♯334 “殺し愛”バトルロイヤル
ヴァーンが叫ぶ。
「ってオイ! やっぱり殺し合いショーじゃねぇか!」
エステルが「はぁぁ……」と長いため息をつき、その息がパリパリと凍りついて砕けた。さらに隣のヴァーンの足を踏みつける。
「いってぇっ!? オイなんだよコラ!」
「貴方がくだらないことを言うから現実になってしまったじゃない。責任をとりなさい」
「オレのせいなん!? んなこと言ってもどうすりゃいんだよ! つーかマジで殺し合いなのかよ! オイコラ生意気おっぱいの嬢ちゃん! どういうつもりだコラ!」
抗議の声を上げるヴァーン。すると他の客たちも「そうだそうだ!」「意味がわからない!」「なぜそんなことを!」「ふざけるな!」「やはり俺たちをだましていたのか!」「俺たちを楽しませるパーティーなんてすべてウソだったのか!」と同調する。
ステージでニコニコしていたニーナは、ぷすーと頬を膨らませて言う。
「んもー! だましてませんしウソじゃないってばぁっ! あたしがどんだけお金つかってこのパーティー作ったと思ってんの!? こんな規模の街を結界で生み出すのだってとんでもない魔力と労力が必要なんだからっ! お金も魔力も今までの貯金ぜ~んぶ使ってお客さんたち楽しませてるの! ニーナ本気なんだからねっ! もっと褒めてくれなきゃヤダヤダヤダ! ぷんすかぷんすかっ!」
なんだか怒った様子でそう言ったニーナに、思わず声を和らげる一同。「言い過ぎたか……?」「な、なんかすまん……」と罪悪感を覚える者たちすらいた。こんな状況にもかかわらずそんな空気を生み出せるニーナの存在感はやはり特異であり、だからこそクレスたちは警戒心を取り戻すことが出来る。
ニーナはぷりぷりしたまま言う。
「とにかく落ち着いてくださーい! 大丈夫ですよ~運が良ければ死にませんから! 先ほどのカジノとおんなじおんなじっ。運を信じて戦えばいーんです! あっ、今回のパーティーはカップルでご招待してますので、対戦はもちろんカップル戦になりまぁす! 愛する二人同士で協力してぇ、制限時間内に運良く生き残ってくださいね~♪ それじゃあ素敵な“殺し愛”バトルロイヤル、スタートぅ!」
皆が納得する間もなく戦闘開始の合図をするニーナ。
さらに両手を掲げたニーナの頭上に巨大な『時計盤』のようなものが現れ、チクタクと針が進んでいく。
「この針がテッペンに来るまで生き残っていたカップルが合格でーす! あたしの結界内なら死んでもコイン化するだけから遠慮なく殺し合ってねー♪ まーコイン化した時点で人生オワリなんだけど。あはははは!」
自分が言ったことでおかしそうに笑い出すニーナ。
彼女が掲げる時計盤には『ココ!』と矢印で示された設定時刻があり、どうやらそこまでに生き残っていなくてはいけないらしかった。その猶予は残り半刻もない。だが皆がお互いに警戒し合ったままで動き出す者はいなかった。
ヴァーンがケラケラ笑ってニーナを指さす。
「ブワッハッハッハ! オイオイバカじゃねぇのかデカ乳バニーちゃんよぉ! んなこと言われて殺し合うヤツなんかいねぇだろ! なぁテメェら!」
「あ、戦わないカップルは戦意喪失と見なして即コイン化しちゃいまーす♪ イヤだったら今すぐ殺し合ってくださーい♪」
「ハ?」
呆然とするヴァーン。エステルが再び深いため息をつく。
さらに次の瞬間、他の招待客の男たちが一斉に背後からヴァーンを狙った。ヴァーンはとっさに横っ飛びで攻撃をかわす。
「ちょおおおおっ!? なんだお前ら!? なんでいきなりオレ様を狙ってくんだよ!」
「悪いな生き残るためだ!」
「目立ってたからなんとなく!」
「一番戦いやすそうだったから!」
「カップルの割に仲悪そうだから!」
「俺らの愛のために
適当な理由と共に、剣やら斧やら魔術やらで次々に攻撃されまくるヴァーン。相当な実力者であろう男たちの攻撃は激しく、コロシアムの床やら壁やらが激しく破壊されていく。バトルロイヤルなのに彼一人が狙われまくり、大声を上げながら逃げまくるヴァーンという光景にニーナが「あはははは!」と腹を抱えて笑っていた。クレスとフィオナ、他のカップルたちが数名ポカンと呆ける。
「ふざけんじゃねぇえええええええええ! つーか誰と誰がカップルだってぇの! オレ様はなぁ! 揉みごたえのあるデカ乳のエロい女が好きなんじゃあああ! そこの貧乳チビは論外じゃあああああい!」
皆の視線は一斉にエステルの方へと移り――さらにその胸元へと向く。
ヴァーンを襲う男たちの行動を見てか、おそらくは彼らのカップル相手であろう女性たちもジリジリとエステルの元へ詰め寄っていく。
「ごめんなさいね……」
「申し訳ないけど、あたしたちが生き残るためなの」
「文句ならあのバニーに言ってちょうだい」
「あたしたちこんなとこで死ねないの。絶対二人で幸せになるんだから!」
短剣、鞭、そして魔術。それぞれの女性たちが得意なモノでエステルを狙う。そんな彼女たちは、全員が豊かで立派なモノを持っていた。
だが――そこで彼女たちの足が止まる。
驚きに顔を見張る女性たち。全員、足元から凍りついていた。
彼女たちの視線の先で――氷の女王が、真顔でつぶやく
「――は? 私の方こそ論外なのだけれど……?」
凄まじい冷気を放ちながら、その視線のみで周囲の女性たちを威嚇する。
「あんな馬鹿についてきたばかりに、いきなり殺し合いに巻き込まれてカップル扱いですって……? はぁ……これ以上の不幸はないわ。ウサギちゃんには、相応のお仕置きが必要ね……」
雪国のように冷え込み始めるコロシアム。エステルの冷たい視線を一身に受けたニーナが目を点にして自らの身体を抱き込み震えていた。
冷気によって皆の動きが鈍っていたそのときだった。
「――二人とも、しゃがんで」
呆然としていたクレスとフィオナの背後で、外套を纏った何者かがそうつぶやく。
バッと振り返る二人。
フードの中に、見覚えのある顔。その女性は、伸ばした人差し指を口に当ててパチンとウィンクする。
次の瞬間――“風”がコロシアム全体を引き裂いた。
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