第29話:インフルエンザと癌(202301-03)

 2023年の年が明けた。今年は寒い日が多く東京でも雪が降る日が増えた。山下さんが風邪を引いて、熱が出たので、救急病院に担ぎ込まれた。診察の結果、B型の

インフルエンザとわかった。幸い、老人シェアハウスで流行するまでにはいたらず、佐島米子も安心した。


彼女の友人の佐藤みどりは一人でいる時間が長く他人との接触を好まずに生活していた。だた風邪を引くわけでもなく、淡々と毎日を過ごしていた。1月下旬の寒い朝9時になっても起きてこない、佐藤みどりを心配して佐島米子がノックしたが応答がないので部屋に入ってみると布団から出た格好で佐藤みどりが仰向けに倒れていた。急性心筋梗塞だった。お医者さんが来て死亡を確認した。この事態に、佐島米子、北山さゆりが、友人の死を悼んで泣き崩れた。友人の加藤さんが遺体の前で愕然とするだけだった。そして、簡単な葬儀が行われ佐島、北山、加藤さんが参列した。


 一方入院した山下さんは、念のため、精密検査を受けるため数日入院する事にした。検査を終えて元気になって老人シェアハウスに無事戻ってきた。数日後、入院した病院の外来を受診する様に山下さんに連絡が入った。1人では大変だろうと言う事で加藤と佐島が同行した。外来で呼ばれて診察室に入室し15分位で診察室から出てきた。


 その時の顔はこわばり能面の様だった。何か異変を感じた佐島が何かあったのと聞くと、前立腺癌が見つかったというのだ。そして肺に小さな腫瘍がありそうだというのだ。最近、少し歩くと息切れがするのが何かおかしいと思っていたそうだ。

 これには佐島も加藤もなんて言ったらわからず黙りこくった。病院の食堂で昼食をとった時も、お通夜のようにしんと静まりかえり一言の会話も交わせなかった。 

 山下さんが、この事はすまんが誰にも言わないでくれと言われ、もちろんと了解した。診察の支払いを終えて、シェアハウスに戻った。大丈夫だった?、と仲間の声に

何も答えない山下さん、佐島がもう大丈夫みたいと軽く答えた。


 その晩、北山が佐島の言動に違和感を思えて、なんかあったんでしょうと詰め寄った。しかし佐島は山下さんに言われた通りに大丈夫だったみたいよと言うだけ。

 北山が山下さんに直接、話を聞きに行った。話を聞き終えて出てきた北山さんの目には大粒の涙があふれ出していた。幼なじみの加藤さんが肩を抱きながら一緒に歩いてきた。北山さんが、涙ながらに可哀想、なんで、なんで山下さんの身体に癌ができたの、あんなに一生懸命に生きてきたのに、神様ってひどいわと涙声で言った。


 加藤さんが私たちは、免疫がおちているから癌ができやすいんだよと冷静な声で言った。数日後シェアハウスのオーナーと山下さんが話し合って、癌の症状が出て来たらここを出る事にしたそうだ。加藤さんが彼は奥さんに先立たれて5年、子供がいなくて、兄弟とも音信不通で天涯孤独になりインターネットで通じた友人、スカイプの友人と話すのを楽しみにしている。


 癌の症状が出ても手術、放射線療法など延命治療は拒否すると言っていた。また彼は苦学して大学を出て商社に勤め世界中を飛び回り立派な家を持ち退職後は苦学している学生、最近では、東北大震災で両親を亡くした子供達に募金をしていると教えてくれた。彼が元気なうちに素晴らしい想い出をつくろうではないかと加藤が言った。

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