♯33 隠された世界
まるで水の中に手を入れるように、鏡の中に吸い込まれたレベッカの手が動くと、『ガチャリ』、と重たい扉が解錠されたような音が響く。
『!!』
レナ、クロエ、ベアトリスがそれぞれ愕然とする。
レベッカが鏡から手を引き抜くと、星天鏡の鏡面がパァァァと淡い光を放ちだした。
「……アハ。アハハハ! ウッソマジ!? ただのおとぎ話かと思ったのにさ! ほらアンタらも見なよ! アハハ! めっちゃ面白いじゃん! アハハハハ!」
「あ、ああ……な、なんということを……」
愉快に笑うレベッカと、無力に頭を垂れるベアトリス。クロエもがくがくと恐ろしそうに震えていた。
「どういうこと? ねぇ、何が起きてるの!」
レナだけが理解が追いつかない。
一体何が起きているのか。あの鏡や鍵はなんなのか。レベッカは何をしたのか。
すると、レベッカがレナの方を見て言った。
「あれあれ? 賢いレナちゃんでもわからないのかにゃ? ま、何が起こってるのかすーぐわかるよ」
次の瞬間。
レベッカが鞭を掴んで引っ張ると、拘束されたままのクロエがその勢いのまま振り回された。鏡の方へと。
「クロエっ!!」
このままではクロエが鏡に激突する――!
とレナは焦ったが、そうはならなかった。
こちらに片手だけを伸ばすクロエは――そのまま鏡の中へ吸い込まれていった。まるで水に飲まれるように。
「!!」
クロエだけではない。続いてベアトリスも鞭に縛られ高い声を上げながら鏡の中へ放り込まれる。
残ったのは、レナ一人。
レベッカは鞭を引っ張ってレナを引き寄せ、レナの顔に触れながら微笑む。
「レベッカ……クロエとベアになにをしたの!」
「ゴミはゴミ箱へ♪ あのときみたいに、要らないものを捨てただけだけど? 体操着もよく燃えたしさ、ゴミを捨てるとスッキリするよね~」
「レベッカ……!」
「レナちゃんもすぐわかるから心配いらないって。――ほいっと」
レベッカは、レナの身体をトンッと鏡の方へ突き捨てた。
レナの身体は、鏡の光に飲み込まれていく。逃れる術はなかった。
こちらに向けて、レベッカが笑顔でひらひらと手を振る。
「――じゃあねおバカさん。永遠に。さよなら」
その声を最後に――レナの意識は途切れた。
◇◆◇◆◇◆◇
「――ん。んん……っ」
次にレナが目を開けたとき――そこはリィンベルパレスの中だった。
「……え?」
倒れたまま、上半身だけを起こして辺りを見渡すレナ。
広い空間に一枚だけの姿見。他には何もない。
「……レナ、鏡の中に押し込められて……それで…………」
頭に手を当てながら記憶を呼び起こすレナ。
そうだ。先ほど自分はレベッカに押されてあの鏡に吸い込まれた。
にもかかわらず、なぜか先ほどと同じ場所にいる。
しかし――何か妙な違和感があった。
同じ場所にいる。いるはずなのに、ここは何かが違う気がする。
「……あ、ああっ、そんな、まさかっ、あ、あああああ……!」
聞こえた声の方にバッと目を向けるレナ。
すぐ近くで、ベアトリスが震えながら自分自身を抱いている。その顔色は悪く、ひどく怯えているかのようだった。
そして、それはベアトリスだけではない。
「…………ウソ」
そうつぶやいたのは、クロエ。
レナはベアトリスのことも気にしながら呆然としたままのクロエに近づき、彼女の肩を揺すった。
「クロエ!」
「……あ……レナ、さん……」
「ねぇ、どういうこと? レナたち、どうしちゃったの。いったい何が起きたの!」
「……あ…………ああっ……!」
クロエの視線はレナに向いていない。
その視線の先は――レナの後方。
刹那に、レナの全身を寒気が襲った。
振り返る。
リィンベルパレスの入り口――その暗黒から、小さな女の子がこちらをじっと覗いている。
「――お二人ともお逃げなさいっ!!」
ベアトリスが大声で叫ぶ。
そのときにはもう、入り口の少女はこちらへと走っていた。
無表情で、その両手に明確な
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