「心もからだも開いてしまいますか」

「よ~し! この辺で昼休みにするか~」


ファインダーから目を離したヨシキさんは、明るくわたしたちに告げた。


九月とはいえ、まだまだ残暑は厳しく、教室のなかでの撮影でも、ヨシキさんの背中は汗でじっとりと濡れている。休む間もなくわたしたちを撮影しているのだから、それも当然だろう。

机についてポーズをとっていたり、窓辺に寄りかかったりしていた桃李さんや優花さんも、ヨシキさんの声で緊張の糸が解けたように、『ふう~っ』っと息をついた。


「腹減ったよな。近くのコンビニでなんか買ってくるけど、リクエストある?」


そう言いながら教室を出ようとしたヨシキさんを、桃李さんが手を振って遮った。


「いえいえ。こんなこともあろうかと、わたし、おべんと作ってきてるんですぅ~ (*^▽^*)

すぐに控え室から持ってきますから、よろしければみなさん、食べて下さぁ~い (((o≧▽≦)o」


控え室から保冷バッグを持ってきた桃李さんは、大きな包みを広げた。

ハムやチーズ、玉子など、いろいろな具が挟まったサンドイッチに、フライドチキンにポテトサラダ。パンにキャラクターの目鼻がついていたり、ウインナーがタコの形に切ってあったりと、見た目がはなやかで可愛い。


「わぁ。キャラ弁じゃん」

「てへ(*´ω`*)  桃李、最近おベントづくりに凝ってまして」

「よくできてるわ。桃李ちゃん、すごい器用!」

「そう言っていただけると嬉しいですぅ( ノ*^▽^*)ノ」

「写メ撮らせて」

「机、くっつけようよ」


大竹さんと栞里ちゃんも加わって、みんなで桃李さんのお弁当を囲み、写メを撮ったりレシピを教わったりと、まるで本物のクラスメイトみたいにしゃいでいる。

撮影した画像をパソコンにコピーしていたヨシキさんも、ネコのキャラクターのサンドイッチを頬張った。


「お。見た目だけじゃなくて味もいいよ。桃李ちゃん、これならいつでもお嫁に行けるな」

「そんなぁ。ヨシキさん、おだてたってなにも出ませんよ~ (*´ω`*)テレテレ」


『お嫁』という言葉に妙に反応した桃李さんは、照れながら頬を染めてうつむいた。

真昼の日射しが、ベランダに面した窓から入り込むこの教室は、とっても開放的で、みんなの笑顔が余計にまぶしく見える。

桃李さんのお弁当を食べながら、わたしたちは午前中の撮影の感想や、これからのイメージのことなどを、ざっくばらんに語りあった。


「桃李さん、なにやってんの?」


サンドイッチ片手に会話しながらも、iphoneをせわしなく操作している桃李さんに、優花さんが訊いてきた。


「午前中の感動が醒めないうちに、SNSに新鮮画像をアップしてるんです~°˖✧◝(・∀・)◜✧˖」

「あ。これ、オフショで撮ってたやつじゃん。桃李ちゃん仕事早っ」


自分のスマホで桃李さんのSNSを見た恋子さんが、声を上げる。


「え~っ。あたし、美人に撮れてるじゃん。美月さんも見る?」

「わたし。スマートフォンじゃないから、見れなくて…」


最後まで言い終わらないうちに、恋子さんがわたしの目の前にiphoneを差し出してきた。

画面には、桃李さんの肩を抱いてウィンクしている恋子さんが写っている。

それ以外にも、他の人との写真もアップされていて、『素敵レイヤーさんたちとリア恋plus合わせ撮影なう』などと、文章が添えられていた。


「スマートフォンでもこんなに綺麗に撮れるなんて、すごいですね」

「美肌加工とかしてみました~。最近のアプリはいろいろ小技が使えて、桃李でもそれなりに綺麗に見えるのがすごいですぅ(*´ω`*)」

「ったく。こんなに簡単に綺麗な写真を撮られちゃ、オレらカメラマンの存在意義がなくなっちまうぜ」

「そんなことありませんよ~(o・ω・)ノ))ブンブン

アプリの機能なんて所詮『なんちゃって』。ヨシキさんのテクニックと熱いソウルと、カメラとレンズが織りなす高尚かつみやびなフォトマジックに、太刀打ちできるものじゃないですぅ*:.。.:*゜(n´д`n)゜*:.。.:*」

「あたしも、本格的に撮られたのは今日がはじめてだけど、ヨシキさんってモデルを乗せるのが上手いというか、撮られてるとテンションあがるわよね。それも撮影マジックのひとつなんだろね」

「でしょ。ヨシキさんに撮られてると、心もからだも開いちゃって、すべてを曝け出させられるのよ。

ったく、憎たらしいくらい天才的好色男なんだから」

「恋子さん、なんかエロい~」

「はは。恋子ちゃん。それ、褒めてるんだよな」


ん~…

相変わらず恋子さんの発言には、ハラハラさせられる。

わたしと同じことを、恋子さんも感じているんだ。

もし、恋子さんがヨシキさんと個撮とかしたら、どうなってしまうのだろう?

わたしだって、いつの間にか服を脱がされていたくらいだし、エロティックな写真くらい、ふつうに撮りそう。

そんな恋子さんを見て、ヨシキさんはムラムラしたりしないだろうか?

思わずわたしに、キスしたときの様に…


いけない。

わたしったら、また、『ヨシキさんの彼女』モードになっている。

今はそんなこと、考えない様にしなきゃ。


つづく

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