♯337 “運が良すぎる人”たち
「えっとですね、まず、この世に必要なのは運がイイ人だけなんですよ」
突然の断言に、クレスたちは言葉をなくす。
ニーナはダイス型の髪飾りをころころと指で弄りながら話す。
「お金持ちの家に生まれた者。戦争に勝った者。剣技や魔術の才に恵まれた者。あらゆる理を生み、成してきたのは運がイイ者なの。それ以外の塵芥は存在する意味がないよねー。あたしは運がイイ人が好きだから、この世で最も運がイイ魔王様に見合う人だけ選定したいワケですよっ。あたしは運のない人を間引いてるだけなの♪ チョキチョキ、ブイブイ♪」
ダブルピースをしながらニッコリ愛らしく微笑むニーナ。
クレスが、一歩踏み出して言う。
「なら……君は俺たちを“間引く”ために、この街へ集めたのか? この街は、そのために作ったと……?」
「うんうん! あたしの魔力も財産もぜ~んぶを注ぎ込んで作った街だから、すごい完成度でしょ? うちのおばあちゃんも魔王様の命令で死者の国とか創っててさ、あたしは見事にその才能を引き継いだ運のイイ女なワケです! そしてっ!」
ニーナはびしっとクレスたちを順番に指さしながら言う。
「アナタたちだって、特別運がイイ人たちなんですよ! ここまで生き残ってきたなんてもうすっごいことなので、自信持ってください! ニーナのお墨付きだよ♪」
ウィンクと共にOKサインを作ってみせるニーナ。
それから彼女はちょっぴり残念そうに言う。
「でもねー、
オーバー気味なリアクションでがっくり肩を落としてみせるニーナ。けれどまたすぐに明るい表情へ戻る。百面相のごとくコロコロ表情の変わる彼女は、それでも常に楽しそうな顔をしている。
「でもでもでも! きっとこの街でのひとときは夢のような時間でしたよね? 楽しんでもらえましたよねっ? 皆サマに三日の猶予をあげたり、盛大にパーティーを催したのは、最期に楽しい思い出を作ってもらうためなんですっ。あ、もしかしたらこの街で赤ちゃんがデキちゃったカップルさんもいるかもですけど、安心してください! みんな一緒にコイン化すれば怖くないですから♪」
両手を合わせて無邪気に笑うニーナ。
クレスたちは愕然となる。
彼女らしく明るく、どこかからかうような口調でありながらも、そこにこちらを侮辱するような意図はない。むしろ“客”として迎え入れたクレスたちを本気で楽しませようとしていたことに間違いはなく、バニーガールらしいエンターティナーとしてサービス精神に溢れた性格をしている。おそらく一切の邪気はなく、ただ素直に話しているだけだ。
だからこそ、クレスたちにとって彼女は恐ろしい敵でもあった。
そこで、座り込んでいたヴァーンが「ハッ」と笑い出して飛び起きる。
「とんだメスガキサイコバニーだぜ。確かにずいぶんと楽しませてもらったがよ、まさかオレらが黙ってコイン化されるとでも思ってねぇよな? 今ここで、オレら全員でテメェを袋だたきにしてもいいんだろ?」
槍を肩で組みながら挑発するような視線を向けるヴァーン。ニーナがキョトン顔をする。
続けてアインも剣を握りしめた。
「そこの品がない男の言う通りだ。魔力で創られた結界術だというのならば、今ここで自分が貴様を討てば済むことだろう!」
その剣を勇敢にニーナへ先向けるアイン。その目に先ほどやられた恐怖などは微塵もない。
「オイ待てコラ。品がねぇってのは誰のことだ!」
「赤毛の貴方に決まっているだろう。獣とはいえ女性に暴言を吐いたり乳を揉ませろと迫ったり先ほどからエイルの身体もジロジロと舐め回すように……低俗な男め!」
「んだとゴラアアアアア! そんなエロい格好したエロそうな性格のイイ女連れ回してりゃそりゃ見るだろうがボケッ!」
「あら。悪い気はしないわ」
「エイル!? 君という人はまたそんなっ!」
「落ち着いてアイン。私はアナタのモノ。たとえ身体は許しても、アナタ以外に心を許しはしないわ」
「エイル…………って身体も許してはいけないぞ! もっと自分を大切にしてくれ!」
「ふふ。ならアナタが抱いてくれる?」
「な、何を言うんだ! からかうなエイル!」
「そんなつもりはないわ。私はいつも本気。だって、私はアナタのモノなのだから……」
「エ、エイル……」
「うおおおおおうぜえええええ! こいつらまたベクトルの違ぇバカップルだぞ!」
密着するエイルに頬を撫でられて多少動揺気味のアイン。二人のやりとりにヴァーンが歯ぎしりをして頭を掻く。
そんなヴァーンの横を通って、エステルがニーナの方へ歩み寄る。
「……もう茶番は終わりよ。貴女の目的はわかった。そしてこれ以上付き合うつもりはない。今すぐに貴女を倒し、夢の時間は終わりにしましょう」
エステルの身体から溢れ出す冷気の魔力が周囲の温度を下げていく。
クレスは剣を取り、フィオナは杖を取って、お互いにうなずき合う。ヴァーンもまた槍を前に構え、アインも既に戦闘態勢に移っている。
「んもー、あわてんぼさんばっかり。そんなにニーナと遊びた……あれ?」
全員の視線を集めている瓦礫上のニーナは、指で一人一人を数えながら言う。
「全部で6人でしたっけ? もうちょっと残ってたような気がしたんだけど……まーしょーがないっ!」
その言葉でクレスとフィオナはハッと気付き、背後を見る。
先ほどまで後ろにいたはずのあの人物がいない。そしてどうやらニーナもその存在に気付いてはいなかったようだった。
「クレスさん……」
「ああ。だが今はヤツを――!」
二人はニーナの方へ向き直り、戦う覚悟を決める。
「オイテメェら決戦だ! あのバニーちゃんが余計なこと
「後半は余計だが概ね同意する! いざ、尋常に勝負――ッ!」
ヴァーンとアインの踏み出しをきっかけにクレスも続く。そしてフィオナとエステルが後方から魔術を仕掛け、エイルも何か祈るような動作を取っている。
囲い込んでの集中攻撃。
ニーナはそれでもしゃがみ込んだ瓦礫の上から動く素振りさえなく、ニマニマ笑顔でつぶやく。
「んふっ。ムリじゃないかなぁ~?」
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