短編集
植木鉢たかはし
「豆腐の角に頭ぶつけて死ね」で始まって「うどんで首吊って死ね」で終わる話
「豆腐の角に頭ぶつけて死ねーっ!!!」
「……って言いながら机に頭叩きつけるの止めようね。怪我するよ」
「うっ……うぅぅ……いだいぃ…………」
「だから言ったのに」
……少し説明しよう。俺は雅人。中学三年。で、さっきから頭赤くしてえぐえぐ言ってるのが遥菜。俺らは幼なじみで家も隣。今日はこいつが追試の勉強するって言うから二人で学校に残っていた。机を横に二つつなげ、勉強会をしていたのだけれど……。
「……酷いよ。私が分かんないのを良いことに、バカにしてさ……。もう雅人なんか豆腐ごときに頭ぶつけて死ねばいいのに」
「人を罵倒すんの下手すぎない? なにその、豆腐に頭ぶつけてみたいなやつ。普通はさ、もっと……なんかないの?」
「職員室に飛び込んで死ね」
「精神的に?」
「テストに駆逐されろ」
「それお前だな」
「えぇっと……び、微生物に踏み潰されろ」
「どんだけ小さいんだよ俺」
「器はそれだけちっちゃいってこと! 大体なにさ! 雅人なら懇切丁寧に教えてくれると思ったのに……いきなりこんな難しいの分かんないよ」
「いやいやいや、さすがに2(x+3)の分配法則出来ねーの、中三ではお前くらいだぞ?」
「またそうやって! ~~~っ! もう!」
「だから頭、怪我するって」
「わ! ちょ……」
暴れまくる遥菜の首より少し下くらいのところに腕を回し、自分の体に近づけて固定する。……はぁ、全く。昔からこれだから目が離せない。少しの間に転んだりぶつかったりで。
「……ちょっと、雅人…………」
「あ?」
「首、ちょっと苦しいかも」
「暴れねーか?」
「暴れない。暴れないってば」
少し弱々しくなった遥菜の声に、腕をそっと離す。顔が真っ赤になっている。本当に苦しかったのか。だったら申し訳ない。そう思ってジーっと見ていると、遥菜と目があった。
「な……なにさ……。雅人のせいだからね! 全部!」
「あぁ、ごめん。てか、苦しかったならすぐにそう言ってくれれば良かったのに」
「ちょ! ……え、本気で言ってる?」
「本気もなにも……え? なんのこと?」
「あ……あ……あんたは本当にぃっ! バカ! バカバカバカ! バーカバーカ! あ、あんたなんか! あんたなんかねぇ!」
さすがに鈍すぎると思ったそこのあなた。……俺だってここまで露骨で気づいていない訳じゃない。ただ、人をまともにバカにすることにも出来ないような遥菜。彼女との関係、そして、彼女自身が変わってしまうのではないかという恐怖で、怖じ気づいているのであった。
全く……こんな臆病な俺なんて、一度、豆腐の角に頭ぶつけて、冷やしてきたほうが良いのかもしれないな。本当に、マジで。
そして彼女は、さっきの出来事も踏まえて、彼女なりの罵倒を俺にぶつける。
「あんたなんかっ、うどんで首吊って死ねっ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます