♯26 信じたい
「…………」
クロエの問いに、レナはもう少しだけ沈黙を挟み。
「……ほんと」
と、真実を答えた。
その返事に、クロエの瞳から光が消えていった。レベッカがおかしそうに笑う。
レナは神妙に話し始めた。
「レベッカが言った、昔の事は全部ほんと。小さい頃のレナは、自分の力で周りを寄せ付けないようにして、傷つけてきて、ひどいことしちゃった。だから、もうそういう自分になりたくないって思ってる」
「ふぅん? もう更正したってこと? そんな都合良い話信じてもらえると思ってるの?」
「思ってないよ。だからレナは、ちゃんとやっていくって決めたの。レナが信じてる人たちを、がっかりさせないように。レベッカみたいに、ウソついたりしない」
「は?」
「レベッカが最初に言ったのはウソ。レナはクロエに魅了なんて使ってない」
ハッキリとそう告げたレナに、クロエが「え……?」と顔を上げ、レベッカが小さく舌打ちをした。
「で? アンタがクロエちゃんを魅了してないって証拠は?」
「証拠なんてないよ」
「はぁ~? それを信じろって調子よすぎじゃない?」
なお突っかかってくるレベッカに、レナはため息ながらに言う。
「証拠はないけど、友達作るのに魔術で操るってむなしくない? 解けたら終わりだし、そんなのになんの意味があるの? それならうるさいレベッカを魅了したほうが意味ありそう。ていうかよくそんなウソ思いつくよね。その想像力魔術に活かしたほうがいいと思う」
「は? はっ、はぁ~!?」
からかうように言ったレナに、レベッカが苛立たしく地面を蹴った。
「うっざ! ほらクロエちゃんさっさと仕事しちゃってよ! こんな性格悪いやつどうなってもよくね!?」
「レナは自分が性格良いとは思わないけど、レベッカの方がずっと性格悪いと思う」
「だからうぜーんだよお前は! クロエちゃんはどっちを信じるワケ!? この街で、リィンベルで育った友達のアタシだよねぇ? こんなやつよりアタシだよねぇ!?」
本性を表しながら詰め寄るレベッカ。クロエは動揺し、困惑しながらレナとレベッカの顔を交互に見る。
それから、クロエがぼそっと切り出した。
「……レナさんは、どうして、ついてきてくれたんですか?」
「は?」とレベッカが眉をひそめるが、クロエはそちらのことは気にせずレナの顔だけを見ていた。
「わたし……何の説明もせずに、強引にレナさんを連れてきちゃったのに……。レナさんは、なにも、詳しいことは訊かずに、ついてきてくれました……」
「…………」
「途中で、ヘンだって。わかりましたよね? リィンベルパレスの入り口についたとき、ぜったい、おかしいって。わたしが、鍵を持ってるなんてヘンだって。あやしいって、レナさんならすぐ気付いたはず、ですよね?」
「…………」
「どうして……どうして、そんなわたしについてきてくれたんですかっ?」
そう尋ねるクロエに。
レナは、少しばかり口元をむずむずさせてから答えた。
「……友達を、信じたいから」
その答えに、クロエがハッと目を開く。
レナは、照れたように視線をそらしながら話した。
「さっきも言ったけど、レナは、そういう子供だったから。友達なんて、一人もいなかったし、ほしいとも思ってなかった。友達になってほしいと思える相手なんて、信じたい人なんていなかった。でも――」
そのとき、クロエは見た。
レナが、とても優しい顔で笑うのを。
「信じたい人たちが、出来たから。ドロシーと、アイネと、ペールと、クラリスを信じたかったから。友達になりたいって、初めて思ったから。クロエも、同じ」
「レナ……さん……」
クロエの目を見て、レナは言う。
「別にレナを信じてくれなくてもいいよ。レナが、勝手に信じたいって思ってるから。それだけ」
気恥ずかしそうなレナの言葉を聞いて。
クロエの瞳に光が戻り――そこから大粒の涙がこぼれた。
レベッカがずいっと身を寄せてくる。
「だーかーらっ、さっきから調子良いことばっか言ってんじゃねぇよ! お前のことなんて信じるわけねぇじゃん! ねぇクロエちゃん? …………クロエちゃん?」
クロエは、こぼれる涙を手で拭いながら言った。
「……レベッカさん」
「な、なになに? ようやくやる気に――」
「……ごめんなさい。もう……レベッカさんの言うことは、聞けません。それが、ベアトリスさんの命令だったとしても……退学になってしまったとしても……」
「……は?」
レベッカの方を見上げるクロエの瞳には、真っ直ぐな強い意志が宿っていた。
「わたしも……
その目と気迫に、レベッカは思わず身を引いて驚愕した。
レナが目を丸くする。
「え、えへへ……言っちゃいました……」
思い切った発言をしたクロエは、どこかスッキリとしたような顔で笑った。だから、レナも同じように笑うことが出来た。
そんな二人を見たレベッカの瞳が――闇色に沈んでいく。
いつの間にか、その手には二本の黒い口紅が握られていた。
「……はー。ホンットつっかえないゴミクズ」
レベッカが冷たく吐き捨てた刹那、その手元から伸びた黒い鞭がクロエの身体を縛り付けるように拘束した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます