第11話電気の利用価値も分らない奴に教える事は無い!

翌朝、ドアを叩く音に起された。

随分早くにきたものだ――そんなに技術とやらが欲しいのかね?


ちなみにエルミューラには、朝から客が来る事は伝えてある。

城から出ていない筈の勇者が、幼女を連れ込んでいたら――怪しまれるしね。



「はい。今開けますね」


俺は手に持った魔道具に向かって『オープン』と唱えた。

鍵は開き、ドアが開く。


「おぉ、勇者殿――本日は顔色も良く何よりで御座います」


昨晩、帰ってきたら扉の前にパンが2個置いてあった。

そのパンを食っただけで、顔色が良くなったと思われているらしい。

あんな物で顔色良くなるなら医者はいらねぇよ!


「ええ、おかげさまで……」

「それでは、こちらが用意するように言われた物になります」


そう言ってテーブルの上に、レモン2個。真鍮の釘10本。針金30cmを置いた。

さっさと見せて帰ってもらおう。


俺は無造作にレモンに釘を差し込んでいく。

5本を平行に指し終わる。

左右の釘を右端は右端、左端は左端でワイヤーで繋ぐ。

最後に、左端と右端の釘に長いワイヤーを繋いだ。


「はい。完成です」

「ほぉ?これが何か――」


何か呆気に取られている様なんだけど……。

これ知っている人は知っているよね?

レモンの酸によって釘が酸化しだして電気が流れるって奴なんだけど――。


「これはこうやって使います」


俺は机の上に、外から拾ってきた枯葉を置いて燃えやすい様に粉々にした。

そこに両端の釘から延びている長いワイヤーを枯葉の中で交差させてショートさせる。

やがて煙が出だし――枯葉に火が点いた。


「この様に火を点けられます」

「………………………………」


しばらく放心していたミラー伯爵は――。


「生活魔法で火を点けた方が早いですな――」


そう言いやがった。


「そうですね……これを改良すれば明かりも灯せます」

「それも。光魔法があれば――」

「そうですね」

「いやぁ~珍しいものを見せて頂きました。私は用事を思い出しましたのでこれで失礼致します。あ、余ったレモンはお召し上がりになって頂いて結構ですので……」


そう言って足早に城へ戻っていった。



帰り際に見せた視線は――使えない勇者だ!

そんな言葉を盛り込んだ様な視線だった。


「馬鹿な奴だ――これの発展系が世界を変えると言うのに……」

「旦那様は楽しそうですわね」

「聞いていたのか……」

「それは――面白そうな事をなさっていたからですわ。これは雷と同じですのね……威力が大きくなれば、一瞬で人も死ぬのですわ」

「あぁ、そんな使い方はしたく無いけどね」

「そこに、あの貴族は気づかなかった」

「そうだ――これの凄さが分らない奴にはどんな技術を伝えても豚に真珠というもの……」

「面白い言い回しをされますのね。ふふっ、オークに真珠……気持が悪いですわ」

「そこは考えちゃダメだろうよ」


「所で、今日の予定は何ですの?」

「あぁ、飯を食ったら冒険者ギルドに行ってエルミューラの登録をする。その後は討伐依頼を受けて狩りだな」

「エルは、討伐を100年はしていませんでしたわ」

「何でだ?」

「はい。100年前に魔物使役のユニークスキルに目覚めたからですわ」

「ユニークスキルっていうのは新しく覚える事もあるのか?」

「ええ。偶発的にではありましたが……エルの場合は、魔物に殺されそうになった時に突然――お陰で助かりましたの」

「危機的状況になって初めて覚醒するみたいなものか……どんな要素なんだかさっぱり分らん」

「ユニークは意識して覚えられるものでは無い様ですわ」

「へぇ~その辺は追い追いだな。さっさと飯を食って出かけるぞ」

「はい。旦那様」

「その呼び方なんとかならないかなぁ~出来ればキラさんとか――」

「では、キラおにいちゃん」

「ぐはっ、桜の呼び方と違って何て新鮮で甘美な響きなんだ……」

「誰ですの?その桜さんって……」

「あぁ、俺の世界に残してきた俺の双子の妹だよ」

「そうでしたの……」


もう会う事の無い、妹の名前を聞いてしまった事に申し訳無さそうにしながらエルミューラは俯いて頭を下げた。

別に気にしなくてもいいんだけど――。

俺は結構、今の生活を気に入っているんだし。


昨日買った飯を食べ、二人で森の中を飛んで市壁の外へやって来た。


「俺が先に中に入るから、合図したら飛んで壁を越えてきて!」

「わかりましたわ」


俺は、光学迷彩で姿を消して壁を越えて周囲を窺った。

うん。誰も見ていない。

慣れない口笛を吹く。

すぐに壁を越えて俺が立っている場所にやってきた。


「上手く行ったね」

「簡単ですわね」


昨日と同じに、手を繋いでギルドに入ると――。


「あれ!キラ君ってお子さんがいたの?」


ウエスタンドアを開けて直ぐに、カウンター越しに座っているミリーさんから声をかけられた。


「俺がそんな歳に見えますか?」

「えっ、でも――」


俺とエルミューラを見比べ……頭を傾げた。


「俺まだ16ですよ?この歳の子が俺の子なら、俺が6歳くらいの時の子になりますよ」

「あ~それもそうだわね!じゃ~その子はいったい……」

「よくある話なんですが、お金を多く持った冒険者が奴隷商に行くって奴ですよ。」

「えっ、キラ君ってその位の歳の子が好みだったの?お姉ちゃんが可哀そう。多分、キラ君の事狙っていたと思うよ?」

「そうなんですか!それはいい事を聞きました」


「でも、まさかキラ君がロリコンだったとはね~」


「いやいや、違いますから。この子は冒険者に育てて仲間にするんですから」

「今から調教するなんて……中々やるわね!」

「だからそこから離れて下さいよ――」

「まぁ~いいわ。お姉ちゃんには黙っていてあげる」

「もういいですよ。それでスライムかゴブリンの討伐はありますか?」

「今は魔石が貴重だからね~両方残っているわよ!」

「取り敢えず、スライムの方をお願いします。多く魔石を持って帰れば銀貨2枚で買い取ってくれるんですよね?」

「そうよ。魔石の価格が高騰しているから低LVの冒険者達が張り切っていたわ。稼ぎ時だってね」

「そうですか――稼げる内に俺も稼がないと」

「それじゃ、はい。依頼を受領しました。じゃ、キラ君くれぐれも無理し無い様にね」


「はい。あっ、忘れていました。この子の冒険者登録をお願いします」

「ふふ、そんな大事な事を忘れるなんてキラ君もそそっかしいのね」

「じゃ~お名前と年齢をこの紙に書いて頂戴。説明はどうする?」

「キラお兄ちゃんに教えてもらうからいい」

「お兄ちゃんね!分ったわ。それじゃ~これが冒険者プレートね」

「有難うなのだわ」

「じゃ、頑張ってね」


俺とエルミューラは、ギルドを後にして普通に門から出た。

冒険者は、依頼で街を出入りする時には入場料が掛からないと遅ればせながら聞いたからである。


門を出て、人目に付かない場所まで来てから林まで一気に飛んだ。


「その飛行能力はエルの魔法より便利そうだわ」

「観察がショボかったからね~せめてこの位はね」

「おっと、そこの林が動いたぞ。この短剣を貸すからそれに魔力を流して倒してみな!」

「分った」


エルミューラは俺の狩り方を真似して、高さ3mから落下速度を利用して一気にスライムに突き刺した。


俺が心配する事は無さそうだ。


エルミューラを視界に納めながら、俺もスライムを狩りまくった。

まだお昼前だと言うのに――2人で合わせて45個の魔石を獲得した。

ゲームでお馴染みのアイテムボックスがあれば、温かい食事も、荷物にも困らないのに……。


そんな事を考えていたからか?


突然、頭の中を電気が流れた様な刺激が走り――。

不思議に思い、ステータスを覗いたら。

ユニークスキルが開花していた。


●鷺宮 煌


年齢 ――16

レベル―― 30(20)

生命力――1530/1530

魔力 ――2320/2320


力  ――180

敏捷 ――135


ユニーク――『神足通』『他心通』『観察眼』『虚空倉庫』『……』


取得魔法――『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』



あれ?知らない間にレベルもあがっているじゃん!

それよりも虚空倉庫ね……試しに使ってみた。

持っていた荷物を押し込む感じの動作をすると――。

今まで持っていた荷物が消えた。


「キラお兄ちゃん、今何やったの?」

「いやぁ~荷物持って歩くのは大変だなぁ~せめてアイテムボックスがあればいいな~って思っていたら、頭痛がして――ユニークが1個増えた」

「流石は勇者なのね。きっと勇者特性のお陰だわ」

「そうなのかな?ならいいんだけどね」



それでも昼飯は用意していないから、一度街に戻る事にした。


ギルドに寄って、最初に魔石を45個渡すと――。


「キラ君達凄いわね~午前中だけで金貨9枚も稼ぐなんて……ベテランでも中々居ないわよ?」

「運がいいだけですよ」


実際に運の影響は多い。

移動手段の他は、空から探しているだけで特にチートでも何でも無いのだから。

「午後も継続して狩ろうと思っているんですけど、まだ大丈夫ですか?」

「大丈夫って何が?魔石の数は100個や200個集まった所で値崩れは起さないわ。安心してドンドン狩って来てね!」

「それを聞いて安心しました。飯を食ったら再開しますね」



俺達2人はギルドを後にした。


昼飯は、この前も行った大衆食堂だ。

俺も。エルミューラも今日はシチューセットにした。

パン、サラダ。肉がごっそり入ったビーフシチューの様な料理だ。


小屋で食べている弁当は冷めていて味が落ちていたから、エルミューラも俺も美味しく頬張りながら食べた。

食べ終わってから、虚空倉庫の時間がどうなっているのかを調べないといけないから、お弁当を2個頼んだ。

俺達はお腹も落ち着いたので、食堂を出て、武器屋に寄る事にする。


エルミューラ用の武器を調達する為だ。


武器屋の扉を開けると――。


「おう、昨日は留守にしていたから悪かったな」

「いえ、昨日のお留守番はお嬢さんですか?」

「あぁ、可愛い子だろう!俺に似ずに良かったぜ!」

「はは……」


すげーリアクションに困る事言うんじゃねぇ~。

良く聞く会話の1シーンだけどさ……。

社交辞令なら、どこどこのパーツはお父さん似ですよね。

とか、言うじゃん!

でも似ていなかったら――リアクションに困らないか?

こんな強面の親父さんから、あんな可愛い娘が出来るなんて想像つかないわ!


「所で今日は何の用だ?」

「はい。この子の武器が欲しいんだけど……」

「おい、お前――こんなうちの子と大差無い年齢の子に何をさせているんだ!」


普通ならそう思うよな――。


「これ見てくださいよ――」


エルミューラの冒険者プレートを見せる。

プレートには討伐数がはっきり表示されているからだ。


「ほぅ!うちの娘と変わらないと思ったのは背丈だけって事か!」

「まぁ~そうですね」

「悪かったな、悪党が幼い子供を出しにして何か悪さを始めたのかと勘繰っちまったわ。がははは」


悪党って――あんた俺をそんな目で見ていたのか!

いじけてやるぞ!


「その討伐数だと、たんまり稼いでいる様だな。新しい剣でも買うか?」

「う~ん、俺はまだいいかな?今の剣で間に合っているからさ」

「そうか?ランクが上がれば何れその剣で倒せない魔物も出てくる。その前に買っといた方がいいぞ?今ならいい武器があるからよ」


目利きが確かな、親父さんの言葉に釣られてしまった。


「それじゃ~見せてもらっていいかな?」

「その気になったか!がはは、待っていろ。奥から持ってきてやる」


そう言って奥から1本の銀色に薄っすらと金色が混ざった剣を持ってきた。


「この剣は俺が鍛えた。この前の短剣では多分――切れないぜ!」

「へぇ~そんな良い物なんだ……でも高いんだろ?」

「そうだな……常連の誼で金貨2枚に負けとくぜ!」

「よし!買った!」

「毎度あり!そっちのお譲ちゃんにはこれでどうだ?」


親父さんが出してきたのは、振れば切れて、突けば奥まで突き刺さる。

所謂、レイピアの片刃になっているものを持ってきた。


「ちょっと振ってみな!」

「分った」


エルミューラがレイピアを構え、横なぎに振るった。


『ビュッ』という良い音がする。

それに何よりも、剣先が視認出来ない程に速い。

あんな速度で攻撃されたら――俺死ぬかも?


「いいみたいだな!」

「うん。いい感じだわ」

「親父さん、それくれ」

「あぁ、料金はさっきの剣を買ってくれたからただでいいぜ」


この親父さん、本当に商売が上手い。

この店儲かっていないんじゃ?

俺達は、金貨2枚を支払って、店を出た。


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