第6話短剣と少女と陰謀
お姉さんを助けた後で、またいつもの森に来ていた。
人気の無い森の中、こっそり上空から近寄り――。剣で突き刺す。
地面に足を着けている訳では無いので、物音立てずに接近出来るのが、最大の強みと成っている。
まだ昼前だと言うのに、呆気なく10匹ものホーンラビットを退治した。
ギルドへ持ち込み、解体を依頼。
報酬の銀貨6枚を受け取り、昨日剣を購入した武器屋にやってきた。
「よぉ~また来たのか!その剣の使い心地はどうだ?」
昨日の今日で、親父さんは俺の顔を覚えていてくれた。
何だか、常連になった気分がして嬉しくなる。
「あぁ、最高だぜ!あんな格安で売ってくれた事に感謝するよ。それで、今日は解体用のナイフを購入しに来たんだけど……」
「俺の目利きがいいからな。当然だな――それで解体用のナイフねぇ~それなら、これなんかどうだ?材質は剣より良い物だ、切れ味は保障するぜ!」
「そんな良い物なら高いんだろ?」
「そうだな……今後ともよろしくって事で銀貨2枚でどうだ?」
「剣の5倍もするのか!」
剣よりも解体用の短剣が高すぎる事に疑問を持ちながらも、昨日の剣と合わせても銀貨2枚、銅貨40枚だ。
大人しく支払う事にした。
「有難うよ!これは、材料にほんの少しだけミスリルが混ざっている。魔力を通しながら解体すれば、ワイバーンの皮だって綺麗に切れるぜ!」
「そ、そんなにすげーのかよ!」
流石にワイバーンとか討伐するのは、まだ無理だが……。
それでも、ゲームをやっていれば竜系統の魔物を討伐するのは憧れだ。
「あぁ、これを作ったのは、俺の親方だからな。俺は普通の人族だが、親方はドワーフだ。あの剣より切れるぜ!だからって、その短剣で昨日の剣を切ったりはするなよ。剣がもったいねぇ~からよ。がははは」
俺は唖然とした。
この短剣で、剣が切れる?
そんな事――ありえるのか?
試す前に、俺はまだ魔力の使い方を知らない事に思い当たった。
「なぁ~魔力ってどう流せばいいんだ?」
「なんだよ、そこからか……。いいか、体から気を練って掌に集めるように集中してみろ。そうすりゃ~自然と魔力を流せる様になるさ」
言われた通りにやってみる。
意外と難しい。
「まぁ~後でじっくり練習してみろ!」
他のお客が来たので、俺の相手はおしまいらしい。
俺は、短剣を腰にぶら下げて近くの食堂に入った。
食堂は一般大衆向けの食堂で、店内は昼少し前だと言うのに、混んでいた。
「お客さん、相席でもいいかい?」
6人掛けのテーブルが6席、カウンターが10席もある広い店舗だが、ほぼ満席だったので、仕方無い。
相席でいいと伝え、店員のお勧めランチを頼んだ。
値段は、銅貨6枚。
意外と高いな――そう思ったが、出てきた質と量に納得出来た。
温かな、クリームシチューと、サラダ。それに400gはありそうなステーキ。それと真っ白でまだ温かいパンが出てきた。
「シチューと、ステーキの鉄板は熱いから、火傷しない様にね」
そう注意事項を述べながら、俺の目の前に並べていった。
日本のファミレスでなら、一般的だが……この世界では豪華な料理だ。
あの小屋で食べた冷め切ったスープ、パンに比べたら――。
涙が出そうな位、美味かった。
俺は、そんなに大食漢では無いが、大きなステーキも出された物は全て平らげた。
あまりの嬉しさに――。
銅貨6枚を、既に前払いで支払っていたが……。
チップにもう1枚追加でテーブルの上に置いて、店を後にした。
店を後にした俺は、ギルドに行こうと思ったのだが、街の上空に、煙を立ち上らせている建物に目が行く。
もし、俺の予想通りなら……。
駆け足でその建物に近づくと――。
建物に、まばらに人が入って行くのを確認。
中には桶を手で持っている人も居た事から、予想が当った事に喜んだ。
ウエスタンドアを手で押して中に入ると、右が青色の扉、左が赤色の扉があり、俺の後から来たおじさんが、立ち止まっている俺を避けて青の扉に入ったのを確認し、俺もそちらに入った。
扉を開けると直ぐに番台があり『銅貨2枚です』そう言われた。
俺が手ぶらなのを見て取った、番台に座るお婆さんは――。
「タオルが無いなら、レンタルなら鉄化5枚。購入なら銅貨1枚だよ」
この時代の、レンタルタオルなんて衛生的にどうなの?
そう思い、銅貨3枚を支払った。
奥の扉を開けると、脱衣場があり、一応、鉄の鍵が付いている。
冒険者用に剣も置けるような細長いロッカーもあったので、それを選び――
そこで服を脱ぐ。
裸になり、タオル1枚で陰部を隠し足元から湯気が立ち込めているドアへ。
ドアを開けるとそこは――。
少女数人が、裸の男達を寝かせて……。
何かの毛を丸めた、タワシの様な物を……。
箱の中に入っている、洗剤らしき物で泡立て――。
小さな手で、お客の体を隅々まで洗っていた。
俺と目が合った少女の1人が、ニコリと微笑む。
俺は慌てて、脱衣場に戻ろうと振り返ると、背後から……。
「お客さん、早くする。此処に横になって」
そう言われてしまった。
首を捻り、後ろを振り返るとニコニコ笑顔で手招きをしていた。
観念して、濡れたござの様な敷物の上に寝た。
すると、少女が小さな手で泡立てたタワシでゴシゴシ洗ってくる。
いやぁ~俺。
この時ほど、女に生れれば良かったと思った事は無いね。
柔らかな手で、体を洗われていれば、自然と息子も元気になる。
それを気にせず。
尚も、上半身、太もも。そして最後に陰部も両手で包み込んで洗ってくれた。
「お客さん。こっちの続きは銅貨20枚ね」
そう言われて、誰が断われましょう。
大人しく、ロッカーから銅貨20枚を持ってきて渡しましたよ!
その後、すっきりした顔でその建物から出たのは――。
言うまでもありません。
えっ?
少女としたのかって?
する訳無いじゃないですか。
手で、ごにょごにょして貰っただけですって!
何でも、この少女達は貧しい農村の子で、生活に困った家族を助ける為――。
こうして週に2回、通っているのだそうだ。
これは、貧しい家族を救うためのボランティアなんです!
やべ~この話、倫理協定に引っ掛らないよね?
即、打ち切りとか洒落にならん。
そんな事で、気分も一新、体もピカピカになった俺は冒険者ギルドへ。
カウンターには今日も、ミリーさんではなく……。
20代後半で胸が大きく、金髪をショートボブにカットした、エリッサさんが座っていた。
俺が近づくと、薄い水色の瞳を細め――。
「若い冒険者さんが、昼間からお盛んですこと」
うわ~嫌味言われちゃったよ!
俺だって知らないで入ったんだから!
仕方ないよね?
え、後半は……自業自得だろう?
それは、そうなんだけど――貴方なら断われますか!
あの状況で!
お金さえあれば、するでしょ?するよね?
「いやぁ~まさか普通の湯屋だと思って入ったら……知らなかったんですよ」
「あそこの少女達は、皆、家族思いのいい子達ですから。くれぐれも変な気は起さないで下さい。何かあったら――分かりますね?」
え、何があるの?
詳しくは分らないけど、エリッサさんの威圧に無言で首肯した。
このエリッサさん、他の冒険者が話していた話を盗み聞きした限りでは、旦那は元冒険者で、引退を目前に魔物に倒され命を落としたそうだ。
引退後は、2人で食堂でも開こうと約束していたらしい。
そんな訳で男女関係にも、依頼内容にも細かく、新人には特に厳しい。
「それで、今度は何の依頼を?」
「ええ、明日もホーンラビットを――」
「残念ですが、先日と本日の依頼で、しばらくその依頼はありませんよ。お受けになるなら、ゴブリンか?スライムが宜しいかと」
「ゴブリンは何処に居るんですか?」
「ゴブリンを選ばれるんですか?ゴブリンはホーンラビットの森を西南に行くと川があるのですが、その近辺で目撃情報がありました。でも貴方ならスライムの方がいいと思いますよ。ゴブリンは単体では活動しませんから、新人がソロで討伐するのは――お勧めしません。スライムなら、街を出て東の草原へ行けば数はこなせると思います」
それなら、最初からゴブリンなんて出すなよ!
そう思っても、流石にこのお姉さんには言えない。
だって、怒らせると壊そうだもん。
あの目がキツイ王妃よりも怖そうだ。
「分りました。スライムでお願いします」
「スライムでしたら、依頼数は10匹、討伐証明は魔石で確認となります。討伐期限は5日間となりますのでご注意下さい。報酬は魔石込みで銀貨20枚。尚、数を多く討伐されればその分上乗せになります。1匹に付き銀貨2枚です」
エリッサさんは、そう言って手元の書類にはんこを押した。
「随分、ホーンラビットと比べると高いんですね」
「スライムの討伐自体は安いのですが、魔石が貴重なので、殆ど魔石の買い取り料金です」
成る程、前に城の見回りの兵士に聞いた、魔石が高価っていうのは本当なのか。
「分りました。有難う御座います」
「では、お気をつけて。私共一同、無事の帰還をお祈りしております」
俺は、冒険者ギルドを後にした。
昨日、晩飯を買った弁当屋で弁当を買う。
弁当は銅貨4枚で、茶色いコッペパン2個と、肉入り野菜炒めだ。
既に陽は森の影に隠れている。後、1時間も経たずに暗くなるだろう。
俺は、光学迷彩を掛けた状態で堂々と、街の上空を飛んで小屋に戻った。
井戸水で手を洗い、弁当も食べ終わり寛いでいた。
既に周囲は暗い。
当然、小屋の中も暗くなった。
ベッドに向かおうと、手探りで小屋の中を歩いていると――。
小屋の外で、足音が聞こえた。
流石に、窓を開けたら気づかれる。
俺は壁に耳を当て、様子を窺ったが……。
足音は、遠ざかって行った。
軟禁しているから、様子見に兵でも寄越したのだろう。
そう思う事にしてベッドへ入り眠った。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ここは、とある貴族の屋敷。
「それでどうでした?」
「はい。勇者殿への食事は、もう2日与えておりません。流石に井戸の水だけでは、そろそろ限界かと思われます」
「明日の早朝にでもメイドに、パンを1つだけ持たせ、弱気になっている勇者に話しを持ちかけるのだ」
「それで上手く行くでしょうか?」
「なぁ~に、陛下はヒモなど見たくも無いと仰って――既に忘れ去られた者になっておる。利用価値を見出そうとしない陛下のなんとも愚かな事よ。我が掴んだ情報によれば、あの勇者の国では、我が国の最新型風車が900年も昔の物だと言うでは無いか。ならば、この国より900年進んだ技術、発想がいくら怠惰な者でも備わっていてもおかしくは無い」
「それを旦那様が引き出し、発展させる訳で御座いますね」
「うむ。そうじゃ。我の功績として歴史に残るだけで無く、我が領地も大きく変貌するであろう。金の卵とは……この事よ。がはは」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
煌を取り巻く陰謀が、始まっている事など、ベッドで熟睡している本人は夢にも思っていなかっただろう。
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