男、かく語りき(2)
「それから、オレは毎日のようにあの神社へ通ったわけ。まあ、一目惚れだよな。見えたのは、人影と指先だけだったけど」
「その後はお会いできたんですね」
「いや、直接はゼロ」
「え、」
「俺の前で御簾上げてくんなくてさー」
「でも、綺麗って」
「綺麗だよ? オレが知ってる
語る
「お前、意外と純粋なんだな」
「ちょ、失礼じゃね? 教育どうなってんだよー、
口を尖らせた
「……今までずっと、来てたんだ。一度も拒否られたことなかった。でも、急に返事してくんなくなったんだ。原因は分かんね。いつも通り和歌も作ってきたけど、この通りなー……」
「歌が詠めるのかお前」
「まーね。似合わねーって思った?
「
「そうそう。さっき話した狛犬の姉弟。おねーちゃんが
オレ、なんかしたかな……。
「本当に思い当たらないのか」
「うん……」
「最後に会ったのはいつだ」
「んー……一週間ちょい前? 告白した日」
「告白!?」
「間違いなくそれだろ」
「いや、違うと思うわ。それが初めてじゃねーし」
何度も想いは伝えているのだと
「十数年片思い。当たって砕けて、また突撃して。フラれ記録更新中な」
「そうなんですか……」
「会った当初は、
「おお……」
「歌を教えてもらうと、自分で勉強しながら作り始めた。狛犬姉弟っていう、超キビシー先生付きな。何年かすると、御簾越しに話ができるようになった。階の下だったのが一段上がって、また一段上がって。最近は、本殿の方で喋ってた」
「もはや執念だな」
この人、すごい人だ。
「あんま重いとやべーかなっては思ったよ。でも、
いつの間にか痩せてたし、まあ、結果オーライじゃね?
そう言って
「高校でものすごく人気だったって聞きました。本屋さんでも女子が騒いでましたよ」
「んー、オレ、
時計に視線を落として、
***
「オレ、この話したの
メーワクにならない程度に、また行ってみる。
そう言った
「
「小物は恐れて近づけなかった。大物は面倒だと感じたんだろう。あれはかなりの気に入りだ、光が差していた。余計なことに首を突っ込まんよう、目をかけているんだな」
「光?」
「気づかなかったのか。星屑のような光を纏っていただろうが」
「えっ。あれ、イケメンオーラかと思ってた、なんか輝いてみえるっていう」
「容姿が優れているからといって、ただの人間が光を放つか」
お前はあの若造と別軸の阿呆だな。
ばっさり切り捨てる
「イケメンは分かるんだね。テレビとかでよく聞くからかな」
「ああ。それに、よく口にする奴が知り合いにいるから知っていた。そういえば、お前は
「
「
「へえ……ってちょっと待って。なんで俺が小さい女の子と似てるのさ」
「呑気なところがそっくりだ」
「なんだと」
それは双方に失礼じゃないか。
つかみかかろうとしたが、ここは往来だ。一人不審な動きをして通報されるわけにはいかない。
不戦勝か、つまらんな。
そう言ってニヤニヤする
***
「それで、結局どうしようか」
帰宅後、
最近、
「神様へのお土産って何がいいんだろう。
「待て、お前何をしようとしている」
「え、お話しに行こうと思ってるけど。
「あの、いんてりちゃら
現代語の習得早いな。
「そうかな。こういうことって、第三者の方が聞き出しやすかったりしない?」
「ほう」
「それに、こっちには
「俺か?」
「まさに神頼みだよ」
今日も
「
「話が通ったら考える」
不満そうな
「あれは治癒の神だ。歌声に癒しの力を持つという」
「
「噂に聞いたことがある。白拍子の格好をして、舞い踊るらしい。ただ、いつも御簾の奥にいてその姿を見たことがある者はいないそうだ。歌う以外は、口を開くことも滅多にないとのことだったが……」
考える顔をして、
「餓鬼の相手をするくらいには、気の穏やかな神であるようだ。行くだけ行ってみるか」
「よしっ」
「手土産なんぞ考えるな。ああいう手合いは、身一つで行った方がいい」
だが俺は、桜餅が食いたい。
美少年の真顔は迫力がある。食い意地が張っていれば尚更だ。さっき、おやつで食べたじゃないかと
「もう一つねだってこい。お前の取り分が減るわけではなし、腹も膨れていいだろうが」
「これから夕飯だから駄目。入らなくなるだろ」
祖母特製のかりんとうをあげた時に、分裂したようにそれが増えたのを見て驚いたものだ。祖母の料理の腕については、以前からお供え物で知っていたらしい。度々、
「成長期とやらだと言えばいいものを」
口をへの字にした
「だからこそ、ご飯はしっかり食べないと。桜餅だけじゃ大きくなれないよ」
「そういうものか」
「そういうもの」
首肯して、
「今日は何を作るんだ」
「ツワブキがたくさんあるって言っていたよ。きんぴらとかするんじゃないかな」
「それはいい」
早くもそわそわしだした
こんなにも楽しい。何の不満がある。
笑った
「お風呂まで済ませたら作戦会議をしよう」
「仕方ないな。乗ってやるか」
言葉とは裏腹に、
***
「さて、やってきました」
「うむ」
翌々日の夕方。
「それでは、お願いします」
「任された」
自分から言い出したことだが、緊張する。自然と敬語になってしまった
「突然の
おお、と
朗々たる声が鳥居の中に吸い込まれていく。しん、と静まり返った境内に
「
――其の方は。
「葉山さんの知人です」
無感動な瞳のまま、石像から声が響いてくる。
――知る辺が何用か。
「
石像からは返事がない。
「あの人の気持ちは、あなたが誰よりもご存じのはずです。お願いします、
もう一度頭を下げた瞬間、鳥居の向こうから真っ直ぐな光の線が走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます