勇者? 強いよね、でも私は負けないよ

 とりあえず、新しい勇者たちの能力、名前、ステータスなどの個人情報は把握してきた。

 本来なら極秘事項なんだけど、私は管理職だからね、特権ってやつ。


「私は勇者と違って特に誇れる能力もないからなぁ、いかに上手くハッタリをかますかが重要となってくる……んだけど」


 勇者の中に嘘を見抜けるスキルを持っている輩がいなくて助かった。

 鑑定スキルは自分の小道具でステータスを偽装すればなんとかなるだろう。


 私はブツブツと呟きながら王様のいる部屋まで足を進めていく。

 召喚された勇者たちは、その後に召喚士により王の部屋まで強制的に移動させられる。よって、必然的に私も勇者たちを監視しに王の部屋まで行かなきゃならんのだ。


 因みに、私の小道具は全部で3つだ。位置情報をいつでも確認できる道具に、ステータスを偽装する道具、最後に麻痺ナイフ。

 最初に1人で考え込んでた男子にくっつけたのが位置情報のそれ。


「所詮、国からの支給品だからな。勇者たちの能力と比べると見劣りするし、数にも限りがあるから辛い……」


 王の部屋に着いた私は、勇者たちにバレないようこっそりと中へ入る。

 まあ、何人かに見られたけど。軽く会釈したら逃れられた。

 

 そして、1人周りを不安そうに眺めている女子に近寄り、声をかける。


「キミが鑑定スキル持ちの女の子だっけ」


「えっ、は、はい……」


 まだ誰にも能力を教えてないのに何で知ってるの!? って顔してるなー。全部知ってんだよこっちは。

 不意に話しかけられて驚いてるってのもあるんだろうけど――


「たしか、綾瀬美咲だっけ? ステータスは全体的に低めか」


 私は彼女の手を掴み、そのまま彼女の頭の上へ置いた。頭上に表示されるステータスを周りに見られない間に読み上げると、そっと手を離す。


「アンタ、そのステータスじゃたぶん死ぬから、死にたくなかったらこれつけてな。私が助けてやる」


 そう言って手渡すのはもちろん位置情報を教えてくれる便利アイテム。

 相手に協力的な態度を示しつつ、位置情報すらも取得する、我ながら素晴らしい算段だ。


 どうして彼女に話しかけたかって? そりゃあ、勇者たちの中にも協力者がいないとやってられないからね。どうしても外側から見るだけじゃわからないことだって多々ある。


「それでお願いなんだけどさ、勇者たちの様子を内側から見守っててほしいんだよね。私、こう見えて勇者の管理係やっててさ」


「は、はぁ……」


 ミサキはよく理解してない表情のまま頷くと、そのまま流れで私と握手を交わした。


 私が彼女に協力的姿勢をとったのには2つの理由がある。

 1つは、スキルに鑑定のスキルを持っていること。これでいつでも情報を内側から取得できるからだ。

 2つ目は、私よりステータスが低いということ。これでもし裏切られたとしても、簡単に始末できる。位置情報の小道具を彼女に渡したのも、半分はその理由からだ。


 とりあえず、これでひとまず全体的に視野は広がったと言っていい。

 

「本題はこっからだからなぁ……」


「本題……?」


「あー、ミサキには関係ないから。こっちの話……。そうだ、私の名前ハルっていうから、アンタにだけ教えといてあげる」


 まあ別に隠す必要もないんだけど、この方がなんか特別な感じでるっしょ。どうでもいい弱みを握らせたみたいな?


 私はミサキに「んじゃまた」と別れを告げると、廊下の方へ出て行った。

 王様……、親父の長い長いお話は今でも続いているけど、王の部屋に着いた時点で勇者たちは自由だ。

 いくら召喚士であっても、高度な術である強制移動をこれだけの間保つことはできない。


「だから、1人は抜け出してる不良勇者がいるんだよねぇ」


「……またお前か」


 ポケットに手を突っ込んで堂々と抜け出している勇者を発見。

 以前間近で見た覚えのある容姿をした男の勇者は、苛々した目つきで私の方を睨んでいた。


 

 



 


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