♯22 刻を巡る兎
レナはバラバラになった髪飾りをすべて集め、両手の上に載せてクロエに見せた。
「ねぇ、クロエどうするの? 元に戻せるかもって……」
「ごめんなさい、時間がないので説明は。そのまま持っていてください」
そう言ってクロエがスカートのポケットから取り出したのは――銀の懐中時計。
「……とけい?」
呆然と見つめるレナ。既に壊れているのか、時を刻むことなく停止しているその時計に、クロエが目を閉じて自身の魔力を込め始めた。
懐中時計を媒介とし、クロエの全身を包む月色の美しい魔力が輝く。
「――〝悠久の兎。円環の
詠唱を済ませると、高まりきったクロエの魔力をエネルギー源とするように懐中時計の針がゆっくりと逆回りに動き始めた。
――カチ。
――チッチッチッチッチッチッチッチッ!
「え――わっ!」
驚きの声を上げるレナ。
二人の足元に時計盤のような光る魔方陣が出現し、そこから立ちのぼる光がバラバラになった髪飾りを包み込むように集まっていった。
「……お願いっ!」
額から汗を流し、懇願の声を上げるクロエ。
レナの手の中で一段と強い発光が起き――その光がゆっくりと収まったとき、地面の魔方陣も同時にフッと消えてなくなる。
レナは、呆然とつぶやいた。
「……ウソ……」
両手の上で――髪飾りが元通りに修復されていたのだ。
「髪飾りが……も、元に戻ってる!」
つい目を疑ってしまうレナ。
触ってみても、髪飾りはどこにも割れたり欠けたりした部分などがなく、プレゼントしてもらったあのときと同じように綺麗な輝きを放っていた。
「あ……成功……した? よ、よかったぁ……」
気が抜けたのか、へにゃっとその場に座り込んでしまうクロエ。レナはすぐにその身を支えた。
「わっ、クロエ大丈夫っ?」
「は、はい。ちょっぴり、疲れてしまっただけで……大丈夫です。あはは、な、情けないですね。わたしの魔術って、ちょっと特殊で燃費が悪いから……。時間が経つと、成功確率がどんどん下がっちゃうんです……」
そうつぶやく彼女の表情には濃い疲労の色がにじんでおり、相当な魔力と集中力を要したことがレナにもすぐにわかった。時計を使っていたことから、おそらくは時間に関係する魔術であるとはレナにも察しがついたが、今はそんなことはよかった。
レナはあらためて手の中の髪飾りを見つめて言う。
「あんなにバラバラだったのを、こんな完璧に直しちゃうなんて……何の魔術かよくわかんないけど、クロエ、やっぱりすごいじゃん! ありがとうっ!」
「きゃっ! レ、レナさんっ」
レナは思わずクロエに抱きつき、それから身を離すと目を輝かせた。
「言ったでしょ、クロエは才能あるって! やっぱりそうだった。レナ、人を見る目はあるんだ!」
なんとも誇らしげに語るレナ。
クロエはしばらくキョトンとしたあと――照れたようににこっと微笑んだ。
落ち着いたところで、レナは元通りになった髪飾りのバレッタをパチンと髪に取り付け、「よし」とつぶやく。クロエが笑顔で拍手をしてくれた。
「とってもお似合いです」
「うん、ありがとクロエ。直してくれたのも、褒めてくれたのも。もう直すのなんてムリだと思ってたから、ほんとに驚いた!」
「えへへ。わたしなんかでもお役に立てて、嬉しいです」
クロエはまだ少々疲れているようだったが、はにかむその表情は晴れ晴れと嬉しそうなものであった。
レナは、そんなクロエの顔をじっと見つめて彼女の手を握る。
「ねぇクロエ。レナにも言ってね」
「え?」
「こっちにきてから、いろいろ、助けてもらってばっかりだし。レナも、クロエになにかしてあげたいなって思うから。えっと……友達、だし……」
恥ずかしそうに紅潮するレナを見て、クロエはキョトンとしながらも同じようにじんわりと頬を赤らめていった。
少しこそばゆい空気の中、学院のチャイムが鳴る。昼休みが始まる合図だ。
レナはクロエの手をとったまま言う。
「あっ、お、お昼にしよクロエ! 食べないと魔力も回復しないしっ」
「は、はいっ。あ、でも……」
「なに?」
「レナさん……えっと、着替え、は……」
「……あ」
自分の水着姿を見下ろしたレナは、肩紐のストラップをつまんでさらに顔を赤くする。
「……やっぱり、水着姿で授業受けるのってヘンかな? タオルはあるけど……ていうか、その前にお昼どうしよ……」
クロエはポカンと口を開けて、それから吹き出すように笑った。
「わたしがカフェテリアでお弁当を受け取ってきますから、また、あそこでお昼にしませんか?」
「ん、そうする……ありがとクロエ。でも、クロエも早く更衣室に戻った方がいいよ。たぶん、水着はクロエの方が目立つから」
「――え? ああっそうでしたわたしもまだっ! ご、ごめんなさい! 急ぐので待っていてください~!」
慌ててレナを追いかけてきたため同じくいまだに水着姿だったクロエは制服を抱えながら走り出し、レナはそんな彼女の後ろ姿を見つめて思わず笑ってしまう。
――それから昼休み後半。
水着姿で昼食をとったレナが講師エイミに事情をかいつまんで説明したところ、エイミからカーディガンを借りることが出来たため、その後の授業は水着onカーディガンというリィンベル最新ファッションスタイルで注目を浴びることになるのであった。
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