天才科学者の異世界生活~だからヒモだっていったじゃん!~

石の森は近所です。

第1話ようこそ勇者様~俺ヒモだけど……。

西暦206X年。


今まで、地球の重力に苦しめられてきた人類は、若干15歳という、若き天才の双子が発明した重力無効化システムにより、重力に左右されず、空を自由に飛ぶ乗り物を開発。


ロケット燃料を必要としないこのシステムは、人類の星間航行を飛躍的に進め、ジェット機などと言う化石燃料に頼った乗り物は最早衰退し――。富裕層や海外と取引のある企業はコントレーラーと言う箱型のキャンピングカーの様な乗り物を自前で購入し、行く先だけ指定すれば――2020年に開発、確立された量子コンピューターによる高速演算によるシステムで、世界中の航路が管理され目的地まで安全に且つ自動で運んでくれる様になった。


勿論、一般の旅行を目的とした人を対象とした輸送システムも確立され、大型コントレーラーによって快適に、短時間で海外へ旅行出来る程、大幅に技術力が向上、発展していった。



その、若き科学者2人は、それぞれの名前の1文字を取って"SAKI"と呼ばれ、世界中の科学者が挙って教えを乞うたが……。



技術を公表し、特許申請した時からマスコミに引っ張りだこになった彼等も、連日のTV出演や取材には、流石に嫌気を差し――以来、永遠に表の舞台から姿を消した。






ここは、日本にある某島。


SAKIの2人が、現在居住している島である。


「……この様に空の青さを説明するレーリーの法則を量子論で導出しなければいけません」


まったく、なんで俺がこんな初歩の話を教えないといけないんだ?

煌と書いてきらは、今朝の妹からの依頼を断われなかった自分に対し、腹立たしく感じていた。


事の始まりは、朝いつもの様に起きて、顔を洗い、さぁ!

部屋でネットゲームでもしよう!

そう思い部屋へ向おうとした矢先に……。

妹であり、共同研究者の桜から発せられた一言。


「おにい、今日から異世界転移実現に向けた生徒を育てる講義が13時からあるから、ちゃんと何から教えるのか、今から考えておいてね!」


そう言われた事で、俺の予定が変わった。


いや、狂った。


桜の話では、この生徒達を育成すれば、夢の異世界転移構想も実現出来る。

そう言い切られたが……どう見ても俺より随分年上じゃねぇか!


教壇から自分の講義を聴いているのは――。


頭の禿げあがった親父。



…………。



髪の毛が真っ白なお爺さん。



…………………。



皺の多いおばさん。



………………………………。



なんだ?



これ?



いつからここは老人ホームになった?



こんな年寄り連中に、ベクトル空間とかスペクトル理論とか説明して……。

本当に理解出来るのかよ!


ヒルベルト空間論とか知っている訳?


「はぁ~流石に、あれの為に異世界に行くのが目的だけどさ……こんな」


年老いた生徒達に、聞こえないように壇上で愚痴っていた俺は、足元が光っている事に気づいた時には――既に遅かった。






   ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞






1ヵ月後――


「では、これより勇者であるキラ殿の処刑を執り行う!」


俺の体は、魔法の鎖で雁字搦めに縛りつけられ――うつ伏せに寝かされている。


首は、首の形に凹んだひんやりとした木の型の上に乗せられ――。

体の自由は利かず、目の玉だけが自由に動かせた。


目線を上げると、その先には娯楽に植えた大衆達の罵声とニヤケ顔。


左を向けば、貴族達が口に扇子を当て、目が笑っているのが見受けられる。


右を見れば、王様と、俺を召還した王女が悲しそうな顔で見つめている。


俺の首の上には、紐で落下するのを抑えられているギロチンが……。


はぁ~日本では超優秀な科学者の俺が、何でこんな目に――。


残してきた妹の桜は元気かなぁ~。

あいつなら、俺が居なくても平気だろうけどな。


俺が、寝かされている壇上に続く階段を、上がってくる騎士の鎧の擦れる音が聞こえる。


『シャカン、シャカン――』


この音が静かになった時が、俺がこの世界とお別れする時だ。


そして……。


音が消え。


大衆の罵声も静かになる。


騎士が、鞘から剣を抜く音だけがはっきりと聞こえた。


『シャーン』


静寂の中に、金属の甲高い音だけが響き渡る……。


目の前の大衆が、息を飲み込んだのが気配だけで分った。


騎士が息を飲み込んで、腹に力を入れ踏ん張る。


騎士は、振り上げた剣を、ギロチンの落下を抑えていた縄に向け――。




一気に振り下ろした。





   ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



1ヶ月前……。




「おお!成功しましたな。姫様」

「えぇ、これで我が国も安泰と言うものです」


えっと、何が起きた?


教壇に立っていた筈だが、ここはいったい……。


薄暗い部屋だが、部屋の角にはローソクが立っていて、全く見渡せない訳では無さそうだ。


辺りを見回す。


どうやら古くカビ臭い、石室の中に俺はいるようだ。

俺、いつピラミッドの中に入ったんだ?

考古学は専門外なんだけど……。


恐らく地下なのだろう。ヒンヤリとしていてまるで冷蔵庫の中にでも入っているみたいに涼しい。

講義をしていた部屋が、ガラス張りの部屋で、しかも季節は夏真っ盛り。

暑かったから半袖を着ていたのだけれど……この格好では正直寒い。

何か用件があるなら早く終わらせて帰ろう。


この部屋の中には5人の人間が居た。


俺。中年で白髪の老人。若い女。鎧を着た、騎士風の格好の2名だ。


「なぁ、そこで盛り上っている所悪いんだけど――ここは何処だ?」


一番手前にいる、銀色の髪をグラデーションボブにカットした――柔らかい青の瞳が印象的な華奢な美少女に声を掛けた。


俺に、声を掛けられた事に気づいた美少女は、視線を老人から俺の方へと移す。


「これは、失礼致しました。ようこそ我がアルメリア王国へ……勇者様。私はこの国の王女でエリーゼ・アルメリアと言います。これからの永き年月、何卒よしなに……」


薄い青のドレスを纏い、お腹の下辺りで両手を重ね、ゆっくりと腰を折りながらそんな事を言われた……。


アルメリアなんて国、知らねぇぞ!それにコスプレかと思ったが、その自然な所作は昨日今日で培われた模造品とは一味違う。


これ、純粋培養のお嬢様じゃねーか!


「何から突っ込んだらいいか、分らないんだけど……俺の名前は鷺宮煌だ。キラって呼んでくれていいぜ?」

「分りました。キラ様。困惑は当然かと存じます。私共の身勝手でキラ様を召還させて頂いたのですから。この国で出来うる限りの待遇でお迎えしたいと存じます」


出来うる限りねぇ~。


俺、日本では講義さえ無ければ引き篭もりだったんだよね。


「所で勇者って何?」

「はい。勇者様は、異世界より召還によってこの地においで下さった人の略称で御座います。勇者の方々は皆、ユニーク魔法が最低でも一つは所持されておりまして、その力によって召還した国々を救って下さるのです。今回は我がアルメリア国を、主に技術面で救って頂く為に、こうして召還致した次第で御座います」


へぇ~俺が研究していた異世界に逆に召還されちまったって訳だ。

試しに、心の中でステータスと思考してみる。


●鷺宮 煌

年齢 ――16

レベル―― 1

生命力――80/80

魔力 ――100/100


力  ――30

敏捷 ――15


ユニーク――『神足通』『他心通』『観察眼』『……』『……』


取得魔法――『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』


なんだよ――取得魔法が無しばっかじゃねーか!

しかも神足通、他心通とか仏教の六神通かっつーの!


まぁ、最悪日本に戻れなければ、あいつが何とかするだろ――。


しばらくこの異世界での休暇をエンジョイするぜ!


「俺、前職がヒモなんで――期待しないでね!」

「えっと……ヒモとは何で御座いましょうか?」


ちっ、そこからかよ。


「そうですね、働かず、養ってもらう人間の事ですよ」

「それ人間なのでしょうか?ペットなら分るのですが……」

「そう!そのペットの様に生きる男の事をヒモと言います。召還したのは貴女方の方です。宜しく面倒を見てやって下さいね!」


エリーゼ姫――表情隠せてないよ!

完全に困惑していますって顔が何気に可愛いな~俺タイプかも?


思わず、一歩前に踏み出し肩を抱こうとしたら――。


『シャーン』


静謐な空間に似合わない金属の音が響き……。


次の瞬間には――。


首に、剣先が突きつけられました!


「いや、これ冗談だから!」

「今、勇者殿は姫様に、触れようとされませんでしたか?」

「しない、しない!それ勘違いだから!」

「以後、お気をつけて……万一にも姫様に触れる事があれば――如何に勇者様でも殺します」


剣先を、顔の先に突きつけながら――そう言われた。


流石に、夢の異世界生活、初日で早くも殺されたんじゃ割にあわねぇ!

しばらくは、大人しく観察しとくか……。


そして何気なくエリーゼ王女を見つめると……。


≪この勇者様、今何しようとされたのかしら?まさか私が欲しいとか……きゃぁ~私まだ殿方とダンスも踊った事が無いのですよ。恥ずかしいわ~。それにしてもヒモとは……その様な職業は聞いた事が無いのですが。でも召還したのは私なのです。しっかりと責任を取らねば成りませんね!≫


なんだ?


これ?


口が動いていないから、心の声という奴か?

ユニークスキルの他心通って使えるな……。


さっきの騎士の心も覗いて見るか――。


≪それにしても、さっきは危なかったな……あれでもし勇者殿を俺が殺していたら、後できっと俺も処刑されたんだろうな。まったく……心配事を増やすんじゃねぇ~よ≫


更に隣の騎士のも覗いてみる。


≪早く帰りてぇ~な……クッパちゃんのお店閉まっちまうんじゃ?あそこランチの時間が短いんだよな……≫


更に。白髪の老人を……。


≪………………………………………………≫


あれ?この老人だけ心が読めねぇ。


こんな事もあるのか?


まぁ、仕方無い。王女は悪い人では無さそうだし。


しばらく厄介になりますか!


上手く行けば、目的の物が手に入るかも知れないし……。

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