「谷間に指を挟みたい衝動にかられます」

「へえ~。恋子さんはウィッグネットじゃなくて、水泳帽使うんだ」


メイクをしていたソリンさんが、髪をまとめた上から水泳帽を被っている恋子さんに、感心した様に言った。

帽子の位置を調節しながら、恋子さんが応える。


「男装のときに使ってみたら、けっこうよかったのよ。

あたしって髪長いから、ネットだけじゃどうしても浮いちゃって、『島戸京子』みたいなショートヘアのキャラだと、デカ頭になっちゃうから」

「そうそう。ウィッグって悩むよね〜。それが怖いからあたし、ショートヘアのキャラ、できないのよ」

「ゴムの水泳帽だと頭にフィットして、デカ頭になりにくいよ。ウィッグもずれにくいし。まあ、長時間やってると、頭痛くなるけどね」

「やっぱ、自分の髪でやれるのがいちばんかぁ。今回の『茜レイラ』はその点、楽でいいわぁ」

「美月姫は、まるでシャンプーのCMのような美髪だから、『江之宮憐花』さんをやるのにウィッグの必要ないですね(^▽^)。

桃李のやる『小鳩りりか』タンは、紺色の髪なんで、馴染ませるのが大変でした((((*´・ω・。)」

「でも、桃李さんのカラーウィッグ。なんか、髪の色がすごい自然でいいじゃん。それ、どこ製?」


会話に加わった桃李さんに、恋子さんが訊いてきた。


「これはですね〜。ふつーのウィッグにコピックマーカーで、メッシュを入れる要領で塗って、髪の色を落ち着かせてるんですよ☆」

「へぇ。コピック使うんだ」

「コピックマーカーって?」


横から質問するソリンさんに、桃李さんは丁寧に答える。


「アルコール製のカラーマーカーですぅ。かつて有名漫画家さんが使っていて、コミックイラストの画材として、一世を風靡したこともありました(ж>▽<)y ☆

今はデジタルに押されて活躍の場が減ってはいますけど、手軽で汎用性が高くて、こうしてコスプレの隠し味にも使えるので、コスプレイヤーも御用達の逸品ですぅo(^▽^)o」

「へぇ。桃李さんって、いろいろ詳しいのね〜」

「それほどでも〜(((^_^;) 無駄にコス歴が長く、耳年増なだけですぅ〜」

「はは。謙遜しちゃって」


そう言いながらメイクを終え、着替えようとブラウスを脱いだソリンさんを見て、恋子さんが声をあげた。


「ええ〜っ。ソリンさんって、隠れ巨乳だったんだ! その胸の谷間、すごいじゃん!」

「はは。そんなでもないのよ。回りの肉を寄せて集めて、頑張ってるだけ。ブラにもパット入ってるしね。巨乳設定の『茜レイラ』だから、このくらいは盛らなくちゃね」

「ふは〜。ふつくしいクリベージですぅ~(*゚▽゚*)

そもそも、寄せる肉のない桃李には、そのV字渓谷は手の届かない憧れです〜( ゚∀゚)彡」


桃李さんまで、ソリンさんの胸を羨ましそうに見つめて言う。


「確かに~。 ね、ちょっと触っていい?」


返事を聞かないうちに、恋子さんは着替え中のソリンさんの胸元を、指でつついた。


「ん~。この弾力ともっちり感。いいわ~」

「もうっ。恋子さんったら。感じちゃうん」

「あの。あのっ。ソリンさん。もっ、桃李もいいですか~?」

「んふ。じゃあ、挟んでみる?」


そう言ってソリンさんは微笑みながら、桃李さんの指を胸の谷間で挟み、両脇から自分の胸を揉み寄せた。


「はうううう~。。。。 このもっちりとしたあたたかみと、柔らかななかにも歯ごたえのあるアルデンテな圧力。まさに、極上の乳ですぅ~(*´ω`*)」


胸の谷間に指を挟まれたまま、恍惚とした表情で桃李さんはにやけている。

『あっ、それ。あたしにもやってよ』と、恋子さんも準備そっちのけで、ソリンさんの胸で遊んでいる。


確かに…

今にもこぼれ落ちそうなソリンさんの豊満な胸の谷間(『クリベージ』というのだと、あとで桃李さんに聞いた)は、貧乳のわたしには羨ましいもの。

あの谷間に指を挟んでみたいという衝動に、女のわたしでさえかられてしまう。

でも今はまだ、準備の途中。

これから大事な撮影がはじまるのだから、こんなに緊張感がないまま、グズグズしているわけにはいかない。


「遊んでばかりいないで、急いで準備しましょう。ヨシキさんたちもお待ちかねですから」


窓際でスカートを脱ぎながら、わたしはみんなを促した。

そのとき、桃李さんが素っ頓狂な声をあげた。


つづく

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