♯27 傷ついた心は
レナがすぐに反応する。
「クロエっ!?」
「アンタは動くなって。動いたらクロエちゃんがアタシの《
レベッカが片方の黒い鞭を示すように持ち上げると、クロエを縛り付けている鞭の先で蛇の頭が牙を剥き、クロエの首筋を狙う。
レナはキッとレベッカを睨んだ。
「なんでレナじゃなくてクロエを攻撃するの!」
「アンタを縛ってもどうせやり返されるだけっしょ。この前も大切なモノぶっ壊してやったのに懲りないしさぁ。なら、よわ~い
「うぅ……あっ……!」
苦しげな声をあげるクロエ。キツく縛られた鞭は首に、肩に、胸に、両手足に巻き付いてギリギリと締め上げている。しかも、いつでも咬みつけるように蛇の頭が睨みを利かせていた。そのためレナは下手に手を出せなくなり、うろたえる。
「レナが気に入らないならレナにやってよ! クロエは関係ないでしょ!」
「関係あるんだっての。それにアタシ、このドベだってずっと気に入らないんだけど?」
レベッカが蛇と化した鞭を操ると、その一匹がスルスルとクロエの制服の中に入り込んでいき、その全身をまさぐりだす。クロエが短い悲鳴のような声を上げ、その顔が熱を持ち始めた。
「アハハ感度はいいじゃん! その身体でエラ~い魔術師の男にでも取り入れば楽に地位もお金も手に入りそうなのに、アンタってホントバカだよねぇ。そのうえ
「う、うっ……!」
「でもしょーがないかっ。どうせアンタなんて卒業したところでろくな魔術師になんてなれないもんね? あーあ。役立たずのアンタに家族はみーんながっかりして、アンタに愛想尽かして、味方なんて誰もいなくなっちゃうんだろうな~かわいそう~」
「うう……ぅっ……!」
「今回のビッグチャンスを成功させたら、ベアの側近として将来が約束されたのにさぁ。なーんであそこでやめちゃうかなぁ? ちょっとコイツをだますだけのカンタンな仕事だったのに。家の力もない、実力も才能もない、根暗で落ちこぼれで取り柄なんて一つもないグズなアンタのために、友達のアタシが役に立てるチャンスをあげたのにさぁ。それすら出来ないなんて、もう生きてる価値なくなーい?」
目の前まで近づいてきたレベッカは、苦しむクロエに顔を寄せて嘲笑する。
「……ごめ…………い…………」
「は? なに?」
「…………ごめん…………なさい…………ごめ、…………さい…………ご………………なさい……」
クロエは、謝り続けていた。
絶望。恐怖。罪悪感。
おそらくはないまぜになった様々な感情に苦しみながら、泣きながら、謝り続けていた。
レベッカが「ぷっ」と笑う。
「うっざ、またいつものそれ? アンタってホントバカすぎ! いまさら謝ったって遅いんだっての! つーか謝るくらいならアタシの言うこと黙って聞くお人形さんになってりゃいいのに! アハハハハ――」
そのとき。
クロエを縛り付ける二匹の黒い蛇を、レナが素手で引き裂いた。
「ハハハハハハ――は?」
笑いを止めるレベッカ。
鞭の束縛から解放されたクロエが、どさっと地面に倒れる。レナはしゃがみこんで彼女の身体を支えた。
「クロエ、平気っ!?」
「……レナ、さん…………ごめん、なさい……」
「え」
「わたし……こわくて……さからえなくて…………友達、なのに…………だまして、うらぎってしまって……ごめん、なさい……」
クロエは、いくつも涙をこぼして謝罪した。
レナは、ささやくように優しく告げる。
「もういいよ。平気だから、少し休んでて」
そう言うと、クロエは涙したままわずかに表情を和らげた。
「……ねぇ、レベッカ」
レナが立ち上がってその名を呼んだ瞬間。
その全身から濃い魔力のオーラが立ちのぼり、魔族の姿と力が顕現され、周囲のマナを奪い尽くす。ちぎれたレベッカの鞭も粒子と化してレナの魔力に取り込まれた。
振り返ったレナの朱い瞳を見て、レベッカは身動きが取れなくなる。
「どんなに大事な物でも、物はいつか壊れるからいいよ。直したり、新しい物を作ればいいんだし。謝ったらいつか許してあげられるから。でも――心は壊しちゃいけないんだよ」
握られたレナの拳に――強大な魔力のすべてが凝縮されていく。
その瞳は、怒りと悲しみに震えていた。
「傷つけられた心は治らない。新しくできない。元に戻らない。潰されて、べこべこになって、斬り裂かれて、ずたずたになって、そのまま、周りから見えない痛みをずっと抱えていくんだよ。ずっと、ずっと、ずっと。ねぇレベッカ。あなたにはわからないの?」
レナと目を合わせた瞬間、レベッカの全身にぶわっと汗が吹き出す。
「言ったよね。レナは……レナの
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