第4話イジメと冒険者登録とわたし


朝になって、俺は玄関の入り口を確認する。

まだ朝食を運んで来ていないみたいなので、運んで来るのを待つ事にした。


だってさ、流石に風呂に入りたいじゃない?

風呂の使い方が分らないのは、本当に不便だ……。

外を見ると曇っており、雲に隠れてはいるが陽射しの角度からまだ早朝なのは分る。

少し、早起きし過ぎた様だ……。

無理も無い。俺にとっては、昨日の様に早く就寝する方が珍しい。

こんな健康的な生活、ここ数年送って居なかった。

日本では毎晩遅くまで本を読み、異世界転移への道を探していた。

お陰で、昼まで寝ていたが――意味ねぇじゃん!


窓を開放した状態で待つが、人が寄り付く気配すら無い。

きっと、王族が食事をした後にでも運んで来るんだろう。

そんな希望的観測で、気持を落ち着かせた。

結局、陽が頭の上に来るまでゴロゴロしながら待ったが……。

メイドは来ない。

何やっているんだ!

流石に腹も空いてきたし、イライラしてきた。

王城に歩いて行こうと外に出た所で、昨日のメイドが盆を持って歩いてくるのが見えた。

次から朝飯抜かして、まさか昼夜だけとか言わないよな?

メイドが来たら、風呂とトイレ、台所の使い方も一応聞いておこう。

まもなく、メイドがドアの前まで来たので、声を掛けた。


「ちょっと聞きたい事があるんだけど?」

「何で御座いましょう?」


あぁ、良かった。普通に応対してくれるじゃん!

昨日の感じだと、スルーされちゃうのかとドキドキしていたよ。


「ここの風呂とトイレ、台所の使い方が分らないんだけど?」


俺がそう聞くと、少しホッとした表情を表に出していた。

何でだ?


「まず、トイレは便座に座って用を済ませたら、左に置いてある葉っぱで拭取ります。台所は、魔石が無いと使用出来ませんので、魔石を購入する事をお勧めします。お風呂は、井戸から水を汲むか、魔法で水を出し、火魔法で温めて使用します」


捲くし立てる様に一気に説明されたが、トイレ以外は魔法を使うらしい。


「召還されたばかりで、魔石なんて持っていないんだけど……」

「それでしたら、晩御飯の時にお持ちしますので、それまでお待ち下さい。それでは御用が無い様でしたらこれで失礼致します」


飯の乗ったお盆を足元に置くと、早々に立ち去って行った。

仕方無い、冷める前に先に飯を食うか。

そう思いお盆を持つが、出来たての料理を運ぶ時の、料理から漂う匂いがしない。

その理由は直ぐに分った。

テーブルに盆を置き、スプーンでスープを掬い口に付けると――冷たい。

これ冷たいスープが普通なのか?

もしかしたら、そうなのかも知れない。

そう思う事にして、パンを手に取った。

パンは昨日も焼きたてでは無かった為に、冷たかったが、昨日よりも硬い。

こんな中世っぽい時代のパンだ……こんな物なのだろう。

そう思ったが……次の煮物に口を付けた時にハッキリ理解できた。


あぁ、俺――虐めにあってるわ。


煮物も冷たかったが、煮物の中に虫が入っていたのだ。

それも、1匹、2匹ではなく。沢山。

出来たばかりの料理なら、虫も滅多に入らない。

だが、冷めるまで何処に放置したらこれだけの虫が入るのか?

それ程多く、虫が入っていたのである。


俺と妹が親を亡くしてしばらくして、必死に勉強する様になったら、学校の同級生から目を付けられて、虐められた事はあった。

でも、精々が靴を隠されたり、持ち物に落書きされた程度だった。

給食に、何かを入れられたりはしなかった。


それは、桜も同じだった様で、以降学校が嫌いになり――2人で登校拒否をして、独学で勉強を進めた。

それが、功を奏したのか?

俺も、妹も中学の卒業時には大学の博士号位の学力があり、お陰で研究も、発明も面白いように出来た。

俺達兄妹が、特許申請をすると多くの企業、大学から融資や共同研究の誘いがあった。お陰で、益々色々な研究をする事が出来た。

それの最たるものがご存知、重力無効化システムだった訳だが。


そんな話はどうでもいい。

流石に、スープを飲む気も無くなった。

パンだけ食べたら、外出しよう。

硬いパンを、井戸から汲んで来た綺麗な水で喉の奥に流し込む。

まるで……作業だな!

今日は、ジャムが付いて無かったから仕方無い。

どうせ、煮物と同様に置きっ放しにして、虫が集ったから持って来なかったんだろう。

台所と風呂は魔石と魔法が必要で……トイレが葉っぱ?

何だそりゃ。そんな時代背景なのか?

あ、でも江戸時代は紐でお尻を拭いていたとか資料に書いてあったな。

現代日本に生まれて、恵まれているから。

それだけでも、不愉快を通り越して、ムカつくな。


パンを食い終わった後、風呂、台所、トイレを見て回ったが――。

メイドが言っていた魔石を置く場所も、葉っぱすら見当たらなかった。


あ~馬鹿らしい。

さっさとレベル上げて、金稼いで出て行こう。

そう思い、城門へと歩き出した。


だが、城門まで来た所で――守衛さんに止められ、王様から許可を貰わなければ外には出られないと教えられた。

はぁ?城に入るのに厳重にするならまだしも……。

出さないって言うのはどういう事だ?

それにピッタリな言葉、俺知っているよ?

これ軟禁って言うんだよね!


頭に来たので、城の中へ入り玉座の間を目指して階段をあがって行った。

あれ、玉座の間って来客が来た時だけしか使わないんだっけ?

そんな事はどうでもいい。

取り敢えず、最上階へ――。

だが、最上階に上がる前に見回りの兵士に止められた。


「勇者様、あまり城の中をうろちょろされては困ります!屋敷へお戻り下さい」


こいつ、あの小屋を屋敷とか言っているし。

どう見ても小屋なんだけどね!


「風呂に入りたいんだが、あの小屋に魔石が無くてさ。何処に行けば手に入るか、ご存知で?」

「あの屋敷は魔石タイプでしたか――来客用なので私も知りませんで……。ちなみに魔石は非常に高価ですので、御自分で用意して頂く必要がございます」


では。と簡単な説明だけして巡回に戻っていった。


兵士に他心通を使うと――。


≪悪く思うなよ、勇者殿。王様からぞんざいに扱う様に指示が回っているからさ……。ヒモなんか呼んでしまった事実を消したいのだろうな。陛下は……≫


へぇ~そう言う――。

もういいや。

夜になったら神足通で、街へ繰り出そう。

そう決めてからは早かった。

小屋へ真っ直ぐに戻って、不貞寝して夜に備える事にしたのである。


そして夕方、扉を開けると……晩飯は無かった。

当然だよね、陛下の指示なんだからさ。

あ゛~イライラする。

最終的に、これで目的の物も無いとかだったら……。

この国、滅ぼしてぇ~。


アルメリア王国に対し、悪いイメージしかもう無い。

あの王女様だけだな……まともそうなのは。


天候が曇っていたお陰で、周囲が暗くなるのも早かった。

一気に、上空に飛び上がり街の方へと飛んでいく。

まずは、冒険者登録からだな。


街の中で、明かりが付いている場所を目指し、目的の手前で降下した。

俺が目印にしたのは、どうやら酒場だった様だ。

酒場の扉を開け中を覗くと、4人掛けのテーブルが8席揃えてある酒場だった。中からは、酒の匂いに混ざり、温かな料理の匂いも漂っている。


やっぱり料理って言えばこれだよな!

だが、生憎と金が無い。

俺に気づいた20代半ば位の女性が――。


「いらっしゃい!お酒ですか?それともお料理?それとも……わ、た、し?」


陽気な調子で挨拶された。

是非、最後のを……と言いたい所だが、金があればなぁ~。


「悪いんだけど、冒険者の受付とかやっている場所を尋ねたいんだけど……」

「あらぁ~残念。若い子なんて久しぶりだったのに……。冒険者ギルドならそこの大通りを真っ直ぐ正門の方へ歩けば左手に見えてくるわよ?」

「ありがとう。次はちゃんと注文するから」


俺も愛想良く接すると、ウィンクしながらペロッと器用に舌を出し……。


「絶対よ、待っているわね!」


そう言って見送ってくれた。


なんだ、市民は愛想も良いし、何だか楽しそうじゃないか!

さっさとこの王都から逃げ出そうと思ったが、この出会いで取りやめた。

俺より10歳近く年上だけどさ~仕草が可愛かったんだって!

いや、本当に。

女遊びとか、異世界で覚えちゃったりしてね!

寝たきりの母さん、すまん!

俺、不良になりそうです!


大通りを少し歩くと、左手にあのお姉さんに教えて貰った通りに、冒険者ギルドらしき建物が見えた。

ちなみに、らしいと言うのは、俺が抱いていたイメージに合致していたと言う意味だから。


西部劇の様な、ウェスタンドアを開け中に1歩踏み込む。

生憎と、カウンター前には人が居なかった為にお約束は無かった。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


そう言って俺に声を掛けてきたのは、20歳前後の若い女性で、茶色く長い髪を後ろで縛ってポニーテールにした可愛い子だった。まだ新人さんなのか、クリクリっとしたブルーの瞳をキラキラ輝かせながら挨拶された。


「冒険者登録をしたいんだけど……お金とか必要ですか?」

「はい。登録に銀貨2枚掛かります。ですが、村から来られた方など資金が無い方の為に、依頼料から天引きも出来ますから。今、お手持ちが無くても問題はありませんよ」

「では。宜しくお願いします」


ランクの説明と、昇格の際に必要な条件、依頼を失敗した場合の罰則の件、他にも細かく説明してくれた。

このお姉さんの名前はミリーさんと言うらしい。少しだけ話した雑談の内容では、今年からここで働き出した新人さんだと言う話しだった。

なんか、会う女性が皆、可愛い子が多いな。

あのキツイ王妃は例外として――。


早速、依頼ボードに書いてある紙を見てみたが――読めない!


自分が担当した責任感からか?それとも誰も受付に来ないからか、きっと――後者だろうけど。

ミリーさんが、どうされました?と言ってカウンターから出てきた。


「えっと、恥ずかしい話なんですが……」


そこ迄言うと、理解してくれた様で……。


「こちらと、こちらが初心者用の依頼で、ホーンラビットの依頼はこれ、スライムはこっち。ゴブリンはこれが依頼書です。初心者の人だと始めはホーンラビットの方がお勧めです。」

「じゃ~それでお願いします」


結局、ミリーさんお勧めのホーンラビットの討伐依頼にした。

期限は5日間。討伐数は10匹。報酬は銀貨3枚だ!

何処に居るのか聞いたら、俺が住んでいる小屋の森と続いている、街の左の森に出るらしい。

角が生えている為に、樵を家業にしている人達が迷惑しているらしい。

まさか、これから討伐に行きますとは言えないので。

明日、陽が昇ったら行ってみますと言って、ギルドを後にした。


さて、武器も無いけど――大丈夫かな?

取り敢えず、小屋にあった果物ナイフだけは持ってきている。

神足通で上空まで上がり、市壁を越えて森へとやってきたが……。

暗くて見えん。

当り前だよね……地球より小さな月が2つ浮かんでいても暗いのに、今日の天候は曇りだ。余計に暗く感じる。


高度を下げ地上3m位まで下りる。

下が辛うじて視認出来る程度の明かりの中を、飛び回り獲物を探していた。

すると、俺に気づいたのか?

『ガサガサ』と草の擦れる音が聞こえた。

目を凝らすと、勝手に鑑定眼が発動していて……。


☆ホーンラビット

LV3


HP 25/25

MP  8/8


雑魚の魔物



そう表示されていた。

何か、突っ込み所が満載なんだけど、今は逃げられる前に倒す。

敵の真上まで、上空からこっそりと移動し――ナイフを逆手に持ち、一気に降下した。

落下時の風の音に反応され逃げられた。


「くそっ!」


そう甘くは無いようだ。

もう一度、上空に上がって敵を探す。

5度の失敗の後、漸くコツを掴んで1匹目を倒す事が出来た。

討伐証明は角なので、角を果物ナイフで何度も削り、取れた時にはナイフの刃はボロボロだった。


「げっ!まさか1匹だけでこんなに成っちまうのかよ……」


刺すだけならまだ使えるが、角を削るのはもう無理そうだ。


「おっと、忘れる所だった。これを忘れたら意味がねぇ」


暗い森の中、独り言でも言ってないと寂しい。

惨めな気持全開だが、仕方無い。

ホーンラビットの胸を切り裂き、手を突っ込んで丸い魔石と呼ばれる石を取り出した。赤い色が炎の魔石。青が水の魔石。黄色が稲妻の魔石。白が光の魔石。緑は風の魔石。濃い茶色が土の魔石。黒は闇の魔石、稀に金色や銀色、数種類の色がマーブルになっている魔石もあるらしい。


ミリーさんから教えて貰った限りでは普通は4大元素の風、水、炎、土が殆どらしい。


もうナイフもボロボロだ……小屋へ戻って今後の事でも考えよう。


倒したホーンラビットの死体を片手に持ち、王城の裏側を回る様に、小屋へと帰った。

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