第2話あんたら何様のつもり?あぁ王族ですか!

俺の後ろにいた、白髪に白い髭を伸ばした老人が一歩前へ出てきて自己紹介を始めた。


「私は、この国の宰相でエリスティンと申します」

「あぁ、宜しく頼むぜ!爺さん」


宰相は少しムッとした顔をしたが、直ぐに表情を取り繕って素の顔に戻った。


何か、いけ好かねぇ爺だな。

さっき、他心通も通じなかったし。

そんな事を考えていると、エリーゼ姫から声を掛けられた。


「では、キラ様これから父である国王陛下と会って頂きますので、こちらにお越し下さい」


そう言って、通路を掌で指し示された。


流石、お姫様だな……一つ一つの動作が美しい。

あの細い指先と、しなやかな細腕の動作とか、桜に見習わせたい!

あいつ、どちらかと言うとガサツだからなぁ~。


姫さんの先を、騎士の1人が歩き、爺さん。俺。俺の後ろにはさっき剣を抜いた騎士が護衛する様に続いた。


さっき抜剣されたからさぁ~コイツじゃない人に後ろを任せたかったわ。

爺さんの後ろを歩きながら、通路をしばらく歩く。


地上に出ると、古代ギリシアのイオニア式の様な柱が並んで立っていて、この世界の建築様式が、地球でいうと――紀元前位なのはわかった。

あまり歴史とか興味無かったから詳しくは無いけどね……。


でも、すげー古くねぇ~?

こんな科学の化も無い時代で、俺にどうしろと?

そう思っていたが……中庭を通ると時代背景が一気に西暦1200年まであがった。流石に紀元前には水平軸風車なんて存在していなかった筈だ。


なんか。建築様式の歴史と他がぐちゃぐちゃだな。

俺は、自分の認識と異世界の違いに頭を傾げていた。


「どうかされましたか?勇者殿」


すると後ろの騎士から声を掛けられた。

別に、あんたと会話したい訳じゃないんだから!


放っておけよ!


「いや。水平軸風車があるんだな……そう思ってさ」

「勇者殿の世界にもおありですか?」

「あぁ、900年位前にあった代物だな」

「ほう。そんな昔ですか……あれはこの国の最新技術で作られたばかりの物なのですが……」

「へぇ~やっぱり歯車はインボリュート歯車を使っているのか?それと互いに素の組み合わせで歯車を作っているのか?」

「さぁ、私は技術者では無いので……」

「そっか――」


騎士と、こんな話をしても分る訳無いよな。


そんな話をしている内に、俺達は城の中心へと向う階段へとやってきた。

すげ~な……城の中央に螺旋状の石の階段が上へ上へと伸びているぞ!

この中央の螺旋階段を使えば、どの階へもこの階段だけでいける様に成っているみたいだが……敵に攻め込まれたら不味いんじゃ?


そう思った、自分の浅はかな考えを呪いたい!


階段を3階分位まで上ると、今度は城の外周を回るように移動しないと目的の場所に行けない様に成っていて――万一敵に侵入されても上の階から、弓や槍で簡単に攻撃出来る様に成っていた。


漸く目的の場所に着いたらしく、姫さんと宰相が、脇のカーテンで仕切られている扉から一足先に中に入っていった。


俺はと言うと、騎士2人に囲まれ、俺の身長の2倍はある扉の前で待機中である。扉の両脇には細かい花の刺繍が入った旗が飾られており、天井からも紫色の生地に贅沢な金色の刺繍が施された――タペストリーが飾られていてこの場所が特別な場所なのだと思い知らされた。


「謁見の間とは思えない豪華さだな~」


「何を言っている?ここは玉座の間だぞ。勇者殿」





「………………………………………………………………」


いやぁ~恥ずかしい。


てっきり謁見の間だと思ったら、玉座の間だってさ!


俺の時代に、観光名所以外でそんな場所ないから知らね~よ!


扉が少しだけ開き、中から外の騎士に合図が送られた。



「これより、勇者キラ殿、ご入場致します」



騎士が大きな声で中へ通達し、その後『ギギギギイィー』と言う音と共に扉が開かれた。

中を見渡すと――300坪位の面積の部屋の真ん中に赤い絨毯が敷いてあり、

両端には騎士、メイド、恐らく貴族、宰相、王族の順に綺麗に整列して並んでいる。

天井は高く10mはあるだろうか?上部には光が差し込める透明では無いが、ガラスの窓まで付いており、天井からは水晶のシャンデリアが吊るされていた。

電気は無い筈だからやっぱり、魔法で光らせるのか?少し興味が湧いた。


騎士2名の先導により、その後ろをゆっくりと前に歩き出す。

横に整列している騎士は、無言で鞘から抜いた状態の剣を右手で体の中央で掲げ、左手は腰に添えられている。


騎士達の練度の度合いが窺えた。


すげ~ここの騎士、中々のものじゃね?


そんな暢気な事を考えていると、前方のメイド達からは奇異の目で見られていた。

俺ってそんな変な格好しているかな?

今日は、講義だからまともな方だと思うんだけど……。

俺の今日の格好は、上がアロハシャツに下はブルーのチノパンであった。

更に進むと、貴族達がこそこそ噂話をしている間を通り過ぎる。

試しに、若い女の人に他心通を使ってみると……。


≪あれが勇者?伝承と違って弱そうな勇者ねぇ~しかもチビだし……こんな優男に頭なんて下げたくも無いわね!あっ、こっち見てる、止めてよね~あんたなんかタイプじゃないんだからキモイつ~の!≫


はぁ。見るんじゃなかった――。


宰相って何人居るんだ?少なくとも3人は居そうだな。

最初に会った、白髪で白髭の爺さんの他に、背が高くガッチリしたおじさんと、猫背でローブを被った顔は――良く見えなかった。

恐らく今の3人が宰相なのだろう。


次に王族が正面に並んでいる。

中央の椅子に座っているのが、国王かな?中年の威厳のありそうな顔付きで、銀色の髪はオールバックに上げていて、ブルーの瞳で観察する様に俺を見ていた。

体格は座っていても分る位にガッチリとしている。


王の左には、エリーゼより少し高い背に、金髪を腰まで伸ばした中年の女性で、

真っ赤なドレスの首元には、煌びやかな宝石を身に着けている。

恐らく王妃なのだろうが……細くきつめに見える緑の瞳で俺を睨んでいた。

何故睨む――何かやらかしたっけ?


王の右手には、背がかなり高い若い男性が立っており、金色の髪を肩まで伸ばしブルーの目は笑いを堪えている様に見えた。

おいおい、せっかくの正装が台無しじゃねぇ~かよ!


ここの男性王族の正装は、大昔に流行ったらしい宇宙を航行する船の艦長さんの様な格好をしていた。


長身の男性の右手には、エリーゼ王女がさっきとは違うピンクのドレスに、ティアラを頭に被って立っていた。

王女はティアラを被っているのに王妃は被ってないのか?


何でだ?


そんな事を考えていると――赤い絨毯が金色の絨毯に変わっている場所まで来た。


先導してくれた騎士はここで俺の後ろへと下がり、片膝を付いて頭を下げる。


ひな壇の様に高くなっている、台の上から国王が俺を見下ろし言葉を賜る。


「勇者キラ殿、此度の召還に応じてくれて感謝する。この国は他国との諍いは無いが、国がやせ細り、他の国に比べ技術力も乏しい。勇者殿には、この国を救って貰いたい。よろしく頼むぞ!」


成る程ね~それで技術者を想定した召還をしたら俺が引っ掛ったって事か――。

馬鹿らしい。


勝手にやってろよ!


でも、あの王女を貰えるなら考えてもいいな……。


そんな事を考えていたら……王妃からも一声掛かった。


「本当にこの勇者で大丈夫なのでしょうか?話ではヒモという職業らしいでは無いですか。その様な者――役に立たないと思いますわよ」


王妃のその発言で、周囲がざわつく。

この王妃、俺を敵対認定しやがった。

すげ~むかつく!


力を付けたら……さっさと逃げ出そう。


周囲がざわつき、国王も困惑顔を隠せていない。

エリーゼ王女は、申し訳無さそうな表情で俯いてしまった。

王子は……笑ってやがる。

最初から、王女との話を聞いていたから目が笑っていたのか。

王子に他心通を使ってみた――。


≪いやぁ~エリーゼもとんだ勇者を召還しちゃったな……後で慰めるとしようか。にしても、本当に弱そうな勇者だ……まぁ武力を求めて召還した訳じゃないからこんな者が来ても仕方無いのか?≫


ふ~ん。


まぁ、似たり寄ったりな訳ね。

人は見かけじゃね~ぞ!

日本だったら……。


あ、ここ日本じゃ無かった……!


ここで国王より俺に、質問が飛んできた。


「勇者キラ殿、そなたは技術者で相違あるまい?」


まぁ、技術者って言えば技術者か……。


「はい、その通りで御座います」

「おぉ。ではこの国にどんな技術を齎せる事が出来るのか、少し説明しては頂けませんかな?」

「私の技術を公表する以前に、この国で現在どの程度の事が出来て、何が出来ないのかを知らなければ、私がこの国で出来る事も変わって来るかと存じますが……また、私の世界で取れて、この世界では取れない物もあるかも知れません。それによって大きく変わると思います」

「確かに一理あるのぉ~では、勇者殿の世界で、どの様な結果を残してきたのかを教えて下さらんかな?」


そう来たか……どうせ説明したって嘘付きとか言われそうだけど――言うだけ言ってみるか。


「はい。まずは一番大きな物では、空を自由に飛べる乗り物を開発致しました。また、それに伴い、星間航行の出きる船を設計致しました」

「空を自由に飛ぶ乗り物とな?」

「はい。人を乗せて遠くまで運べる乗り物で御座います」

「空は竜やワイバーン、鳥の領域。その様な戯言、余が信じると思うか?」

「信じる、信じないを論議しても意味は御座いません」

「そなたの職業は、ヒモだと申したそうではないか?」

「はい。毎日部屋でゴロゴロ寝てばかりの生活ですが?」


国王は、うんざりした顔を隠しもせず、まるで犬を追い払うかの様に……。


「もう下がってよい。そなたと会うのは今日で最後となろう」

「では。失礼致します」


周りが、先程以上に騒がしくなった。


その中を、騎士に先導され退出していく。


あれ?ちょっとやりすぎた?


入場して来た時は、静かだったメイドや騎士達も今は隣同士で会話を始め……その話題は当然、俺の話だった。


≪国王様の御前で平気で嘘を付いたぞ……こんな勇者、役に立つ訳が無い!国外へでも追放した方がこの国の為じゃね~のか!≫

≪弱そう以前の問題ね~もう最悪。なんで王女様もこんな奴を異世界から呼んじゃったのかしら――≫

≪何が空を自由に飛べる乗り物だよ!嘘を付くならもっとマシな嘘を付けばーか!≫


すげーな……他心通で適当に心を読んだらこれだよ!

俺、暗殺とかされちゃわないよね?

レベル1だと身の危険しか感じねぇ。

やっぱこっそりレベル上げるしか手は無いな。

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