第12話他国の勇者は凄いですなぁ~

太陽の位置を見るとまだ頭の上にあった。


エルミューラの武器も購入した事で意気揚々と門を出た。

スライムの林までは飛行魔法で移動する。


「エルミューラ、さくさく沢山倒して大金持ちを目指そうぜ!」

「そうですわ。あの小屋ではお風呂も入れませんし……」

「金を稼いで風呂付の家を借りれば、今よりマシな生活が送れるだろう?」

「お金は必要ですわ。私もお金があれば奴隷に落ちる事もありませんでした」

「そう言えば、何で奴隷になったのか聞いて居なかったな……」

「聞かれませんでしたから――お聞きになりたいですの?」

「う~ん。今更感があるけど聞いてみたいかな?」

「愉快なお話ではありませんのよ?」

「そこはまぁ~読者の為にも……」

「仕方ありませんわね――。私は親を亡くし旅をしておりましたのですわ。そしてこの街にやって来た時には、一文無し。入門料を払えずにお腹を減らしてふらふらしておりましたら悪い男達に捕まってしまったのですわ。生憎、この見た目ですから危害は加えられませんでしたが……その代わりにあの奴隷商に売られたのですわ」


「えっと……突っ込み所が満載なんだけど、そもそも冒険者とかお金を稼ごうとか思わなかったのか?」

「私はこの歳まで一切、働いた事などありませんのよ?」

「それって――どっかのお嬢様だったって事?」

「貴族ではありませんが、お金はありましたわ」

「ご両親とかは健在なのか?」

「いえ、既に亡くなりましたわ。5年前に……」


「成る程ねぇ~。親が残したお金を使って旅をしていたらいつの間にか無一文で、この街に入って奴隷ね――エルミューラのスキルならいくらでも逃げられただろうに」

「飛んで何処へ逃げるのです?まだ死なない程度には食べ物をくれる奴隷商の方がマシですわ」


逞しいというか、やる気の感じられない人生というか……。

あれ?

誰かに似てないか?

えっ――俺にさ!


「何か、俺みたいな生き方をしているんだな……」

「お兄ちゃんは、まだ働こうとしていたから違うと思いますわ」

「そっかぁ~?似たり寄ったりだと思うぞ」


そんな話をしていると林に到着した。

昨日と同様に、3mの高さを飛び林が動いたら一気に攻撃。

楽な仕事だなぁ~ゲームではスライムなんて雑魚中の雑魚だもん。

LV1の狩場で延々狩るだけで大金が入るなら。

現代日本の若者は皆、冒険者になっているな!


エルミューラの方を見てみれば、買ったばかりのレイピアで降下しながら突き刺すのでは無く、文字通り薙ぎ払って倒していた。

あの狩り方をずっと続けたらこの林もすっきり綺麗になりそうだな……。


この作業は夕方まで続き――倒したスライムの数は過去最高を記録した。


暗くなる前に門を潜り、冒険者ギルドに……。


「こんばんは、キラ君。先日はごめんなさいね」


冒険者ギルドに戻ると、カウンターに座っていたのは……。

エリッサさんであった。


「いえ、エリッサさんがあれに気持をぶつけたくなるのも分る気がしますから。俺の方は気にしていないので――あの話は忘れましょう」

「そう言ってくれると助かるわ。それで今日からペアを組んだんですって?ミリーからの引継ぎで聞いたわよ」


ミリーさん、何を話しちゃっているんですかね――。


「ええ。お陰でスライムを68匹も倒せましたよ」

「それは――随分稼ぎましたね。他の冒険者の前では言わない方がいいですよ。嫉妬ややっかみが激しいですから」

「分りました。それじゃ、これが魔石です」


俺は、エリッサさんが出した籠に魔石を入れていった。


「数えますので少し待って下さいね」


コインカウンターの様な物でもあればいいけど、全部あの中で数えるのは面倒だろう。卵を入れるケースみたいな物があればいいかもね。


えっ?

俺が作れば?

嫌だよ。そんな面倒な事。


「はい。確かに68個ありました。1個に付き銀貨2枚なので銀貨136枚になります。大きいのは金貨で払っていいんですよね?」

「はい。それでお願いします」

「では、金貨13枚と銀貨6枚になります」

「明日も、同じ依頼を受けたいんですけど大丈夫ですか?」

「本当に、堅実にこつこつ狩りするのね」

「命の駆け引きは、あのガルムだけで十分ですから」

「若いのにしっかりしているわね――」


報酬を受け取った俺達は、ギルドを後にした。


「今日も風呂に入りに行くか!」

「お兄ちゃんは、あの湯屋が好きなの?」

「いやぁ~俺の世界は毎日風呂に入るのが普通だったからさ……」

「ふぅ~ん。綺麗好きな人の世界だったんだわ」

「人間の汗とか、髪の毛の油とか、衛生的に問題になったりするんだよ」

「この世界の人間は、3日位湯浴みしなくても平気ですわ」

「でもそれだと頭とか痒くなっちゃうだろ?」

「その為に、頭にオイルを塗ったりしていますわ」

「俺、あのべた付く感じとか、臭いが苦手なんだよね」

「本当に綺麗好きですのね」


そんな事で、今日も風呂に入りに湯屋へ行き――。

少女達に囲まれ綺麗にしてもらって湯船から上がった。


えっ?

抜いてもらったのかって?

まさか――エルミューラが待っているのにそんな事はしませんよ。

大きくなった息子ですか?

勿論、水をかけて冷ましましたよ!


湯屋の帰り道、虚空倉庫に入れていた弁当を思い出したんで、取り出してみた。

残念……虚空倉庫の中の時間も進んでいたようで、弁当は冷たくなっていた。


やっぱり温かい食事が食べたいので、今日はラミリーさんの酒場に行く事にした。


お店の扉を開けると――。



「いらっしゃい!お酒ですか?それともお料理?それとも……わ、た、し?」


後ろを向いた状態でそんな挨拶をされた。


「あら~キラくんじゃない。こっちに座って!ミリーから聞いたわよ。奴隷を買ったんですって?沢山稼いでいて将来有望だっていうじゃない」


凄いのね~と……。

何か、言葉に棘があったのは気のせいでしょうか?


「エルミューラといいますわ。お兄ちゃん共々宜しくお願いしますわ」

「あら、しっかりしたお子さんね。こちらこそ、ラミリーよ!宜しくね」

「それで、何かお腹に溜まるものを食べたいんだけど――」

「それじゃ~ちょっと待っていてね」


そう言ってラミリーさんは奥へ引っ込んでいった。

ラミリーさんの今日の服は、上は水色のブラウスに、下が薄い茶系のスカートを穿いていて如何にも街娘といった格好である。

でも、ミリーさんと同じ胸上まで伸ばした茶色でセミロングの髪はスカートに合わせているのか?良く似合っていた。

瞳もミリーさんと同じで青いし――2人同じ格好で並んだらきっと双子に見えてもおかしくはないだろう。


しばらく待つと、お盆に2人分の料理を載せてラミリーさんがやってきた。


「今日は、魚の煮物と、野菜の煮付け、それと最近隣の国で流行っているらしい。はっとという異世界の料理よ!珍しいでしょ。ゆっくり味わって食べてね!」


はっ、異世界の料理?

はっと――東北の地方の郷土料理じゃね~か!

隣の国も勇者召還して、それが東北の人って事か――。

何なんだいったい。


「あれ?お兄ちゃんどうしたの?お料理が冷めてしまうんだわ」

「あ、あぁ。じゃ食べようか……」


せっかく出してもらった料理だけど――隣の国に召還された勇者が気になって味が分らなかった。


今日は普通に料金を支払い、ラミリーさんのお店を後にした。



店から出て、一度市壁の外に出て。ぐるっと回って城の裏手へ。

俺1人だけならこんな遠回りしなくて済むんだけどね。

エルミューラは光学迷彩が使えないのだから。

仕方ないよね。


いつもの様に小屋に入って就寝した。


当然、エルミューラとは別々のベッドです。

寝ながらさっきラミリーさんから聞いた異世界の料理の話を思い出していた。

それにしてもはっととは――料理研究家でも召還したのか?

この世界に何があって何が無いのか、まだ殆んど分っていない。

まさか技術者とか科学者とか召還したんじゃ無いだろうな――。


俺の時代の人なら、俺の顔を見ればすぐSAKIのキラだってばれる。


はい?

自惚れがすぎるんですか?

そんな事は無いと思いますよ。

だって、俺――有名人ですから!


最終的に、俺は俺のやり方を貫けばいい。

そんな結論に達し――そのまま眠りに付いた。

夜中、少しだけ体が痛くなったが気にしないで寝ていたら……。

寝室のドアが開いて――エルミューラが入ってきた。


「どうしたんだ?まさか夜這い――なんて事は無いよな?」

「何を言っているのかしら、何故か体が痛いのだわ。何とかして欲しいのだわ」


何とかと言われてもな~俺が知りたい位なんだけど。


「それレベルアップの後遺症みたいなものだから、諦めるしかないよ」

「こんな痛みが来るなんて知らなかったのですわ。しばらくここで休ませてもらうのですわ」


そう言って、おれのベッドに潜り込んで来た。

ま~見た目だけなら幼女だから、俺の気がどうこう成るとは思えないけど、エルミューラって胸は普通に出ているからな……。


気をつけよう。



朝、寝汗をかいて温かい感触に目がさめた。

俺の腕の中にはエルミューラが居て、俺を抱き枕にして眠っていた。

これ、俺が起きたらエルミューラも目が覚めちゃうよな。

もうしばらく温かな余韻を楽しむか……。


はい?

何の余韻だって?

そんなの決っているじゃないですか!

エルミューラの胸が腕に当っているからですよ!

健全な16歳男子、こんなチャンス放って置くのは勿体無い!

別に、何する訳でもないしいいじゃないですか!


エッチネタはこれぐらいにして――。


暑さから、エルミューラが離れた瞬間に俺は起きた。


井戸に行き、冷たい水で顔を洗いタオルで顔を拭いていると、チビ伯爵がメイドを連れてトコトコ歩いてきた。


俺の元に来るなり――。


「おはよう、勇者殿」

「はぁ~おはよう御座います」

「ちょっと面白い話を聞きまして、勇者殿にお知らせしようと思いましてな」

「えっと……なんでしょうか?」

「いやぁ~お隣の国が召還した勇者殿は大変素晴らしいそうですよ。何でも電気という科学の力を使って、これまで夜は寝るだけだった王都の市民に明かりを齎し――そのお陰で1日の時間が長く使え鍛冶屋、細工師、裁縫の職についている職人がより長く働けるようになったとか……本当に素晴らしいですな。それを使えば貴重な魔石も必要なく安価で街全体が明るくなるのだとか。勇者殿も負けてはいられませんな。ははは」


「そうですか。それは凄いですね」


最後にチビが鼻の上に皺を寄せながら王城の方に歩いて行った。


「これは旦那様からの慈悲で御座います」


メイドがそう言って、またパンを1個だけ置いていった。


何が電気という科学の力を使ってだ――ばっかじゃねぇ~の!

昨日、俺が見せたのがその電気だっつーの!


何か、こうも噛み合わないと――やってられん。

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