♯340 追いかけっこデスゲーム

 こうしてニーナのアドベンチャーワールド――自然を使ったアスレチック追いかけっこがスタートした。


「それでは皆サンがんばってくださーい! あたし、最初は手を抜いてあげるから安心していーよ♪」

「大人をなめやがってメスガキが! ヒーヒー泣かせてやっから乳洗って待ってろオラアアアアアアアアうおおおおおお――――!?」


 草原をぴょんぴょんと跳ねて進むニーナを真っ先に追いかけたヴァーンだが、いきなりポッカリと出現した落とし穴らしきものに落下して消える。びっくりしたフィオナが穴を覗いて声を掛けた。


「ええーっ!? ヴァ、ヴァーンさぁ~~~ん!?」

「なるほど……こういう罠が設置されているのか」

「運が悪いと進めない、ということみたいね」


 クレス、エステルも穴を覗きこみながらつぶやく。底など見えない暗黒の暗闇は、皆が落ちてくるのを待っているようであった。


「――――うおおおおおおおおおおひでぶっ!?」


 そしてすぐに上空から落ちてきた復活したヴァーン。フィオナたちはもちろん、アインとエイルが「うわっ!」と声を揃えて驚いていた。なお、その際にヴァーンが持っていたコインの一枚が砕け散る。


 コースの先で切り株に座りながら待っているニーナがニコニコ顔で指を二本立てる。


「二回まではミスしてもすぐ復活できますよ♪ イイチュートリアルになりましたねぇ! これでルールもよくわかったでしょうし、自分の運を信じてニーナを捕まえてくださーい! 早くしないと先に行っちゃいますよ~? あ、リタイアしたいなら言ってくれればコインにしたげまーす♪」

「ざけんなクソがあああああああ! オイテメェら行くぞ! オレ様の豪運であの舐めたガキ絶対泣かす!」

「待ってくれヴァーン! 警戒を強めないとまたライフを失うぞ! フィオナ、気をつけて後をついてきてくれ!」

「仮にも希望の勇者と呼ばれた身、この程度で怯むことはない! クレス殿、いざとなれば自分のライフを使ってください! 力を合わせて進みましょう!」

「アインも案外すぐにライフを失いそうね……罠は私が気をつけておくわ」


 四人が走りだし、後方のフィオナはおそるおそる皆の後に続く。ひとまず皆が通ったところは安全だからだ。


「うう、思ったより怖そうなゲームです……あれ? エステルさん、どうかしましたか?」


 最後尾にいたエステルが、フィオナに声を掛けられてようやく足を動かす。


「……いえ、なんでもないわ。馬鹿が道を切り開いてくれて助かるわね。それとあのエイルという子、なんだか妙に気になるところがあるのだけど、なぜかしら……」

「……ふふっ」

「? フィオナちゃん?」

「こういうとき、いつもヴァーンさんが真っ先に動いてくれますよね。だから、わたしたちは安心して後をついて進める。今までも、たくさん助けてもらっています」


 フィオナが少しおかしそうに笑いながらそう言うと、エステルはキョトンとした。


「わたしたちも、ヴァーンさんを助けなきゃですねっ!」


 腋をキュッと締めて気合いを入れるフィオナに、エステルは少し照れたように視線をそらす。


「褒めすぎではないかしら。あの男にはそんな助け合いの精神はないと思うけれど……ま、馬鹿とスライムは使いよう、というところね。さ、置いていかれないように進みましょう」

「はいっ!」


 フィオナとエステルも速度を上げ、前を進む四人を追った。



 ニーナのアドベンチャーワールド追いかけっこ。そのルールは単純。コース上で逃げるニーナを追いかけて捕まえること。

 ただし、コースから出たりアスレチックのゲームに失敗すると“ライフ”を一つ失う。クレスたちに与えられたライフはカジノの時のコインに則って三つ。つまり失敗出来るのは二度まで。三つ目のライフを失ったとき、参加者はコイン化して脱落する。追いかけっこデスゲームだ。


 ライフを失うまでに、なんとしてもニーナを捕まえなくてはいけなくなったが――


「うおおおおおあぶねええええええ!! オイクソデケェ木が倒れてくんぞ! しかもハチ共が湧いてきやがる!」

「フィオナ気をつけろ! そっちは罠だ! くっ、足場が悪い!」

「ふぇえぇぇっ!? こ、こっちのロープ切れちゃいましたぁ~!」

「……正解の壁にぶつからないと進めないみたいね。なんだか無性に腹立たしいゲームだわ」

「おお、この粉の中から口だけであめ玉を探すというゲームは意外と難しいが、さすがエイル。あっさり見つけたな! しかしエイルの顔が真っ白になってしまったぞ!」

「……ウサギちゃんはずいぶんと愉しそうだこと」


 先頭を颯爽と逃げ続け、時には足を止めてこちらの様子を伺い、ケラケラと笑ってはまた旗を持って逃げるニーナを追いかけ、必死に走り回るクレスたち。


「イイですねぇイイですねぇ! 皆サンどんどんいきましょー! ほらほら、早く~! ニーナを捕まえて~♪」

「うるせぇクソガキャアアアアア! 揉んだるからそこで待ってろやあああああ!」


 ヴァーンが驚異的な身体能力で罠を回避しまくった落とし穴地獄の草原を抜けると、今度はハチの巣が仕掛けられた樹木がバタバタと倒れてくる森に突入。さらに強力なベア系モンスターまで配置されていた。


 その次はハズレのロープを掴むと大口を開けたクロコダイルが待つ湖に落下する湖上のジャンプゲーム。ここでは先に落ちてしまったヴァーンとアインがその身でクロコダイルの口を塞ぎ、二人の背中を使って皆を渡らせるというスーパーアシストを行い、絆を深めた。


 それをクリアすれば難問クイズの書かれたドデカ立て札が登場。“回答”が書かれた大きな四つの扉が待ち受けており、不正解の扉をくぐると即失格。エステルとエイルの知識量でなんとかくぐり抜けたものの、一度引っかけ問題で不正解の扉に飛び込み、スライム塗れになったエステルがとかく不機嫌になった。


 さらには箱の中いっぱいの小麦粉の中から、小さな飴玉を口だけで探して粉塗れになってしまうミニゲーム。失格はないが地味に難しいものであり、匂いに敏感なフィオナが特に活躍した。


 突然の現れた崖を登るコースでは、運が悪いと崖崩れが落ちて落下。体力に自信のあるクレスやヴァーン、アインたち男子メンバーが筋肉パワーで女子メンバーを支えてなんとか乗り越えた。


 その先では巨大な迷路のコースに突入し、ニーナの残したヒントを利用しなければ永遠に迷い込んでしまう難関ポイント。さらに魔物まで配置されており、疲労が重なる。


 なんとかそれもクリアすれば、待ち受けるのはニーナの使い魔たちであるチャイルドバニーたち。なんと彼女たち相手にジャンケンで100連勝しなくてはならないという運の極みのような鬼畜ゲームで、負けるたびにライフを失うためここで一気にライフを消費することとなった。


 それでも協力し合い、時には互いのライフを犠牲にしつつ、後方から見守り係として愉快に応援してくれるエリシアの声に背中を押されながら、クレスたちはなんとか全員揃ってニーナの元へ追いついたのだった――。

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