求神案内(4)
そんな椿の移動の他にも、
祠の参拝と掃除がそうだ。人の信仰から生まれた
打ち明けてもよいかもしれない。長いこと大事にしてきた神様が本当にいるのだと知ったら、さぞ喜ぶことだろう。きっと、信じてくれる。だが、見えない相手を紹介するにはまだ躊躇いがあった。
「それでいい。見えぬ者に無理矢理言う必要はない」
「俺には信じられないかとか言ったのに?」
「お前は見えただろう。変化の術を解くところも目にしていた。それでいて、いるわけがないなどと言うからだ」
武士から少年の姿に戻ると、
「今日はどこか行くのか」
「午後から
「あの眼鏡か。勉学に励むのはいいが、時には遊べよ。引きこもっているともやしになるぞ」
「分かってるよ。その後は町を散策する予定を立ててる。まだ道とかよく分かっていないから、覚えたいんだ」
箒を手に
「君も来る?」
「いいのか」
「サイクリング日和だ、振り落とされないようにね」
「扱いの荒い奴だ。受けて立つ」
***
いってらっしゃいと笑顔の祖母に見送られ、
先日まで満開の花を咲き誇らせていた桜並木も、今は緑葉になっている。薄紅色でいっぱいになったあの光景が懐かしかったが、これはこれでいいものだと
「物知りなんだね」
「伝聞だ。直接見たことはない」
「そうか。じゃあ、いつか一緒に見に行こう」
そうだな、と言う声が春の陽気に溶けていく。前髪をそよがせる風に目を細めながら、
待ち合わせ場所は学校の寮前だった。到着と同時に、建物から出てくる人影が見える。門越しに手を振ると、こちらに気付いた様子で少し急ぎ足になった。
「
「いや、ちょうど今来たところだよ」
「ならよかった」
開門とともに現れたのは、
幼稚園の頃から今までずっと同じ学び舎にある彼は、仲の良い友人の一人だ。
自転車に跨がった
(ここにもう一人いるんだけどな)
同じような思いをしている人間が他にもいるのだろうか。たまたま、縁が結ばれただけの自分は漫画やアニメのように不思議な力に目覚めたり、それを使って戦ったりする機会はなさそうだ。別に望んでいるわけではない。ただ、同じ景色が見られない寂しさをこうした時に感じるだけ。
「よし、今日はあいつにするぞ」
「え?」
ぼんやりと考え事をしていたせいか、
「
「ごめん、なんでもない。行こうか」
「ああ」
取り繕った笑顔だったが、
「お前、あまり気を抜いていると変人扱いを受けるぞ」
誰のせいだと思っているんだ。
その言葉を飲み込んで、
***
図書館の自習室は閑散としていた。貸し切り状態の中、二人は学校から出た課題に取り組んだ。その間、
「お前は大変だな。よく分からん異国の字を連ねたかと思えば、今度は算術を始めた」
邪魔をしないようにすると言っていた
「厳しい表情をしているが、苦行なのかそれは。眼鏡は涼しい顔で進めているぞ」
“考えてるんだよ、別に嫌なわけじゃない。あと、
「なるほど。妙な貫禄があるわけだ」
“貫禄?”
「爺むさいだろう。お前より年上に見える」
そうだろうか。落ち着き払っているとは確かに思うが。
「お前が餓鬼くさいだけやもしれん。悪かったな」
思わず
「トイレに行ってくる。どうした、随分と難しい顔だ」
「あ、いや……」
「最後の問題は計算のコツがある。遠回りせず答えを導き出せるんだ。ほら、ここ」
「あ、これを置き換えれば」
「そう。解きやすくなる」
「本当だ、ありがとう。流石だね、
「そんなことは。僕でよければいつでも力になる」
そう言い置き、去っていく。できた奴だなと
***
二人が通うのは、この地域唯一の進学校だ。人口が少ないので子どもの数も少ない。よって、学校も限られていた。わざわざ山を越えたのも希望進路に沿ってのこと。
共同生活は大変なこともあるが、その分楽しさもあるらしい。無事に課題を終えた二人は、町中を走りながら会話をしていた。
「騒がしいけど、そこそこ上手くやってる」
「うん、面白そうだ。洗濯機の取り合いとかあるんだって?」
「日常茶飯事だ。先輩だからって関係ないな、早い者勝ち」
洗濯後も大事だ。油断して放置していると、籠に放り出されて靴下が片方なくなったりする。他にも……。
「ここ、学校への近道だ」
「よかったな。明日から時間短縮できる」
「うん、収穫だ」
全く見知らぬ土地ではないのだが、こうして改めて回ってみると見つかることが出てくる。途中で発見した本屋は、駅前のそれと比べるとこじんまりとしていたが、明るくさっぱりとした雰囲気があった。
雑誌コーナーで、少女が二人、控えめながらはしゃいだ声を上げている。表紙を指して、「ユウくん」が載ってると嬉しそうにしていたが、ちらりとそれを見た
「あの人、うちの卒業生だ」
「そうなの?」
「寮で見た。歴代の卒業写真が貼ってあって、そこに」
「へえ、よく覚えてるね」
「ものすごくモテていたらしい。今の三年生が恨めしそうに言っていたから、面白くて印象に残っていた」
「なるほど」
確かに整った顔をしている。何より、華やかさがあった。イケメンというやつかと
「
「表紙デビューだって! すごいね!」
老人はどうやら店主らしかった。そうだねえ、と穏やかに笑って相槌を打っている。そのまま雑誌の購入を決めた少女たちに、これはどうもと頭を下げた。会計後、また来るねと手を振って二人は帰っていった。
「孫なんですよ」
少女たちを見送った老人は、
「読者モデルをね、やっておりまして。今回、光栄にも雑誌の表紙に載せていただけたようで」
ついつい、表の方に並べてしまいました。爺馬鹿の極みです。
後頭部に片手を当てて笑う姿は、ほのぼのとした気持ちを
「
「ん? 楽しいよ」
「そうか」
ならよかった。
頷いた
“爺むさい”
***
日暮れにはまだ少し時間がある。何か活動できそうなことはないかと、
人間が使うネットワークにそんなものを載せていいのかと思ったが、それこそが狙いなのだと
このサイト、実は閲覧者によって見え方が変わるらしい。一般人には何の変哲もないページに、見える者には見えるレベルでの
検索スタート。地域指定をすると、驚くほどに数が減る。付近1キロメートルとなるとまずゼロだが、
“三十メートル先、二十代男性より、
「神様に会いたい……?」
怪訝な顔で
「
「え……?」
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