7人目:マジカルチカ

 手に持った短い極彩色のステッキ、色とりどりのリボンとフリルがなびく真っ白いドレス、そしてそのドレスとあまりに不似合いなほど豊かに出っ張るところが出っ張ったボディライン。

 路地裏のアスファルトに降り立ったその人物は、確かに噂に聞くマジカルチカだった。

 そのマジカルチカは、平凡なブロック塀をバックに決めるにはあまりに非日常な名乗りとポーズをしっかり決めきったあと、周囲を見回し、そこにいた人物に釘付けになる。

「え? え? さ、相模くん!?」

「違う! お前なら見えるはずだ、助けるべき相手が!」

 戸惑いの声に自ら惑わされる前にと叫んだ私を振り向いたマジカルチカがまた新たな驚きに目を見張る。

「え? え? せ、先生?」

 その叫びに、すぐ横にふよふよと浮いていたクマともネコともイヌともつかないマスコットめいた生き物が甲高い声を上げる。

「バカ! 先生なんて呼んだら担任してるクラスの生徒だってバレるだろ!」

「あんたからバラしてどうする!」

「いってえ! 耳を引っ張るな!」

「2人とも! ふざけてる場合じゃないわ!」

 先の黒いマスコットと対になるようなピンクのマスコットがその可愛らしい外見とは裏腹に緊迫した声で割って入る。そのマスコットが向けている視線の先は、困惑と憎悪が入り混じった表情。

「貴様ら、次元外の……なぜ介入する、取り決めを無視することが何を意味するか、知らないはずがない」

 射抜かんばかりの強い視線を受け止め切れず、体の一部を揺らしながらマジカルチカが動揺する。

「え? え? 助けちゃダメなの? ってかどうすればいいの?」

「相模を解放しろ! お前なら出来るだろう!」

「いいのか! 取り決めをそちらから破棄するというのなら、問題はこの星系で収まることでなくなる! 全ての次元とその統治者たちを巻き込み、あの戦争が再開されることになる! 貴様らにその覚悟があるというのか!?」

 ん?

 ……ちょっと待て。

「おい、そこの小さいの」

「なんですか、先生」

 ツッコミたかったが、その暇がないことは良く分かっていた。

「なんか私が思ってたよりもかなりスケールがデカいことをのたまっているが、その、なんだ。……本当に大丈夫なのか?」

「そこらへんはあとで説明します。今は、ただ私とマジカルチカを信じてください。大丈夫です!」

 たぶん、と超小さく付け加えたのは聞かなかったことにした。そして幸いなことにマジカルチカの耳には届いていない様子だった。

「あたしらに許されてるのは、ただこの世界の力無き子供たちの助けとなること! その純粋なる心の力があたしたちの次元の力の糧となるから! チカ! 魔力使い切っても構わない! 全力でリリースの呪文!」

「ぜ、全力ぅ!? 相模くん助けるだけじゃないの!?」

「いいから! そこら辺を詳しく説明すると逆にヤバいのよ!」

 相模の姿をした何かがその言葉に反応する。

「おい! ちょっと待て! 貴様、分かっててやってるな!?」

「あー! あー! 聞こえなーい!」

 マスコットがその柔らかそうな耳をつかんでペタリと耳栓がわりのフタに使うのを引きつった顔で見ていたマジカルチカがステッキを振り上げた。

「うわあああああ、もう知らないからねっ!?」

 振り上げたステッキから膨大な量の虹色の光が吹き出す。その光が、聞こえないメロディに合わせるようなステッキの動きに合わせ不思議な文様を宙に描き出した。

「みんなを助ける、魔法のミラクル! いま、全てのいましめを解き放ち、あるべきものをあるべき場所へ!! リリィイイィイースッ!!!」

 叫びとともに全方向に万色が爆発し四方八方へと広がった。眩しい光の奔流が物や人を貫く。しかし痛みはない。ただ優しい暖かみだけが残された。


 そしてどこかで薄くて透明な何かがヒビが入る音が聞こえたかと思った直後、それが一気に砕け散る音が響き渡り、何一つ変わらない辺りの風景とは裏腹に、まるで締め切っていた薄暗い部屋の全ての扉と窓が開放されたかのような爽快感がその場を強く吹き抜けた。

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