♯132 びしょびしょサバゲー

 そうして早速コロネットがチーム分けを発表する。



 赤い旗のチームがクレス、フィオナ、エステル、リズリットの四名。


 青い旗のチームがヴァーン、レナ、ドロシー、アイネ、ペール、クラリス、そしてコロネットを加えて七名。デビちゃんは審判役をしてくれることになった。


「オイコラ待てやコロガキィィィ! どっからどう見てもバランス良くねぇだろ! なんでオレ様のチームにはガキしかいねぇんだ!?」


 後ろに控えたアカデミーの少女たちを指差して、真っ先に抗議を始めるヴァーン。コロネットは腕を組んで満足そうにうなずいていた。


「うんうん、どこからどう見てもコーヘーでカンペキなチームわけなのだ~」

「話聞けやコラ! あっちはフィオナちゃん入れたら大人が三人もいんだぞ! 不公平だろがい!」

「でも、そのかわりこっちのチームは人数がおおいのだ。それに、ヴァーンはこどもたちに人気があるから、イイチームになるとおもったのだ!」

「ハァァァン!? 何言ってんだコロガキ! いいからさっさとチーム分けをやり直せやああああ!」


 目つきを悪くしてガンを飛ばすヴァーン。その腕や手をレナたちが引っ張った。


「大人げなさすぎ。力とか関係ないゲームなんだし、人数多い方がいいじゃん。いいからさっさと作戦考えるよおじさん」

「レナさんの言うとおりです。ほら行きますよおじさん」

「よぉーしゼッタイ勝つぞぉ! 行こうよおじさん!」

「貴族の娘として、勝負事には負けられませんわ。行きますわよおじさん」

「わーい! レナちゃんと同じチームだ! みんなでがんばろうね! おじさんも!」

「誰がおっさんじゃあ! 離せやクソガキどもおおおおおおお!」


 納得のいかないヴァーンが暴れ回り、どちらが子どもなのかという状況にレナたちの方が呆れかえっていた。


 そこでエステルがスッと手を挙げた。


「その筋肉駄々っ子おじさんのことはどうでもいいのだけれど、ちょっと一ついいかしら」

「エステルおねーさんどうぞなのだ!」

「ルールは理解したけれど、“相手を倒した”、というのはどう判断するの? この水鉄砲はいたって普通のものにしか見えないし……」

「おおー、さすがクールなおねーさん。イイしつもんなのだ! 実はね、みんなが持ってる水鉄砲はただの水鉄砲じゃないのだ。あたしが魔力でとくべつにしてあるのだ!」

『え?』


 そんなコロネットの発言に、全員が自分の水鉄砲を見やる。『特別』とは言うが、形状や大きさ、中に入る水の容量などは異なるものの、基本的にはどれもごく普通の水鉄砲である。『特別』な点は見当たらない。


「見た目からはわからないとおもうけど、相手チームのだれかに水を当てたらすぐにたおしたかどうかわかるのだ。あと、別にたおされちゃ・・・・・・・・っても試合にはさん・・・・・・・・・かできるのだ・・・・・・。あくまでも、ぜんいんがやられちゃったら負けなのだ。だからみんな、こわがらずにドンドンいくのだー!」

「倒されても参加出来る? ま、ますます意味がわからなくなってきたわ……」


 さすがのエステルもコロネットの言うことがよく理解出来ないようで、困ったように頭を悩ませる。だがコロネットは何も気にせずにニッコニコな笑顔で宣言した。


「試合をはじめたらすぐにわかるのだ! それじゃあ、さくせんタイムがおわったら試合開始なのだ! がんばろーなのだー!」


 右手を挙げるコロネットに続いて、まっさきにリズリットが「おー!」と珍しく声を張り上げ、子どもたちもそれに続いてから文句を言い続けるヴァーンを引っ張っていく。

 一方、クレスたちの赤チームも多少戸惑いながら、作戦タイムに入ることになったのだった。




 ――そして、ついに『コロネットのびしょびしょサバゲー』がスタート。

 チームの旗が置かれた場所は『拠点』となり、相手チームの拠点を先に見つけた方が大きなアドバンテージを得ることになる。また、試合をスムーズに進めるため、拠点に設定出来る場所はある程度開けた場所のみと決められていた。それと、今回はあくまでも皆で楽しめる遊びであるため、当然ながら攻撃的で危険な特殊技能や魔術の使用は禁止であるが、そうでない技能や魔術なら使用は認められていた。



 クレスたち赤チームは東側の砂浜を拠点に設定。南国の木がいくつか立っているくらいで、ここは向こうから見つけやすい場所である分、こちらも攻めてくる相手がわかりやすいという一長一短な拠点だ。


「相手の方が人数が多い分、障害物に囲まれやすい場所を拠点にするのはデメリットの方が多いわ。それに、水辺が近い方がすぐに弾を補充出来て有利なはずよ。相手は子どもたちばかりだし、そう怖くはないでしょうけれど、魔術には要注意ね」

「うん、さすがエステルだな。これなら良い試合が出来そうだ」

「エステルさん、すぐに作戦を立てられてすごいです! リズリットも、一緒にがんばろうね」

「は、はいっ! フィオナ先輩と同じチームになれて嬉しいです! リズ、がんばってみなさんをお守りします! んふー!」


 全メンバーの中で一番大きな水鉄砲を両手で抱え、ふんすと鼻息を漏らすリズリット。髪も結び直してやる気マンマンである。クレスたちもとっくに気付いていたが、どうやらリズリットはこういう遊びが意外に好きなタイプらしい。


 クレスがそっとエステルに声をかけた。


「すまないな、エステル。子どもたちの遊びに付き合わせてしまって」

「構わないわ。期待こそ出来ないけれど『豪華な賞品』もあるということだし、スポーツで汗を流すのも良い女というものでしょう。ただ……」

「ん? ただ?」

「……いえ、コロネットちゃんのルール説明に少し引っかかるところがあっただけ。まぁ、所詮は子どもの遊びなのだから大した問題はないでしょう。それより時間ね。まず私が偵察に行くわ。三人はここを守っていてちょうだい。あわよくば全員倒してきてしまいましょう」


 小型の水鉄砲を手に、クールに髪を払うエステル。クレスたち三人は少々慌てた。


「エステル一人でか? 俺も一緒に行くべきだろうか」

「クーちゃんは身体が大きいから斥候せっこうには向かない。何よりフィオナちゃんとリズリットちゃんを守る存在が必要だわ。私はこの手のことにも手慣れているし、いざとなれば魔術で水も補充出来る。適材適所というものよ。それに、撃たれてもゲームは続けられるなら一人で十分でしょう」

「む……そうか。確かに」

「フィオナちゃん、リズリットちゃん、ここをお願いね。さくっと片付けてきてしまうわ」

「は、はいっ」「わわわかりました!」

「あのお猿さんのことだもの。どうせまだ駄々をこねているのでしょうね。そうとわかれば先手必勝よ」


 冷静な笑みを見せたエステルはこうして一人拠点を離れ、余裕綽々と島の西側へと向かっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る