♯257 小さくなっても大きなフィオナ(前編)

 一体何が起きているのか。三人が困惑している間にも薬はバッチリ効力を発揮したようで、フィオナはすっかり子供の姿に若返ってしまった。


「わ、わわわ……! ほ、本当に子供になってしまいました……!」


 愕然としながら自分自身の変化に戸惑うフィオナ。

 銀髪の長さは変わっていなかったが、背はもちろん手足も短くなって、着ていた寝間着はだぼだぼだ。さらに声もちょっぴり高くなっているようだった。セシリアはすぐに変化に慣れると言ってはいたが、フィオナの頭は自身の変化に混乱しているようだ。下着のサイズも合わなくなり、ずり落ちてきてしまったのを慌てて手元に隠す。


「フィオナママがこどもになった……」

「フィオナ、大丈夫かい? 俺たちのことはわかるか? 記憶は問題ないかな? しかし、なぜ俺ではなくフィオナの方が子供に……!?」

「だ、大丈夫です。ちょっと違和感がありますけど……ちゃんとわたしのままです! でも、どうしてわたしが…………あっ! ひょ、ひょっとして、クレスさんとわたしのカップを間違えてしまったのかも!」

「えっ?」


 慌ててテーブルの上に目を向ける二人。

 クレスとフィオナの食器類はすべてペアのお揃いであり、同じデザインのものだ。そのため、フィオナが薬を入れたカップの紅茶を間違えて自分で飲んでしまったようである。レナのものは別のデザインのカップであるため、娘に飲ませることはなかったのが幸いではあったが……。


「なるほど……そ、そういうことか。はは、いきなりで驚いたよ」

「ご、ごめんなさいクレスさんっ。まさかこんなことになるなんて」

「なーんだ。フィオナママって、たまに変なところでドジするよね」

「うう~、お恥ずかしいかぎりですぅ……」


 思わずぶかぶかの袖で顔を隠すフィオナ。

 そんな彼女に寄り添いながら、レナがじ~っと観察を始めていた。頭から足先、そしてぶかふかの服の隙間まで。あまりにもまじまじ見るものだから、フィオナが「ど、どうかしたの?」と声を掛ける。


「んー。フィオナママって、こどものころこんなだったんだと思って」


 背丈は縮み、一回り身体が小さくなって子供っぽくはなっていたが、もともとフィオナは童顔な方であったし、歳もまだ大人とは言い切れないものであったため、十二歳程度に小さくなろうとさほど外見の印象は変わらないようであった。身体の発育が良く、いろんな面で早熟だったこともあるのだろう。

 そして、印象の変わらない明確な理由があった。

 

「でも、べつにどっちが小さくなってもよかったじゃん。これでちゃんと小さくなるってわかったんだし」

「う、うん。セシリアさんの薬だから、心配はしてなかったけど……」

「そうだな。しかし、本当に子供になってしまうとは……うーむ、夢でも見ている気分だ……。俺が小さくなったときも、フィオナはこんな気持ちだったのかな」


 レナと同様に、まじまじとフィオナを見つめるクレス。さすがに愛する妻が突然縮んでしまっては驚く他ない。それでも以前と変わらず惹きつけられるのは、やはりフィオナがフィオナであるという印象がそこまで変わらないからだろう。


 フィオナは二人から熱い視線で見つめられて、ほんのりと赤く染めた頬に手を当てる。


「な、なんだかそんなに見られちゃうと照れちゃいます……。わたし変じゃないですか? あ、服も、これじゃ着られないですよね……。えっと、うちに置いてあるレナちゃんのを借りても、いいかなぁ?」

「いいけど、むりだとおもう」

「え?」

「こどもになっても、なんかフィオナママはフィオナママのままだなって思ったけど、こういうことだよね」


 なぜか即座に無理だと断言したレナは、その場でごく自然にフィオナの寝間着をパッとめくり上げた。

 

「ふぇ」


 気の抜けた声を上げるフィオナ。クレスは言葉もなく呆然とした。


 そこに胸を押さえつけていたものは既になく、純粋な肌色だけが広がっていた。


 少しの間を置いて、フィオナが大声を出す。


「わ、わ、わ、わぁぁぁ~~~っ!? レ、レレレナちゃん!? にゃっ、にゃにするのっ!?」

「こんなにおっぱい大きかったら、レナのパジャマなんてきれないよ。このままの服でいいんじゃないの?」

「ふぇえっ!? お、おっぱい? あの、レナちゃっ、だからってこんなっ」

「クレスもよくみてよ。小さくはなったけど、もうこんなおっきいんだよ。レナのじゃむりでしょ?」

「え、ええと……そう、だろうか…………」

「なんでそっち見てるの? ちゃんとこっち見てってば。ほら」

「レ、レナ。しかしだな」

「わぁ~~~んレナちゃんやめてぇ~~~!」


 既に視線を逸らしていたクレスは、レナに手を引かれながらもなんとか抵抗をした。幼くなった妻の裸を見るというのはさすがにちょっと気が引ける。最初の一瞬だけはどうしても見てしまったが、これ以上フィオナに恥を掻かせたくはなかった。


 それからようやく服を下ろしてくれたレナだったが、その後もなぜかじ~~~っとフィオナを観察したままである。特に胸部を。


「あのぅ……レ、レナちゃん?」


 まだ何か言いたいことがあるのか。なんだか不服そうに目を細めていたレナは、ぽつりとこう言った。



「――フィオナママ、ウソついたね」


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