に飲み干し、わたしはひとりつぶやいた。

遠慮されるのは好きではないが、リーダーシップをとるのは慣れている。

小学校の頃から、クラス委員長を任せられる事が多かったし、なぎなた部などの部活でも、部長経験は何度もあった。


やはり、『島津の姫様』の血筋だろうか?

トップに立つのは苦ではない。

…というか、むしろ、好き。


みんなから褒め讃えられ、午後のわたしはちょっぴりお姫さま気分で、いつになく積極的に、みんなをリードしていった。

『江之宮憐花』のコスプレも、努力と研究の甲斐あって、我ながら板についてきたと思うし、モデルレッスンをはじめたおかげで、身のこなしも洗練されてきた気がする。

今までは桃李さんの繰り出すポージングや、恋子さんの押しの強さなどに、引け目も感じていたけど、みっこさんからレッスンを受けることで、自信もついてきた。

『コスプレビギナー』というコンプレックスも、だんだん拭われてきた様だ。

もう、イベント会場でも、他のレイヤーさんたちに気後れすることはないだろう。

百合花さんや魔夢さんだって、少しも怖くない。

美咲麗奈みたいに、胸の大きさだけでカメコさんの気を引く事などしなくても、わたしは実力と容姿で、みんなと堂々と張り合える。

なによりわたしは、あのヨシキさんに、モデルとして認められ、しかも恋人同士なのだ。

だれもが羨む恋人を持っているのは、とっても気分がいい。


“ピ~ン”


そのときPCから、メールの受信音が鳴った。


『ヨシキさんかな?』


期待が膨らむ。

『今日中にデータの速報を送る』と、ヨシキさんは言っていた。

どんな写真が送られてきたのだろう?

ワクワクしながら、わたしはパソコンに向かった。

しかし、開いたメールのタイトルは、『ファンです』となっていた。


つづく

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