命がけの勝負


「最初に言っただろ? 好き勝手させねーって」


 私はため息混じりにそう言うと、彼の元へゆっくりと近寄った。

 私が何者かわからない以上、下手に動くと危険だと思っているのだろう、彼はそれに合わせてジリジリと後退していく。


「アンタ、神沢照史の能力はステータスの改変。自身だけでなく、触れた対象のステータスもいじることができる。そうだろ?」


「……」


 返事はない。

 私の考えを読もうとしてるのか知らんが、私は事実を言っているだけだ。ハッタリをかましているわけではない。


「先に言っとくけど、私はアンタの考えてることも全部お見通しだ。得体の知れない相手を野放しにしていくのはオススメしないね」


 彼、アキトの情報は全て丸裸にして私の脳内にしまってある。自分の機密情報を丸裸にしたまま外に飛び出すなんてアホなことこの青年にできるわけがない。

 ……それくらい恥ずかしい隠し事があった。


「いくら異世界でもそこまで個人情報を洗いざらいできるわけ……」


「私をなめないでほしいなぁ、アンタ、どうせその能力を駆使して、この世界の女どもにチヤホヤされたいんだろ?」


 これは私の推測ではあるが、今までの孤立派勇者の典型的なパターンだ。ずっと勇者を見てきた私が知らないわけがない。

 というか、ここ一帯の女どもがちょろすぎるのも問題だと思うけど。


 図星だったのか、彼は固まっている。

 同時に顔も赤くなっている気もするが、同情はしないからな。


「こうなったらここで……」


「あー、私を殺そうと思ってんならそれはやめといた方がいいよ。一応王の娘なんでね」


 実の娘ではないけど、それなりに騒動にはなるだろうな。親父が私をこの役職に就かせたのも、簡単に手が出せないって理由もあるみたいだし。

 私を殺すだけでこの国の保持する勇者全員と敵対するのは、こいつにとってもマイナスな面しかないだろう。


「別に、大人しく部屋に戻ってくれたら何も公言しないっての。大人しく戻ったらの話だけどな」


 私は親指で後ろにある扉を指し、アキトがどう動くのかジッと見つめた。

 ここで油断すると、もし相手が攻撃してきたときに対応できないからな。

 人質に取られたりしたら本末転倒だし……。


 ……っとそんなことを考えてる間にアキトは部屋の中へと入っていたようだ。

 扉がゆっくりと閉まり、廊下に私だけ取り残される。

 緊張が緩み、額から堪えていた汗がにじみ出る。


「これでひとまず、逃げ出す心配はなくなったか……。あとは勇者間での揉め事にどう対応するか……だな」


 今まではクラスに1人は凶悪じみた素行の悪い勇者がいたんだが、今回は情報を分析した感じそのような勇者は1人もいなかった。


 だから、アキトのような勇者が一方的に追い込まれる形にはならないはずだ。

 あいつ自身も以前からいじめられていたような形跡はなかったからな。


「とりあえず今日は自室に戻るか」


 いつ死んでもおかしくないような状態で長時間もいると頭がどうにかなりそうだ。

 あの親父のことだ、今からいきなり勇者に依頼を押し付けることはないだろう。


 本格的に仕事が始まるのは明日からだ。

 それまでに……、私も体力を回復させないと……。


 自室まで歩いて行き、倒れるように部屋の中へと入る。


 そして、重力に身を任せたまま、私はベッドの上に身体を叩きつけた。


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俺TUEEEEさせません、勇者管理人より。 ちきん @chicken

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