終末 最終話 欲望に満ちた世界


 地獄でたくさんの雑務と試練を乗り越えて、やっとの思いで『永遠の命』と『虚無の世界』を手に入れた。そして、『種』もいい感じに育ち、あとはゼファーに実乃利を生き返らせてもらうだけ。


「やっときたか。福地存美」


 こいつの命をゼファーに捧げれば、実乃利は生き返り、誰も触れることのできない、幻想的な世界に行ける。


 匠と美紅のアシストにより、逃げることのできなくなった存美に手を伸ばす。そして、『種』を取り出した。不幸で輝くそれは、植えた時とは比べものにならないほど成長していた。


 もうすぐ発芽しそうな『種』を鐘に食べさせると、ゴーン――ゴーン――という音を立てる。


 どこからともなく、光が一点に集まって少しずつ人の形を形成していく。世界の光がここに集まってきているのではないかと思うほど輝いて、これに触れられるという優越感に浸っていた。


 光が弾け、死んだはずの福地実乃利が裸の状態で姿を現す。安らかに目を閉じ、瞼の上からでも引きずりこまれるような感覚に陥り、透き通るような肌はあの時と変わらない。


 実乃利が目を開け、戸惑いを露わにする。


「やぁ、久しぶりだね、実乃利」


 今まで圭吾に気を使っていたストレスから解放され、思い思いの挨拶ができた。これほど幸せなことがあるだろうか。


「私......なんでここに?」


「俺が生き返らせたのさ。見返りをくれとは言わない......が」


 蒼は指を鳴らし、用意していた『虚無の世界』へ実乃利と共に瞬間移動した。読んで字のごとく、ただ地面と空が延々と続くだけの真っ白な世界。


「ここで永遠を共にしよう! 俺は実乃利が好きで好きで、たまらない。今すぐにでも抱きしめたいほどだ」


 蒼は世界を埋め尽くすほどの大声で告白した。友達のため、ずっと胸の奥深くに秘めていた感情を、今、さらけ出したのだ。


「そ、そんなこと言われても......」


「圭吾は死んだ。だからさ......。ダメだ、我慢できない――」


 困り果てて身動きできない実乃利に、容赦なく飛びつく。両手を背中に回し、強く引きつけた。その柔らかくて、すべすべな肌が蒼の気持ちをより一層昂ぶらせる。


 このまま包み込まれたい。このまま実乃利といろんなことをしたい。このまま何も考えずに生きていたい。


 実乃利が抵抗する素振りも見せないので、しばらくの間無心でいようと思った。それなのに、五感が敏感に働く。


 一つ一つゆっくりと味わっていこう。まずは......。











 グシャッ











 鈍い音を立てながら、実乃利の形が崩れていく。それと同時に地面が溶け出した。


「お、おい! なんだよ、これ!」


 実乃利が崩れたこともそうだが、地面が溶け出したことにも動揺し、何がなんだかわからない。


『これは滑稽だこと。仲間だと思っていたら裏切られるとは。あなたも、私に負けないほど強欲なんですね』


「っ! ゼファー!」


 声の主はすぐにわかった。苛立ちを隠せず暴言を吐きまくって、溶けていく地面から抜け出そうとした。しかし、足掻けば足掻くほど、足は地面にめり込み、まるで底なし沼のように体が埋まっていく。


『私はねぇ、あなたみたいな強欲な人や生に執着している人は有能だと思うんです。だって、目前に餌を吊るすだけで従順な駒になってくれますから』


 蒼はゼファーに騙されたのだ。蒼は言い返す言葉も見つからず、腰から下を包む地面を睨みつけ、絶望感に苛まれていた。


『そもそも、人を生き返らせることができるなんて言っていませんよ? 夢を見られただけでも幸せみたいだったので、私は良かったと思いますが』


 ゼファーの手のひらで踊らされた挙句、無残に捨てられる。幸せを知った後の絶望ほど恐ろしいものはないのだと痛感した。死に対する恐怖すらも打ち消し、思考を停止させられ、体には震えるどころか固まってしまった。


 死を怯えることすら許されないまま、体は地面に吸い込まれ、真っ白な世界が真っ黒に染まった。

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鐘がなる頃に...... Re:over @syunnya

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