♯24 おかしなクラスメイト

 レベッカとの騒動があった日の翌日。

 昨日は結構派手にやらかしてしまったから、ひょっとしたらいじめが過激化してくるかもしれない。そんな思いでちょっぴり身構えて登校したレナが教室にやってきた途端、その姿を見つけたレベッカが近づいてきて――


「レナちゃん昨日はごっめぇ~~~ん!」


 両手をぱんっと合わせて謝罪すると、顔を近づけてウィンクしてきた。


 レナはキョトンと呆ける。


 レベッカは赤い髪の毛先を指でくるくる弄びながら言う。


「やー、アタシもやりすぎたって反省しててさぁ。成績下がってショックだったから、ついレナちゃんに当たっちゃったの。ホーントゴメン!」


 もう一度手を合わせて謝ってくるレベッカ。

 正直なところレナは彼女が謝ってくれることなど想像していなかったし、そのつもりでもいなかった。だからいきなりで面を喰らったところはあるが、素直に謝罪されるだけで不思議と彼女への不信感は薄れる。


「……別にもういいけど」

「許してくれる? ありがとー優しーんだけど!」


 喜ぶレベッカはさらにレナへ抱きついてくるが、さすがにそれはちょっと鬱陶しかった。ていうか変わり身の早さにやっぱりちょっと不信感が湧いてくる。


 レベッカはレナからパッと離れてニコニコしながら言う。


「それでねぇレナちゃん! 今日授業早めに終わるじゃん? だからさ、お詫びといったらなんだけど、壊れちゃった髪飾りの代わりにアタシが新しいのプレゼントしたげるからさ、放課後付き合って――」


 と、そこまで言ったレベッカが目をパチクリとさせた。


「――アレ? はっ? そのバレッタって昨日の!?」

「あ、うん。もう大丈夫だから気にしなくていいよ」

「へ、へぇ~? そっかぁ同じのも一つ持ってたんだ! な、なーんだそうなんだ! あはは! じゃ、じゃあそういうことでね!」


 どこか慌てた様子のレベッカはへらへら笑いながら前方の自席へと戻っていく。レナはそんなレベッカを不思議そうに見つめていた。


 と、そこでクロエが教室に入ってくる。

 うつむき加減に歩く彼女は、なんだか気落ちした様子で席に着いた。


「クロエ、おはよう」


 レナが挨拶をしても、クロエは反応しない。


「……クロエ?」


 レナがもう一度呼びかけると、クロエはゆっくりこちらを見て、それからハッと目を見開いた。


「あっ、レ、レナさんっ。ご、ごめんなさいボーッとしていて! お、おはようございますっ」

「別にいいけど……どうかしたの?」

「え?」

「なんだか、辛そうな顔してたから」


 そう言うと、クロエはぴくっとわずかに反応して。


「そ、そうですか? えっと、わ、わたしなんていつも冴えない顔ですから。あはは。な、なにもありませんから大丈夫ですよっ」

「……ならいいけど」

「え、えへへ……」


 へたっぴな作り笑顔で答えるクロエに、レナはまた疑問を持った。

 レベッカといいクロエといい、なんだか明らかに様子がおかしい……。



 休日前のこの日は午前中のみで授業が終わり、昨日のような騒動もなかったためレナはスムーズに満足のいく授業を受けることが出来た。ベアトリスの方は相変わらずなんでもトップを張り合ってくるのだが、そういうライバルがいた方がレナとしても捗るというものである。


 そして放課後。

 別に授業が早く終わったところで他にやりたいこともないレナは、早めに帰って混む前に食堂の昼食を済ませ、あとは座学の予習復習でもしておこうと考えた。


「――あ、そうだ。あと手紙も書かなきゃ」


 ふとやることを思い出すレナ。そう、フィオナやクレスへ定期的に手紙を書かなくてはならないのだ。

 レナが留学を決めた際、心配性の母性を発揮したフィオナがどうしてもとそういう〝お願い〟をしてきたので、レナは留学の条件としてやむなしに受け入れたのである。本当はそういう〝条件〟になってくれたことが嬉しかったが、思春期な少女は素直な想いは言えなかった。


 というわけでレターセットを買って帰ろうかと鞄を閉じたとき、隣から声を掛けられた。


「あ、あの。レナさん」

「ん、なに?」

「放課後、す、少しお時間あるでしょうか?」

「え? 買い物して帰ろうと思ってたけど。なにか用事?」

「あ、えっと、は、はい。その……す、少し、お付き合いしていただけたらなって……」


 ぼそぼそとそう話すクロエは、決してレナの目を見ようとしなかった。

 レナは少しだけ逡巡して、答えを出す。


「ん。別にいいよ」

「……! あ、ありがとうございますっ」


 そう答えるとクロエはホッと安堵した顔を見せ――その後に、またとても苦しそうに表情に影を落としたのをレナは見逃さなかった。

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