♯336 カワイイ女の子ですよ!
アインがわなわなとつぶやく。
「自分たちが……唯一……? つまり、つまりそれは、クレス殿が、クレス殿が、欲に溺れ……!?」
迫り来るアインの視線。
クレスは途端に居心地が悪くなり、とても申し訳ない気持ちで、しかし彼から逃げるようなことはせずにただただその場で事実を受け止めた。フィオナも真っ赤な顔で「すみません……」と小声で謝っている。
エイルが乾いた笑みと共にささやく。
「伝説の勇者なんてあんなものよ。やはりアナタほど純粋な勇者はいないわ。自信を持っていいのよアイン」
「くっ……まさか、まさかクレス殿まで…………! これも、これもすべては貴様の汚らしい策略か! この獣めッ!」
「ええぇ~~~それもあたしのせいですかぁ~~~!? あの人たちが勝手にエッチなことしただけですよ! あたしはなにもしてなーい!」
「ええい黙れ獣め! 真の勇者クレス殿を汚した罪は重いぞ!」
「うえぇぇこの人話通じないタイプですよぉ~~~! ふぇ~ん真の勇者サマ助けてくださぁ~い!」
あのニーナが涙目でクレスに助けを求めるように手を伸ばしてくる。そんな彼女にアインがまた剣を差し向け、クレスもどうしようもなく困惑するしかなかった。
さらにアインに寄り添うエイルが言う。
「ウサギの魔族さん。アナタの目的は私たちの数を減らすことでしょう? そのためならなんだっていいんだわ。殺し合いなんて趣味が悪いと思うけれど、もう十分減ったんだからそろそろ満足してもらえないかしらね」
「うう……何度もケモノ扱いされたあげく全部ニーナのせいにされて、シュミが悪いと悪口まで! ひどいひどぉい! ニーナカワイイ女の子ですよ! さすがにこれはショックです。もう泣いちゃいます! えーんえーん!」
また目元に両手をつけてわかりやすく泣き出すニーナ。しかし今度は泣き真似ではなく本当に涙を流しており、その姿にアインが少しだけ動揺し、エイルが「女狐め」と棘のあるつぶやきをする。
ニーナはひとしきり泣いた後ケロッとした顔で言う。
「あー泣いてスッキリ! で、何でしたっけ? あ~あたしの目的でしたっけ。まぁそうですねー数が減ってくれればいいですし、最後には全員コインになってくれればそれでハッピーエンドです! どうせみーんなニーナのオモチャですからね♪」
ニコニコしながら恐ろしいことを語るニーナに、クレスたちは背筋に冷たいものを感じた。
アインがギリッと歯を食いしばってさらに剣を突きつける。
「ふざけるな! 人間が玩具だと? 貴様……どこまで人間を侮辱すれば気が済む! なぜ自分たちをここに集めた! なぜ自分たちを選んだ! 貴様の真の目的はなんだッ!」
「うわー落ち着いてくださいってばもー! てゆーかそんなの差し向けてカワイイ女の子を脅迫するような人が勇者なんてこわすぎー! 弱い者いじめして恥ずかしくないのー?」
「なっ……!? ――く、すまなかった」
あっさりと剣を引くアイン。エイルが「そういうところよ……」と少し呆れたようにため息をつき、ヴァーンが「やっぱあいつクレスに似てっぞ!」と叫んだ。
ニーナは腹を抱えて笑う。
「あはは! この人めちゃくちゃわかりやすーい! そんな純粋だとワルイ女にだまされちゃいますよ~? ド・ウ・テ・イの、おにいさぁ~ん♥」
ニマニマと嘲笑してくるニーナに、アインは再び鋭い気迫と共に剣を抜く。
「それが本性か……やはり捨て置けん! ここで斬り裂くッ!」
振り上げたアインの剣から激しい風が巻き起こる。その凄まじい風力は刀身にまとわりつくように同化し、剣そのものが渦を巻く。それがとてつもない破壊力を秘めているだろうことはクレスたちにもすぐにわかった。
「消えろ! 人を欺く獣めッ!」
暴風と共に剣を振り下ろすアイン。
すべてを切り裂き吹き飛ばしてしまうような剣戟に、ニーナは「キャアァ~~~~!」と悲鳴を上げて――
「――んふっ、なんちゃって♥」
そして、アインと彼の剣は激しく吹き飛ばされた。
『――っ!?』
途端に風が止む。クレスとフィオナ、ヴァーン、エステル、そしてすぐに助けに向かってエイルも、皆がなにが起こったのかわからずに驚愕した。
唯一平静としていたのは――クレスとフィオナの後ろにいたフードを被る人物だけ。その人物がそっとつぶやく。
「剣や魔術でラビちゃんを倒すのは無理だよ。あの子は運がいいからね」
「……う、運?」
「あの……そ、それってどういう……」
クレスとフィオナの戸惑いに、フードの人物はニコッと笑いかけるのみ。
先ほどまで迫真の悲鳴を響かせていたはずのニーナは、まったくの無傷で可愛らしいあくびをしていた。
「あーびっくりしたぁ。でもでも、ニーナにあそこまで近づけるんですからやっぱり運がイイ人なんですね! うんうん!」
納得したようにうなずくニーナ。
倒れていたアインがエイルに介抱されながら苦しげに上体を起こす。
「くっ……ば、馬鹿な。我が剣が弾かれた……のか……!?」
「アイン、傷は大したことはないわ。風の力がアナタを…………うっ!」
「エイル!? まさか…………ッ!」
胸元を押さえて苦しむエイルを見て、アインはすぐに手元の剣を見やる。
果たして――その刀身はわずかに欠けていた。
「《ヴェルシオン》が……欠けている!? エイル、しっかりしろ!」
「へ、平気よアイン……。これくらいなら、問題ないわ。それよりも、気をつけて。あの魔族は、やっぱり、ただ者では……」
「くっ……自分が油断したせいで……! やはり恐ろしい相手だったか……!」
ニーナをにらみつけながら立ち上がるアインとエイル。
コロシアムの残骸の上に「ぴょんっ」と言いながら立ったニーナは、その場で膝を折ってしゃがみ込み、両手で頬杖をつきながらクレスたちを見下ろして話す。
「フフッ。次のゲームをする前に少し話しておきましょっか。やっぱりゲームは公平じゃないと面白くないですからねー」
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