第5話初の報酬と剣とお姉さん

昨晩は小屋に戻ってから、井戸水で汚れを落とし、アロハシャツの中に着ていたTシャツをタオルの代わりにして体を拭いた。

ホーンラビットの死体は、血抜きをして、台所にあった保冷室に突っ込んだ。


腹が減ったが、食う物が無いのだから仕方無い。

ベッドに横に成りながら、今日の反省と明日の予定を立てる。


どうせ、ここには誰も来ない。

メイドが来ても、入り口に盆を置いて足早に戻って行くからな。

それなら、明るくなってから再度、ホーンラビットを討伐しに行って、倒せたら、昨日倒した分と合わせて肉を売りに行く。

今は少しでもお金が欲しい。

今日は結局、昼飯しか食えなかった。

それも……パンだけ。

お金を稼いで、普通の飯が食いたい。


後は、剣とか何か使える武器が欲しい。

流石に――果物ナイフでは、無理があった。

討伐数10が不可能なんじゃ?そう思える位――遠く感じた。

そんな事を考えている内に、今朝早起きをしたせいか?

いつの間にか眠ってしまい……。

気づいたら、朝になっていた。


さぁて行くか!

小屋の裏手にあるドアから出た俺は、そのまま低空飛行で森の中を縫うように飛ぶ。依頼を受けた当日は夜だった事もあり、期日は後4日だ。

それまでに後9匹倒さないと、登録料や罰金所の騒ぎでは無くなる。

何故か?罰金は報酬の75%。手数料が銀貨2枚合計で銀貨4枚と銅貨25枚の借金が加算されて、支払えない俺は――奴隷落ちになる。


まだ、ユニークしか魔法が使えない状態で奴隷なんてやってられねぇ!

何としても10匹討伐しないと……。

だが、昼まで森を駆け巡っても、気負い過ぎて空回りしてしまう。

あまりにも執拗に飛んでいるから、ホーンラビットが警戒した様だ。


昼飯が、小屋の扉の前に用意されているかも?

そう思い、一度小屋に戻ってきたが……何も置いていなかった。

結局、昨日の晩に持ってくると言っていた、魔石も無い。

餓死でもさせたいんですかねぇ~人の本当の能力も測れない癖に――。


取り敢えず、こっそり門番と守衛に見つからない様に、壁を越え、街の中に潜入した。

手に持っているのは昨日討伐したホーンラビットの肉。

道行く人に聞いて、肉屋に持って行くと、銅貨10枚で買い取ってくれた。

ちなみに銅貨1枚が日本円で100円。銀貨1枚が銅貨100枚だから……。

1000円で買い取られた計算になる。

問題は、物価が高いのか?

それとも安いのかだが……。


露天で、美味そうな匂いの肉の串焼きが売っていたので値段を聞くと――。

1本銅貨1枚だった。

当然3本、即買いしましたとも。

1本の大きさが、日本のバーのアイスクリーム位だったので、3本も買うとお腹一杯になった。

銅貨7枚は後の為に残しておいて……。

また森へ移動した。


お腹が一杯で、少しだけ余裕が出てきたからか?

簡単に、ホーンラビットは見つかった。

昨日と同じ様に、焦らず、ゆっくり降下して果物ナイフで突き刺した。

昨日逃げられたのが理不尽に思える位、あっという間に5匹倒せた。

小屋にあった縄で足を縛り、5匹を担いで冒険者ギルドに行った。

ギルドで解体出来ないか相談する為だ。


ミリーさんは、夕方からの出勤らしくまだ居なかったが、応対してくれた別のお姉さんの話では、解体料は魔物によって変動するらしく――。

まぁ、当然だよね。

ホーンラビットの場合は、1匹に付き銅貨5枚掛かると言われた。

俺のナイフでは角はもう切れないから、仕方無い。

肉を買い取ってもらい、その価格と相殺で解体を請け負ってもらった。

ここで、驚いたのが……肉屋に売った時は1匹が銅貨10枚だったのに、ギルドで売ったら、1匹銅貨15枚だった事だった。

俺は肉屋の主人に、かなり格安で買い叩かれた様だ。


うん。ここの常識とか知らない、俺が悪い。

次からは、ギルドに持ち込みしよう。

魔石と角が5個ずつ。

それと銅貨50枚を貰って、俺は武器屋へと向かった。


武器屋は冒険者ギルドの向かいにあった――。

中に入ると、壁に飾ってある高級品。

無造作に立てかけてある中級品。

まるで傘立ての様な木箱に、乱暴に突っ込まれている屑扱いの剣があった。

俺は、店の親父さんにホーンラビットの角か切れる剣が欲しい。

そう言うと……。


「おい、小僧……馬鹿にしてんのか!」

「すみません、昨日初めて冒険者登録して――このナイフでやっと6匹倒したのですが、最初の1匹目でナイフが使い物に成らなくなってしまって……」


そう言って、果物ナイフを見せると――。


「がはははは、済まなかったな。小僧。ホーンラビット相手にそんなに苦労している冒険者が居るとは――思わなかったからよ。うちの剣は、そんな玩具とは違うぞ。予算はいくらだ?」

「はい。銅貨40枚までしか出せないんですが……」

「駆け出しじゃ仕方ねぇ~な。ならこれなんか良いかも知れんぞ」


そう言って、傘立ての中から1本の古い剣を出してくれた。


「それは、業物ではあるんだが――作者が無名の為に売れ残ってたんだ。だが、切れ味も耐久も抜群に良い!これなら銅貨40枚で売ってもいいぞ」


俺は、即買いした。

プロの目利きを信じないで――何を信じる!

あれ?昼に肉屋の親父に騙されていたじゃん。


でも、これで依頼達成にかなり近づいた。

おまけで、腰に下げられるように古い魔物の革を使った鞘と腰紐を付けてくれた。

強面のおっさんのくせに、優しい。

俺は、親父さんに感謝しながらそれを受け取った。

もう夕方近かったので、弁当屋で焼肉丼を買って、竹の皮で包まれたそれを持って小屋へと帰った。

小屋の扉の前には、やはり何も置いては居なかった。


井戸から水を汲み、手と顔を洗って、まだほんのりと温かい弁当を頬張った。

夜は冷え込むから、明日体を洗う事にして――。

早々にベッドに潜り、爆睡した。

寝る時に、剣と貴重品は、ベッドの藁の下に隠して寝たので、万一誰かが来ても、それらの存在はバレ無いだろう。


翌朝も、早くに目が覚めたので井戸水で軽く体を洗って、意気揚々と森へ出かけた。

やっぱり、買ったばかりの剣を、早く試してみたいじゃない?

戦い方は、今までと同じだ。

昨日までの戦いが何だったのか?と思う位にサクサク狩れて……。

昼前までに、残りの4匹も退治し終わった。

これで依頼達成だ!


ギルドで4匹の解体を頼み、討伐証明の角も買い取ってもらった。

魔石は売っていない。


「依頼達成、おめでとう御座います。ホーンラビットの肉が解体手数料を差し引きまして銅貨40枚。依頼達成で銀貨3枚、ここから登録手数料銀貨2枚を差し引き銀貨1枚。ホーンラビットの角は1個銅貨20枚なので、銀貨2枚、全て差し引きますと報酬は銀貨3枚と銅貨が40枚になります」


おぉ!あの固かった角の買い取りが高い為に、一気にお金持ちになった。

日本円にして3万4千円。次回は登録手数料が無ければ、肉の買い取りと、角、報酬で銀貨6枚になる。

3日で6万円。日本でも中々の日給じゃねぇ?

俺の講義料に比べたらゴミみたいなもんだけどさ……。

えっ?

講義料いくらなのかって?

聞かない方がいいと、思うよ。

1回の講義で、日本人の平均年収の15倍位なんだから。

まさに左団扇って奴な訳よ――。

異世界では……王族のイジメが凄いけどね。


俺は、次の依頼もホーンラビットにして、食糧を買い込んで小屋に帰った。


ホーンラビットの魔石は、井戸の水で洗って綺麗にして保管してある。


魔石とは何なのだろうか?

ビー玉の様なガラスじゃなく――。

持った触感では、手にしっとり食いつき……。

中からは、熱を感じられる。

それで居て、光沢はガラス玉以上に輝いている。

これが何なのかと問われれば――分らない。

そう答えるしかないだろう。

だが、生きている感じがすると言われたら、納得出来るだろう。

今回の魔石は1つも売却して居ないから、手持ちに10個。

色は全て、薄い緑である。


少なくとも、この小屋で使えない事は分っている。

台所は火の魔石、水の魔石。

風呂も同様なのだから……。

しばらくは井戸の水で体を洗うしか無さそうだ――。

宿に泊れば?

寝る所があるのに宿に泊るのは、ちょっと無駄な感じがしたんですよ!

思わぬ所で、貧乏性を発揮しているようである。

普通に考えても見なよ?

自宅の風呂が壊れたからってホテルに泊るかい?

泊らないでしょう。それと同じな訳よ。

そんな話は、どうでもいいね。


寝る前に、考え事をしていて気づいたんだが……。

俺の剣、かなり格安で売ってくれたんだな。あの親父さん。

後で、お礼と解体用のナイフを購入しよう。


今日は、お腹を満たし、良い気分で早めに熟睡した。

こんな健康的な生活は、小学生の時、以来だな。

寝ていると、体が痛くて目が覚めた。

まさか病気か?

そう思ったのだが……自分のステータスを見て、何が起きたのか理解出来た。



●鷺宮 煌

年齢 ――16

レベル―― 3(20)

生命力――180/180

魔力 ――260/260


力  ――30

敏捷 ――15


ユニーク――『神足通』『他心通』『観察眼』『……』『……』


取得魔法――『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』


ホーンラビット10匹倒して、2LV上がっていたらしい。

LVの横の(20)が良く分らないが……。

明日も、討伐すれば分るだろう。


朝、目が覚めていつもの日課で扉を開く。

うん。何も無いね――。


もう少ししたら街へ出掛けて、中古の服を購入してから、ホーンラビットを倒しに行こう!

流石に、アロハってこの世界では派手で目立つからさ――。

何時、王族にバレるか分らないでしょ?

まだ、スルーされている内はいいけど、万一敵対したら……。

俺のステータスを見れば分るけど、それは今では無い。

何で、そんな事が分るのかって?

そりゃ~今日、すれ違った兵士を鑑定したり、他の冒険者を鑑定したら、大体、平均のレベルが20位だったからだよ。

如何に日本で運動してこなかった俺が――肉体的には弱いか、わかるね!


辺りも完全に明るくなったので、森から遠回りして外壁へ。

外から市壁を越えて、街の中へ……。

目的の服屋に直行した。

一応、目立たないけど、チノパンの代わりも購入した。

うん、どう見てもこの世界の住人に見える。髪の色以外は……。

街ですれ違う人の、髪の色は茶色、シルバー、金色、たまに赤。

居そうな感じはするけど、黒色の髪の人にはまだお目にかかっていない。

上着は、この世界で一般的な麻の服で、色は目立たないように茶色を選んだ。


そういえば……神足通の光学迷彩を試して居なかった事を思い出し――。

試しに、この前、冒険者ギルドへの道を尋ねた、酒場に来てみた。

だが――朝、早かった為に閉まっていた。

帰ろうと思ったら、お店の中から女性の悲鳴が上がった。

俺は、光学迷彩を発動させたまま――こっそり中の様子を窺う。


「な~いいじゃねぇ~かよ!いつもその可愛い尻を客達の目の前で振って、何にする?わ、た、し……とか誘っているのはお前の方だぜ!男に飢えてんだろ?なら俺が相手してやるよ。な~に、夕方の開店までたっぷり時間はあるさ」


冒険者風というより、もっと草臥れた格好の大男が、この前のお姉さんの手を掴み奥のテーブルに力ずくで押し倒していた。


「冗談じゃ無いですよ!私は接客のパフォーマンスでやっているだけで。死んだ彼氏に一途なんだから!」


あのお姉さんがその気なら止めなかったけど、そんな話聞いちゃったら――。

助けない訳にはいかないよね。


俺は、こっそり扉を開けて中に入る。


今にもズボンを下ろそうとしている男の股間を、真後ろから思い切り蹴飛ばした。

大男は『ぐぉ~お゛~』と言葉になっていない悲鳴を上げ、その場でひっくり返った。

俺は、男の顎を掠めるように足の先で蹴飛ばす。

脳震盪を起こし、気を失ったようである。


お姉さんは、何が起きたのか分らずにカウンターの奥へ入っていくと――。

竹箒を持って出てきた。

いやいや、そんな物じゃ倒せないでしょうよ!

どっち道、もう大男は気を失っちゃったしね。

それでも。余程襲われたのが悔しかったのか?

胸上までのセミロングの髪を振り乱して、男の胴体を何度も竹箒で叩いていた。


俺は、光学迷彩の効果が確認出来たので、解除する。

『きゃぁ~!』突然、目の前に人が現れたのだ……無理も無い。

今度は目を瞑って、俺の方に竹箒を振り回してきた。


「ちょっと、お姉さん。落ち着いて!」


俺が、彼女の混乱を宥めようと声を出すと――。


「へぃえっ~?」


何とも可愛らしい声を上げ、青い瞳をめいっぱい広げて、俺を見た。

数秒の間。お姉さんの体は時間が止ったかの様に停止し――。

漸く、俺がこの前道を尋ねた少年だと頭で理解出来たのだろう。

竹箒を手放し、乱れた髪を手櫛で整えながら声を出した。


「この前の――」

「ええ、そうです。偶然ここの前を通りかかったら、お姉さんの悲鳴が聞こえたんで……慌てて助けに入ったのですが……」

「ご、ごめんなさいね。私ったら……」

「仕方ないですよ。こんな事があったばかりですから」

「でも。助けてくれて有難う。お陰でこんな男に汚されずに済んだわ!」

「それは、良かったです」

「紹介がまだだったわね。私はラミリーよ!一応、この酒場のオーナー権、ウエイトレスね!」

「そうだったんですか。俺はキラといいます。先日から冒険者になりました」

「キラくんね!本当に助かったわ。この男、何度か客として来ていたんだけど、誘いがしつこくて、何度も断わっていたんだけど……開店準備中に突然入って来てね」

「成る程――これからどうするんです?」

「一応、暴行の現行犯だから、街の警備をしている兵士に突き出すわ」

「じゃ~縄で縛ったほうがいいですね」


俺は持っていた狩り用の縄で、大男の手足を縛った。


「何から何まで、本当に有難うね。このお礼は必ず――するから今度は、お店が開いている時にでも来て貰えるかしら?」


優しそうなブルーの瞳で俺を見つめ、少し首を傾げながら言われた。


「ええ、必ず。お姉さんに会いにまた来ますね」


そう言って、俺は店を後にした。

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