俺TUEEEEさせません、勇者管理人より。
ちきん
勇者降臨
私の名はハル。一応ここシュリンガー王国の姫君的な位置にいるんだけど、王様とは血が繋がっていないため正式な娘ではない。
そのせいでまだ名前しかないんだけど、まあとくに気にしてない。
私の自己紹介はこれで終わり、他は特に何もない。
それよりも、最近勇者たちの召喚が成功し、それ以来続々と勇者が増え続けている。
勇者ってのは強大な職業で、みんながチートな能力を持ってるからとても恐ろしい。
そんな勇者が沢山増えてると、そりゃあ密かに調子に乗るやつが出てくるわけよ。
うちらの方からするとさ、強大な力を持った奴らは統率が取れてないと困るわけ。制御きかないしさ。
だけど、まあ一回召喚したら1人はいるよね。孤立行動するやつ。
だいたい周りとコミュニケーションがとれていないやつほど、その傾向が多い。
これは私がこっそりと見てきた経験から断言できる。
「んでまぁ、これを親父に報告したら、こんなめんどくさい役職につかされるんだから……たまったもんじゃないわな」
話し方? んなもん知るかよ。王様の実の娘じゃないんだし、特別良い待遇受けてた訳でもないし、話し方ぐらい勝手にさせろ。
それで、その私の就かされた役職ってのが、勇者管理人という……勇者を監視する仕事だ。
監視するだけじゃなくて、上手く統率のとれた集団にするために働かなくてはならない。そう、非常にめんどくさい。
「今日が私の初仕事……なんだけど、やる気起きないわぁ……」
「1クラスに1人は問題児がいるからねぇ……、まあ頑張りなよ」
「うるせぇなー、他人事だからって調子に乗ってんじゃねぇ!」
私は肩をポンポンと叩いてきた下っ端兵の手を振り払うと、ペッと唾を吐いて追い払った。
因みに、1クラスっていうのはまとめて召喚される勇者の集団を指す。
特に深い意味はないらしいが、最初に召喚した勇者たちがそう言っていたので、私たちも使わせてもらってる。
「そういや、そろそろ勇者を召喚する時間か」
召喚するのが今日だってのは知っていたけど、こんなに時間が経っていたのは想定外だった。
私は背伸びをしながら腰掛けていた石ブロックから立ち上がると、召喚の間へと足を運んだ。
まあ、歩いて数分もかからない距離だ。
私はゆっくりと部屋の扉を開けると、魔法陣を囲む召喚士たちに軽く会釈する。
召喚士たち反応はない。無視だ。
流石の私でもこれにはイラっとくるね。まあこいつらと関わりなんてないし、我慢するけどさ。
「早く召喚済ませてくれねぇかなぁ……私も暇じゃないんだけど」
「一日中ぶらついている貴方がよくそのようなこと言えますね……」
「んだよ、喋れるじゃん」
私はわざとらしく舌打ちすると、そっぽを向き足を組んだ。
同時に近くにあった椅子に腰かける。
暫くすると、魔法陣に若干青白い光が走ったのが目に入った。
おそらく召喚に必要な条件が揃ったのだろう。召喚士たちは意味のわからない言語をペチャクチャと詠唱し、魔法陣の輝きを強くしていく。
だんだんと魔法陣から放たれる光は強くなっていき、直視することが困難になってきた。
あまりにも強い光は、閉じている瞼の上から貫通して直接眼球を焼いてるようにさえ感じてきた。耐えられなくなった私は、両腕で目を隠す。
「毎回こんな光を浴び続けて……、こいつら目ん玉見えてんのか……?」
私が悪態を吐いたその瞬間、強く光輝いていた魔法陣は急に消え、代わりに数十人の若者が訳も分からぬ表情でこちらを見ていた。
どうやら召喚が成功したらしい。
そう、私の初仕事の始まりの鐘が鳴ったのだ。
「4人で固まっている筋肉質な体格の男、平凡な男らのグループに、女どもは全員4人か3人で集まってるな」
一通り眺め、彼らが私の存在に気付く前に姿を隠す。
そして、1人孤立している男の肩にそっと手を置き、その集まりから引っ張り出した。
――問題児確保。
こういうタイプが、放っておいたらいつのまにか単独で動いてる、危険な奴だ。
「先に言っとく、絶対お前の好きにはさせねぇから」
隠すように舌打ちをした彼は、私の顔をそっと睨む。
どうやら、真っ先に私を排除しようと考えてる、そんな顔だ。
こりゃあ……、めんどくさい仕事になりそうだわ。
私は「はぁ……」とため息を吐くと、手元に持っていた小道具を彼の肩の中へねじ込んだ。人間の肌に溶け込む性質を持っているため、バレることはない。
「次は情報収集だな」
バレないようそう呟くと、私は彼を突き返し、召喚の間からそっと退出した。
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