♯9 気になるクラスメイトたち
そして早速リィンベルでの一日がスタート。
ただし本日は新年度の最初の日ということで、本格的な講義などはなく、エイミから今後の授業カリキュラムやテストの実地日についての連絡、ベアトリスを中心にクラス内の係決め、役割分担などを行って午前は終了。あとは午後にパーソナルチェックを受けて終わりとのことだった。そして生徒たちは早めに寮に戻って本日中には新生活の準備を済ませ、明日からの授業本番に備えることとなる。
お昼のチャイムがなり、昼食の時間。普段は家から豪勢な弁当を持ってきていたり、学院生専用のカフェテリアで昼食を済ませる生徒たちが多いようだが、今日ばかりは昼食を控えるお年頃な生徒たちが多かった。
その意味がわからないレナは食欲に素直に従い、カフェテリアでなにか食べてこようかと立ち上がる。そしてまだ着慣れない制服にちょっとした違和感を抱きつつ、胸元のリボンを手で結び直していると、隣の席の人物が立ち上がって声を掛けてきた。
「……あ、あのぅ……」
「んー。ねぇ、この制服レナに似合ってる?」
「え? ……あっ、は、はい。に、似合っていると、思います……」
「ほんと? ならいいけど……でも、やっぱりクロエの方が似合ってるな」
「え、えっ」
レナにそう言われて、隣の席の少女――クロエ・シェフィーリアは困惑したように視線をうろうろとさせる。
「朝教室に入ったときね、クロエの顔見つけてちょっと安心した。同じクラスどころか隣の席でびっくりしたし。けど、同い年なら別に不思議じゃないのかな。よかったらまたいろいろ教えて。レナ、こっちに友達いないから」
「……あ」
レナの方から差し出された手を見つめ、クロエはしかしすぐに応えることが出来なかった。
それから、クロエがためらいがちにその手を伸ばそうとしたとき――
「あら? レナさんはクロエさんとお知り合いだったのですか?」
そう声を掛けてきたのは、クラス長のベアトリスであった。
彼女の声に、クロエがびくっと反応してその手を引く。ベアトリスの背後には、レベッカたちの姿もあった。
「うん、昨日――」
「し、知りませんっ!!」
レナが答えようとすると、クロエが突然大きな声で遮った。レナは驚いて目をパチクリさせていると、クロエはハッとして青ざめていき、
「……ご、ごめんなさいっ……!」
それだけを言い残し、教室から駆け出していってしまった。
ベアトリスが頬に手を添えながら小さく息を吐き、レベッカが嘲笑を浮かべる。
「クロエさんはとても神経質な方ですの。どうか気を悪くしないでくださいませ」
「……ふぅん」
「ところでレナさん。先日は、どうもレベッカさんたちがご迷惑をお掛けしたとか。クラス長として謝罪致しますわ」
会釈をするベアトリス。しかし後方のレベッカは睨むような目でレナを威嚇していた。
だがレナはまるで動じない。
「ん。その子たちがクロエをいじめてたからちょっかい出しただけだよ。レベッカっていうんだよね。あなたの魔術面白かったし、才能あるんだから、バカみたいなことに使ってないでちゃんと真面目に勉強したほうがイイよ」
「んなっ!? う、上から目線でうざっ! コイツ、ホントなめやがって――」
「レベッカさん」
顔を紅潮させて飛びかかる勢いのレベッカだったが、ベアトリスに一言名前を呼ばれるだけでぴたりと動きを止めた。無言のベアトリスの視線を受け、レベッカは途端に大人しくなる。他の二人も同じだった。
「……ご、ごめんなさい。ベア……」
震えるようにつぶやくレベッカ。するとベアトリスが礼儀正しく前で手を重ねながらレナと向き合う。
「このクラスの失態は私の失態。ご迷惑をお掛けしたお詫びとして、ご一緒にカフェテリアで昼食を兼ねたアフタヌーンティーなどいかがでしょう」
「うん、いいよ。でもレナ、ドレスとか持ってきてないけど」
「まぁ。カフェテリアにドレスコードはありませんわよ。もしあったとしても、よくお似合いになっているリィンベルの制服で構いませんわ」
「え? そう? 似合ってる?」
「ええ、とても。一日でも多く袖を通せますよう祈ります」
ベアトリスはにっこりと優しく微笑み、レベッカたちを引き連れて歩き出す。
「さぁレナさん、参りましょう。ご案内します。それでは皆さま。また後ほど」
そんなベアトリスの言葉に、クラスメイトたちは揃って同じ挨拶を返した。そしてベアトリスとレベッカたち先に教室を出た途端、クラス全体のピリッとした空気がとけたことをレナは肌で感じとった。
おそらく、というか間違いなく、このクラスのトップは名実ともにベアトリスなのだろう。そしてレベッカたちがその後に続き、後はほとんど横並びという状況のようだ。
こうしてたった半日で中等部女子クラスの
「……あとは、あの子かな……」
その輪から一人だけ外れていると思われるのが、朝からずぅっと眠たそうにボーッとしたままのとあるクラスメイトである。
今ものんびり立ち上がって歩き出したかと思えば、扉にガンッと頭をぶつけて痛がる素振りもなくふらふらと歩き去っていく。
先ほど見たクラス名簿によれば、名前は『ミュウ・ベリー』。
白い長手袋と白いタイツを着用して露出を控えており、不思議な品があるもののとっつきにくい印象もある。
彼女が去っていった後には、なぜか甘いアイミーの果実のような残り香がした。
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