♯211 フィオナママ、義娘にアドバイスを貰う
それから四人で賑やかな夕食をいただき、食後はレナが持ってきた『マナカード』というカードゲームで遊ぶことになった。
これはアカデミーの生徒が講義で使う魔術知識を学ぶための初心者用教材なのだが、多種多様で美麗なカードイラストや模様、数字などを使ってゲームをすることも出来るため、アカデミーの魔術師は皆が知っているものである。
クレスも三人からあれこれ教わりつつゲームに参加し、楽しい家族団らんを過ごすことが出来た。特にリズリットが緊張も忘れて笑っていたため、クレスとフィオナは安心したものであった。
どうやら積極的にリズリットをからかってくれるレナの存在も大きかったようで、リズリットにとっては兄と同時に妹が出来たような気持ちだったかもしれない。特にフィオナなどは、つい最近『本当の妹』が出来たばかりなので、感慨深いものがある。
それからは風呂の時間となるが、今日は人数が多い。そのため、まずはクレスとリズリットが二人一緒に入ることになった。なお、本提案はニマニマ顔のレナによるものである。
「ふぇっ!? リ、リ、リズがクレスさんとですかっ!?」
「うん。だって兄妹なんでしょ? 今のうちに、お兄ちゃんにいっぱいあまえておいたほうがいいと思うよ。ね、フィオナママ?」
「え? う、うん、そうだねレナちゃん」
「なるほど、確かにレナの言う通りだな。よし、それじゃあ行こうかリズ」
「ははははひっ!」
先ほどまでリラックスした様子であったのに、すっかりカチコチ状態に戻ってしまうリズリット。タオルと替えの下着を持って、クレスと共に家を出て風呂小屋へと向かっていった。
そして残されたのはフィオナとレナ。
フィオナが残っていた片付けをしているところで、レナがリズリットの持ってきた『ラスカーレ冒険記』の本を読みながら言う。
「なるほどね……うーん、やっぱりうわきじゃなかったんだ」
「レナちゃん? え? う、浮気?」
「んーと、リズリットおばさんがフィオナママのライバルになるのかもって思ったりしたけど、そういうわけじゃないんだなぁって」
「ラ、ライバル?」
意味深なレナの発言に、洗い物の手を止めてレナの方にやってくるフィオナ。
レナは本を閉じ、二人の兄妹の絵が記された表紙に目を落としてからフィオナを見た。
「うん。だって、男のひとって『うわき』するものなんでしょ? カノジョとか奥さんがいるからこそ『うわき』するんだって。そうやって別れる人がおおいって、アカデミーでアイネたちからきいたことある」
「ええっ? そ、そんなことまで話しているの? や、やっぱりレナちゃんたちは進んでるよね……!」
素直に驚いてしまうフィオナ。
これまでにも、レナはアイネたち同級生からいろいろな情報を得てきており、フィオナはよく呆気にとられたものだった。以前子作りについて聞かれたのも、きっかけはそれである。“性”に関する情報が多いのは、精神的成熟の早い少女ならではであろう。
そもそもアイネたちは良いところのお嬢様たちなわけだが、彼女たちでもそういうことへの興味が強いのだと知って、フィオナはなんだかホッとしてしまった。
レナが続けて話す。
「だからね、クレスでもうわきするのかなぁってちょっとだけ思ってたけど、やっぱりちがったみたい。年もはなれてるし。そっか、『お兄ちゃん』ならうわきじゃないもんね」
「そ、そうだね。さすがにクレスさんとリズリットがそういうことには……もう~、急に驚くことを言うから、ちょっとだけびっくりしちゃったよ~」
「ん、ごめんなさい。でも、フィオナママはあんまり安心しないほうがいいかもしれないよ」
「え?」
すると、レナは意味深にふふっと微笑んだ。
「アカデミーでも、クレスのこと好きって女の子おおいから、レナもよくいろんなこと訊かれるもん。もしかしたら、クレスも外でいろんな子にさそわれてるかもだよ。男の人ってさ、女の子からさそわれたり泣かれると弱いんでしょ?」
「え、ええっ? そ、そ、そうなのかなっ?」
これにはちょっぴり慌てるフィオナ。
だが、確かにクレスは紳士ゆえ女性のそういった部分には弱いかもしれない。実際、今回も泣いていたリズリットを放ってはおけなかったゆえの結果とも言えるわけで。それに彼がモテないはずはないのだ。学生時代のフィオナだって、いつ彼がどこかの女性とそういう関係になるのではと気が気ではなかった。先に結婚されてしまうのではと思った。卒業を焦った理由はそこにもある。
もしも。
もしもエステルやセリーヌのような美人が、モニカやシノのような大人の女性が、ソフィアのような美少女が本気でクレスにモーションをかけたら、クレスはそれを断れるのだろうか。優しい彼は、女性を放ってはおけないのではないだろうか。
――いやいやいや! ないよ! クレスさんに限ってないよ~!
ぶんぶんと頭を振って妙な考えを振り切ろうとするフィオナ。冷静になって考えれば、クレスが他の女性に手を出すようなことはないだろう。フィオナはそう確信している。魂に誓ってありえないことだ。クレスの不貞を疑うなど、妻としてあってはならないことなのだ。
だが、妄想はそれとは別である!
もくもくもくと、勝手に頭が映像を再生する。クレスが、エステルやセリーヌたちとなんだか良い感じになってベッドインしちゃう光景が脳裏をよぎり、フィオナは「だめだめだめ~~~わたしのばかぁ~~~」と声を上げながらまたぶんぶんと頭を振った。レナが「なにやってるの……?」ちょっぴり引き気味に声を掛ける。
それからレナは本をテーブルの上に戻し、勝手に一人で困惑するフィオナの前にやってきて言う。
「それでさ、『お兄ちゃん』って呼び方をきいてレナおもったんだけど、フィオナママも、たまには呼び方かえてみたりしたらどうかな」
「えっ? よ、呼び方?」
「うん。フィオナママっていつも敬語だし、クレスにもさん付けしてるでしょ? たまには、しゃべり方とか呼び方かえたらどうかなって。夫婦って、マンネリにならないように刺激をくわえるのが大事らしいよ。ペールとクラリスが言ってた」
「な、なるほどぉ……!」
耳年増な
「あ、ありがとうレナちゃん! ちょっと考えてみます!」
「うん。まぁ、クレスがうわきなんてしないとおもうけどね。だってクレス、フィオナママのことすごく好きだもん」
「え、え、えっ? そ、そ、そうかな!? レナちゃんそうかなぁっ!?」
「ううっ、ち、近いから。テンションあげないで。それにさ、夫婦がもっと仲良くなるのっていいことでしょ? レナ、はやく妹つくってほしいし。まだ?」
「そ、それはその……か、家族計画に従って頑張りますので!」
「じゃあ待ってる」
フィオナが眉尻を上げてふんすとガッツポーズを取り、レナはおかしそうに笑った。
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