♯275 失望の女神
突然姿を見せた女神シャーレの存在に姉妹は揃って驚き、特に背後から声を掛けられたソフィアなどはお尻を突き出すような形で前のめりに転んでしまっていた。
シャーレは逆さまに浮かんだまましばらくそんなソフィアを見つめ、やがて深いため息をつく。
「本当に……。お前のような者が聖女だなんて、ミレーニアも呆れていることね」
「へ、へ……?」
視線を向けられて困惑するソフィア。
どういうことかと隣の妹に目を向けたフィオナは、女神の言いたいことを理解して思わず顔を赤くする。
転んだ際にめくれ上がったのだろう。女神の方に向けられたソフィアのスカートの中が――つまり肌色の臀部が露わになっていたのだ。
「ソ、ソフィアちゃん! 見えてるよーっ!」
「え? ――わぁっ!?」
慌てて上半身を起こし、服を引っ張って下を隠すソフィア。
二人ともここに来たときからこのお揃いの白いワンピース姿になっていたのだが……問題はなぜか下着を着用していなかったということである。それも二人きりのときは大した問題ではなかったが、こうなっては話が別だった。完全に油断していた。
女神シャーレはつまらなさそうに首を横に振ってつぶやく。
「品のない女に聖女は務まらない。やはりお前では駄目ね」
「きゅ、急に後ろから声掛けられたらびっくりするに決まってるじゃんっ! この服だってこの世界のでしょ! てゆーか! あなただってもう今にも見えそうなんですけどー!?」
羞恥で顔を紅潮させながら女神に指摘するソフィア。
逆さまに浮くシャーレの羽衣は不安定にそよそよと揺れており、時折大事な部分などが露出しそうになっていたし、そもそもが薄生地で玉の肌が透けている。目を凝らせばいろいろと見えてしまうほどだった。そのセクシーさにはフィオナもぽーっとなってしまうくらいである。
シャーレは、自らの身体を片手でなぞるように撫でながら端的に返した。
「完全な美を体現するこの神秘的な肉体と、お前の
「ぐぬぬぬ……! じゃあフィオナちゃんはどうだ!」
「え? ――ええー!?」
ソフィアに両肩をつかまれ、いきなり矢面に立たされるフィオナ。
「ほーら見てよ! お姉ちゃんは私と同い年なのに、もうこんなぷるんぷるんでばいんばいんだもんね! 結婚だってしてるし、女神様にだって負けないくらいキレイでエッチな身体してるもん!」
「ソ、ソソソフィアちゃん~~~~!?」
「大丈夫だよフィオナちゃんっ、ホントに負けてないから! おっぱいの揉み心地だって最高なんだもん! 私が保証しますっ☆」
「そそそそういうことじゃないよ~~~~!」
ぐっと親指を立ててウインクする妹に背中を押されてうろたえるフィオナ。
逆さまの女神は、じ~~~っと無言ですべてを見透かすようにフィオナの全身を凝視してくる。思わず赤面するフィオナは、無性に恥ずかしくなってつい自分の身体を隠してしまった。
シャーレがぼそっとつぶやく。
「お前は有望な方ね」
「――え?」
「聖女としての経験と共に、品を身につければ多少は完全に近づくでしょう。ミレーニアの足下にも及ばないけれど」
褒められたのか貶されたのか、よくはわからないがなんとなく認めてもらえたような気がして呆然とするフィオナ。ソフィアも「ふふーん!」と我が事のように鼻高々と胸を張っていた。
しかし、女神シャーレはすぐに言葉を付け足す。
「それでも、やはりお前たちでは駄目ね。完璧に、完全にほど遠い。乖離している。ミレーニアに成ることなど不可能」
ぴしゃりと断言され、空気が一瞬にして凍りつく。
さらに女神は、隣のミレーニア像に触れながら話す。
「なぜ、ミレーニアのような完全な存在から不完全な存在が生まれるのか、神である私にすら理解出来ない事象だわ。二人目も三人目も、あれもこれも不完全。どれもこれも出来損ない。特にミネットは酷かった」
女神の口から不意に出た名前に、フィオナとソフィアの顔が固まる。
「あれには期待していた。星を統べる魔術の才も、魂の美しさにも。けれど、ふたを開ければあまりに不出来。どれだけの才があろうと、全を内包する肉体が致命的に脆ければ無意味。自らでは子すら成せず、ろくに役目も果たせないまま天星した。失望したわ」
何の興味もなさそうに。ただつらつらと女神は語り続ける。
「ここに来たとき、あの子は謝罪した。不甲斐ない聖女で申し訳なかったと。けれど、自分の娘たちは自分と違って立派な聖女になれるから見守ってほしいと。その結果がお前たちというわけね。不完全な親から不完全な子が生まれることが正しいのなら、何故完全な親からは完全な子が生まれないのか。もう、こんな無意味なことはやめにしたいわね。永遠に
淡々と、あっさりと、女神シャーレは諦観したようにそう言い捨てた。
フィオナは――深い悲しみに言葉をなくしていた。
ミネットのことは、ほとんど何も知らない。
夢のような世界で一方的に見ただけ。話した記憶も存在しない。けれど、大切なもう一人の母親。ずっと自分を遠くから守ってくれていたように感じていた。そんな大切な人を、手の届かないところから貶されたように思った。
「――謝りなさい」
フィオナは、隣から聞こえたその声にぞくっと背筋を冷やした。
隣にいたはずの『妹』は――『聖女ソフィア』は、強い魔力のこもった煌めく瞳で女神シャーレを見据えていた。
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