♯30 支配者


「「っ!?」」


 二人の間に、突然のクロエの乱入。


 レナとベアトリスは同時にクロエの介入を確認し、同時に攻撃の手を止めた。レナの拳とベアトリスの竜の手はギリギリのところでクロエを挟む形でストップする。


 クロエは、その場にぺたんとへたりこんだ。


「クロエっ!」


 レナが駆け寄り、クロエの無事を確認する。ベアトリスもホッとした顔で汗を拭った。


「バカ! 危なすぎるでしょ!」

「ご、ごめんなさい、レナさん……でも……ふ、二人が闘う必要なんて、ない、から……」

「え?」

「……クロエさん? それはどういうことです?」


 訝しげな顔のレナとベアトリス。

 クロエは胸に手を当てながら呼吸を整え、そして話した。


「まず、ベアトリスさん。レナさんは、力に溺れる粗暴な人なんかじゃありません。わたしがここに連れてきちゃったんです。規則違反を犯したのはわたしなんです。そんな馬鹿なわたしなんかのために……わたしを守るために闘ってくれたんです。とっても純粋で、優しい人なんです!」

「……クロエさんを……守る、ため……?」

「それにレナさん。わたしたち、ずっと勘違いしていたのかもしれません。ベアトリスさんは、レナさんをいじめてなんていなかった……何も知らなかっただけなのかも!」

「え? クロエ? それ、どういうこと?」


 レナもベアトリスも、クロエの話に困惑して自然と力が抜けていく。

 クロエは一からキチンと説明を始めた。


「わたしがここにレナさんを連れてきたのは、そういうお願いをされたからなんです。レナさんをリィンベルパレスの中に呼び出して、〝扉の封印〟を解いて、レナさんも古代都市に封印してやれって。そうすれば、ちゃんと卒業させてあげるって」


「!!」


 この発言に、レナではなくベアトリスの方が驚愕の反応を見せた。

 だからレナが口を挟む。


「ちょっと待って。なんでベアまで驚くの。ベアがクロエにそういう命令をしたんでしょ?」

「何の話です!? なぜ私がクロエさんにそんな命令をする必要があるのです!」

「だから、レナをいじめるためにクロエを利用したんでしょ」

「意味がわかりませんわ! そもそも私はレナさんをいじめてなどおりませんし、そんな命令もしておりません! ヴィオールの名に誓って真実です!」


 そう断言するベアトリスの目を見て、レナはハッと気付いたように言う。


「……クロエ。もしかして今回の……うぅん、今までのって、全部……!」


 クロエはこくんとうなずき、再びベアトリスの方を向く。


「ベアトリスさん。ベアトリスさんは、なぜここに来たんですか? それもあんなタイミングで。それは、ある人にここへ来るように言われたからではないですか?」

「え、ええ。その通りですわ。今日の放課後、この時間に、リィンベルパレスの入り口に来てほしいと。そうしたら、扉が開いているのを見つけて。爆発音がしたものですから、慌てて中に……」

「やっぱり……。それはきっと、わたしにレナさんを連れてくるように言った人と同じ方だと思います。その人は、ベアトリスさんとわたしを、クラスのみんなを利用して、ずっとレナさんをいじめていた。きっと今回の事も、全部……」

「……そっか。そうなんだ。首謀者は、クラスを支配してたのはベアじゃなくて……!」

「ま、待ってくださいませ! それはつまり、わたくしにここへ来るように言った方が、レナさんやクロエさんへのいじめ行為を行っていたと!? わたくしはそれを知らずに、利用されていたことも知らずに、レナさんに……手をあげて……!?」


 ベアトリスは、己の両手を見つめて小さく震えだした。

 クロエは、静かにうなずいて。


 レナと、クロエと、ベアトリスは。


 三人同時に振り返る。



 果たして、〝彼女〟は言った。



「やっと気付いた? ホーント、どいつもこいつもバカばっか」


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