「世間知らずなわたしは知りませんでした」

「そういえば美月さんは、コスプレSNSとか、やらないの?」


ひとり煩悶しているわたしに気づくこともなく、明るい声で恋子さんが訊いてきた。


「え? わたしはそういうのは、全然わからないから」

「え~。もったいないぃ。絶対やった方がいいよ」

「そうですか?」

「そうだよ! 向こうだって常に人材探してるんだから、美月さんくらい美人でスタイルよかったら、どこかのプロダクションかモデル事務所から、絶対スカウトされるって」

「いえ… そんな」

「コスプレなんて所詮マイナーな趣味で、世間じゃキワモノ的にしか扱われないじゃん。それで稼げるわけでもないし。やっぱふつうに、モデルとかに憧れるよね~」

「そうですよ! 美月姫ならば、世界をその美脚で股にかけて活躍するカリスマモデルも、決して不可能ではないですぅ(((o≧▽≦)o」

「そうね。美月ちゃんの美貌とヨシキさんの撮影テクニックが合わさったら、モデルも夢じゃなさそうね。

美月ちゃんもなにかのオーディションとかに、応募してみたら?」

「だよね。あたしは身長低いからモデルとか難しいけど、美月さんなら絶対いけるよ!

だよね。ヨシキさん!」


同意を求めてきた恋子さんに、ヨシキさんはあっけらかんと言った。


「美月ちゃんはもうすぐ、モデルデビューだよ」

「えっ?」「ええっ?」「え~っ(´⊙ω⊙`)!!?」


一瞬、その場の空気が止まった。

よほど驚いたのか、ソリンさんに恋子さん、桃李さんも、目を見開いている。

ヨシキさん。

そんなこと言って大丈夫なの?


わたしの焦った視線に気づいたのか、つけ加える様にヨシキさんは言った。


「まあ、どうせすぐに知れ渡ることだから、しゃべったって構わないだろ。

美月ちゃんは今、森田美湖の秘蔵っ子として、モデルレッスン受けてるんだ。テレビや雑誌でお目にかかれる日も近いと思うよ」

「も、森田美湖って、、、

もっ、もしかして、カリスマトップモデルで姫川亜弓的大女優の、みっこさまですか?(((( ;°Д°))))」


最初に口を開いたのは、桃李さんだった。


「実は桃李、みっこさまの大ファンなんですぅ~ (((o(*゚▽゚*)o)))

あ。『みっこ』っていうのは、森田美湖さまの愛称なのです。

子供の頃から一流ファッション誌のカバーモデルをこなしているみっこさまは、もう、ふつくしすぎて素敵すぎて(≧∇≦*)♪

桃李、雑誌の切り抜きとか、写真集も持ってるし、駅貼りのポスターも、こっそり剥がしてゲットしちゃいました(*´艸`)

テレビにもよく出てて、画面に映る度に録画しながらうっとり眺めてるんです~ (((o≧▽≦)o!!」

「知らなかった。凛子ちゃん、モデルレッスン受けてるの?!」

「すごぉい! 美月さん、森田美湖みたいな超一流モデルの秘蔵っ子なんだ!!」

「いえ… レッスンを受けているといっても、先週からはじめたばかりで、まだ2回しか通っていないですし。優花さんにも言いそびれていて…」

「まあ、それはいいんだけどね。あたしとしては、将来の義妹いもうとがモデルだなんて、鼻が高いしね」

「森田さんって、仕事となったら人が変わったように厳しいから、レッスン、ついていくだけでも大変だろな。美月ちゃん、よく頑張ってるよ。うん」


同情する様に、ヨシキさんは腕組みをしながらうなづく。


「そういえばヨシキさんは、みっこさまとお知り合いだったですよね°˖✧◝(・∀・)◜✧˖

美月姫といいヨシキさんといい、遥かなる高みを目指す方々をこうして間近で拝見することができて、桃李幸せですぅ~(((o≧▽≦)o」

「あたしも美月さんなら絶対モデルになれると思ってた。

ね。教えて教えて!

モデルレッスンって、どんな感じ?

森田美湖って、やっぱ雑誌とかで見るみたいに、華奢きゃしゃで超絶美人なの?」

「あたしも聞きたいわ。話してよ凛子ちゃん」

「桃李も知りたいですぅ(ж>▽<)y ☆」


みんなに訊かれるまま、わたしはヨシキさんとコンポジット撮影をしたことや、みっこさんのこと。彼女の家でのレッスンの様子などを、詳しく話した。

興味津々という風に、みんなはわたしの話に耳を傾けている。

『やっぱりあたしの凛子ちゃんは、ただ者じゃなかったわ』と、優花さんは言うし、『いいな~いいな~。モデルは女の子の憧れじゃん。美月さんはすごいラッキーだね』と、恋子さんもわたしに羨望の眼差しを向ける。

桃李さんに至っては、まるで女神でも崇めるかのように褒め讃え、熱いまなざしでわたしを見つめていた。


だけど…

賞賛の陰には、嫉妬の暗い炎が隠されている。


莫迦で世間知らずなわたしは、そのことにまだ気づいていなかった。


つづく

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