♯352 運命を裂く星光
刹那。ダイスがぐにゃりと溶けるようにして、カジノにいたあのバニーガールたちへと変化した。
その内の一人が、手を広げ笑顔で近づいてくる。
「親愛なるお客様!
エリシアが素早く地面のコインを一枚拾い、バニーガールへと放り投げる。
コインが命中した瞬間――バニーガールは魔力の凝縮体と化して爆発を起こし、地面のコインが勢いよく弾け飛ぶ。ヴァーンが「ヒュー!」と短い口笛を吹くと、また次々にダイスがバニーガールたちへ変化していく。
「《ダイスロール・ファンブル
続けて放たれたダイスたちの出目はすべて朱い【♠】。
それらは一つ一つが剣に変化し、四方八方からクレスたち目掛けて飛んでくる。その衝撃は剣で受け止めるたびにクレスでさえ手のしびれを感じるほどの威力があり、中にはその剣を持って突撃してくるバニーガールも存在した。
ニーナはまだ止まらない。
「《ダイスロール・ファンブル
さらに放られたダイスの出目はすべて朱い【♦】。
金と銀のラビコインを大量に生み出し、地上を埋め尽くすほどのコインの山はクレスたちにとって不安定な足場となり、しかもうねるように動くため脚に力を込めることさえ阻害する。まさに身動きの取れない状況に陥っていた。気を抜けば一瞬にして守りが瓦解してしまうほどの、まさに暴力的な物量の攻撃だった。
それでもクレスたちは一つにまとまることで防御態勢を固め、前衛のクレス、ヴァーン、エリシア、アインの四人で周囲の攻撃を必死に防ぎ続ける。
「おっとと。ラビちゃんはこうやってダイスの出目を操作することで様々な凶運を引き起こすの。触れないから止めようもないし、ほぼ無敵だよね。お手上げでーす。さぁさぁみんな、ひたすらクレスくんを守りぬきましょーう!」
「気楽に言ってくれるぜこの裏切り勇者のネェちゃんよォ!」
「実際のところ、クーちゃんのお守りをしながら近づくしかないでしょうね。フィオナちゃんはやる気みたい」
「ふんす! クレスさんをお守りすることがわたしの人生そのものですから!」
「こんなに愛されてクレスは幸せだね。パパになるんだしがんばらなきゃ」
「あ、ああ!」
そんなクレスたちのやりとりに、バニーガールを吹き飛ばしたアインが「ははは!」と声を上げて笑い出す。
初めてそんな彼を見たためか、一同の視線はわずかにそちらへ注がれた。
アインはすぐに表情を引き締める。
「失礼しました。しかし問題はありません。皆の力を合わせれば必ず勝てます!」
「さっきから言うねぇ希望の勇者サンよォ! なんか確証でもあんのかい!」
「ある! それは――自分が今ここにいるということですッ!」
断言したアインが剣を振るうと、巻き起こった風が接近するバニーガールたちをまとめて吹き飛ばし、ぶつけて誘爆させた。
晴れやかに、確信を持った目でそう言い放ったアインに、一拍おいてヴァーンが大笑い。クレスたちもまた表情を和らげる。それは一瞬にして皆の士気を高めた、まさに希望をもたらす勇者の姿だった。
しかし――まだこれで終わりではなかった。
ニーナの手から、さらに無数のダイスがじゃらじゃらと転がり落ちてくる。
すべてが朱い【♣】の目を示す。
「《ダイスロール・ファンブル
それらのダイスはふわりと浮かび上がり、上空でくっつき合い、融合していく。
「……ハ? オイオイオイオイ……マジかよアホか!」
空を眺めながら思わず悪態をつくヴァーン。
上空に、四つの月が浮かんでいた。
一つは本物の満月。残り三つは、ニーナのダイスによって生まれた月。
そして――その残り三つの月が高度を下げ、こちらに向かって落下してくる。
天地を震わす、破壊の月として。
「決めにきたね。よぉしクレスくん! こっちもカウンター決めに行くよ!」
「はい! エリーちゃんさん!」
「へっ? ――あはははははっ!」
想定していなかったらしいクレスの即答に腹を抱えて笑うエリシア。
刹那に彼女の瞳が鋭く光る。
握られた剣が淡い魔力を纏う。
「あれはボクが担当するね。これくらいの仕事はしない――とっ!」
その言葉と共にコインの大地を蹴り上げて飛ぶエリシア。この足場を苦にもしない凄まじい跳躍にクレスたちは目を見張る。
エリシアは祈るように目を閉じ、長いおさげの髪を揺らしながら唱えた。その姿は、信心深い聖職者のようでもある。
「――聖女クレア様の祈りの元に。聖剣ストレリアに大いなる星の御力をお借りします」
エリシアの剣が煌めく星屑のような魔力を放つ。その刀身は星の光によって長く大きく光り輝く。
その光にフィオナがつぶやく。
「あれは……せ、聖女様の星の魔力です!」
エリシアが目を開く。
「行くよー! ひっさしぶりに――思いきり輝いてこぉーいッ!」
聖剣を振り下ろす。
星の魔力によって強化された光剣は、煌めく彗星のような斬光でもって押し迫る三つの光星をたやすく二つに裂いた。破壊された月はさらに細かく砕け散り、流星のようになって周辺に落ちていく。その光景にニーナでさえ呆然としていた。
「さぁ皆! クレスくんを連れてってあげて!」
上空でエリシアがこちらにウィンクをする。
クレスは言った。
「俺一人では彼女に触るのは無理だ。皆の力を貸してくれ!」
その言葉に、全員が応える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます