一瞬に一週間かける話

 ついに……ついにこの時がやって来た……。全神経を指先に集中させ、一つのボタンを押す。急激に押し寄せる不安と期待。目の前が、まばゆい光に包まれた――。



 ……。



 …………。



 ………………。



「っだああああぁぁあぁああ!!!」


「あー、ありゃあ爆死だね」


「ですねー。これで単発を含め222連……あっ、先輩、ゾロ目ですよ、おめでとうございます」


「おめでとー千恵。よかったねー」


「全っぜん! よくない! はぁ……なんでぇ……なんでよぉ……私は君のために一週間かけてダイヤ貯めたんだよぉ?!」


「物欲だ」


「物欲ですね」



 ここはとある高校のゲーム愛好会。たった今、私はガチャで爆死した。ゲームをしたことがある人にとっては全くもって説明不要だが、つまりは、結果が悪かったということだ。



「なんでこんなに来ないかなぁ……確率1%とか嘘でしょ」


「二体来ていておかしくないですね」


「第一、推しでもないのに麻友のところには来てるじゃん。なんで? なんでなの?」


「だから物欲だって」


「そうですよ。私だって、今推しのピックアップやってますけど来てませんし。今からまた引いてみますけど……あ」


「三春……? 今の『あ』は何? 今の! 『あ』は! 何?!」


「来ました、二体」


「来た!? しかも二体!? 推しが!? え、ねぇ何回引いたの?!」


「今のでちょうど800です」


「文句言えねぇ!」


「まぁまぁ、そういうのって、意識してなければ割りとあっさりと出るかもよ?」


「そうですよ。第一、先輩はガチャを引くときに力みすぎなんです。もっとリラーックスして」


「リラックスなんかできるかーっ!」



 狭い教室の机に突っ伏してうーうー唸ってみせる。けど、二人はそんな私の態度にもとっくに馴れたのか、手に入れた星5のレベリングを始める。ーーーっ、もう!



「ちょっとは気遣ってよ!」



 勢いで机を叩くと、その拍子に手がスマホに当たる。そして、画面の中のボタンをポチ。



「あわわわわ! 違う! ちがーう!」



 慌てて『いいえ』を押そうとしたが、パニックになり『はい』を選択。……なんということだ…………。



「……えっと、千恵先輩?」


「千恵ー……生きてる?」


「死んだかもしれないです」


「なんでー?! なんでーーー?! しかも! よりにもよってピックアップじゃない方で! 単発で! 確率! 出るわけないじゃないかーーー! 何やってんだ私はぁぁぁあ!!!」


「…………あ」


「…………おい、千恵」


「……なに?」


「出たよ」


「…………は、え?」


「ほら」



 麻友が見せた画面の中には、確かに私の推しが笑っている。



「…………か」


「か?」


「神様ありがとうーーー!!!」


「なるほど、出現スキル、先輩のHPを全回復&強化パブ添付ですか」


「サポートとしてはかなり強いな」


「わーい!!!」



 ここはとある高校のゲーム愛好会。本日私たちは、物欲センサーが存在するということを証明したのであった!



「先輩それ誰目線ですか?」


「まーまー、良くあるじゃん? ゲームの案内役的な」


「支配人A、神様B的なやつか、ウケる」


「てへっ!」


「褒めてはないですよ」



※※※



 推しは268回目で来ました……死にかけてました。無課金には世知辛い世の中になりましたね。

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短編集 植木鉢たかはし @Uekibachi

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