♯131 コロネットランド

 そんな海中散歩をしばらくの間楽しんだ後、デビちゃんがゆっくりと海面へ上昇。《バブル・エール》の魔術を解き、全員が地上へ――日の光を取り戻す。


 デビちゃんの頭の上に乗っていたコロネットが言う。


「じゃーん! ここがあたしのヒミツきちなのだ!」


 そこでクレスたちが見たものは、美しい真っ白な浜と、浜に咲く美しい花々、そしてフルーツの生る南国の木々たち。

 辺り一面を温かな海に囲まれた、他に誰の姿もない小さな無人島である。


『わぁ……!』


 主にフィオナとリズリット、そして子どもたちが感動の声を漏らす。

 巨大化しているデビちゃんが浜までやってくると、コロネットがデビちゃんの頭上から高く飛び上がり、無人島の砂浜に上陸。両手を広げてクレスたちを見た。


「『コロネットランド』にようこそなのだ! いろんなあそび道具もあるから、みんなでいっぱいあそそぼーなのだ!」


 そんなコロネットの言葉に、リズリットも含めて子どもたちがテンション全開になり、一斉に島へと上陸。クレスたち大人組もその後を追った。


「――よっと。ほっほう? プライベートビーチどころかプライベートアイランドかよ。あのガキもなかなかオツなことすんじゃねぇか」

「どこに連れて行かれるのかと思ったけれど……なかなか綺麗な島ね。こんなところ、魔族でもなければそう来られるところではないでしょう」


 まんざらでもない様子のヴァーンとエステル。呆けていたフィオナも思わず胸が高鳴った。


「そ、そうですよね……! ちょっぴりびっくりしてしまいましたが、とっても綺麗なところです! ね、クレスさん?」

「うん。確かに良いところだな。皆も喜んでくれているようだし、日が暮れるまで時間もある。せっかくコロネットが招待してくれたのだから、楽しませてもらうことにしようか」


 こうしてクレスたちは、コロネットの秘密基地――通称『コロネットランド』で気ままな南国気分を味わうことになった。


 そしてそんな『コロネットランド』には、コロネットが長年かけて作り、集めたという秘密のおもちゃがたくさん用意されていた。


 たとえば木々の間に張られた巨大なハンモック。このハンモックの糸は特殊な魔力が練り込まれている影響で高い弾力性を持ち、子どもたちが乗ると大きく跳ねて遊ぶことが出来る。

 また、同じような魔力が込められたボールは非常に良く跳ねるし、ビーチボール遊びはクレスたち大人も混じって白熱することとなった。

 他にも、デビちゃんことデビルクラーケンが自身の触手を滑り台のように使って子どもたちを楽しませてくれたり、デビちゃんの子どもだという可愛いミニクラーケンたちがわらわらと現れて皆を和ませてもくれた(ここでデビちゃんが♀だということを全員が初めて知った)。


 そんな中でも一番盛り上がることになったのは、コロネット特製の『水鉄砲』を使った遊びである。



「でんでんでんでんばばばばーん! それでは本日のメインゲームです! 『コロネットのびしょびしょサバゲー』をはじめます、なのだー!」


 

 コロネットとデビちゃんが拍手をして盛り上げる中、配られた手元のそれを眺めてエステルがつぶやく。


「み、水鉄砲……なんだか懐かしいおもちゃね……」


 樹脂を固めた簡易な造りの、至って普通の水鉄砲ウォーターガン。聖都や他の街にも似たようなものは存在し、子どもたちには馴染みのあるおもちゃだ。本物の銃は非常に高価な近代兵器であるため、多くの大人たちにとっても見たことがあるのはこちらの方であろう。コロネットいわく、この島に流れ着いたものを集めて改造していたら結構な数になったのだとか。


 エステルが水鉄砲の軽いトリガーをスコスコ引きながら言う。


「けれど、いまさらこういったおもちゃで子供たちと混じって遊ぶ気はしないのだけれど……」

「まぁなァ。オレらはガキどもがやってんのでも眺めてっかね」

「うーむ。確かに俺たちは控えるべきだろうか」

「えっ? ク、クレスさんたちは参加しないんですか?」

「ああ。俺たちが参加してしまっては、子どもたちが楽しめないだろう。いや、もちろん遊びのルールにはよるだろうが……」


 さすがにクレスたちの身体能力では、子どもたちと差がありすぎるためだろう。

 そうやってクレスたち大人組が参加を控えようとすると、既にやる気だった子どもたちが「ええ~!」と不満そうな声を漏らす。両手で抱えるほどひときわ大きな水鉄砲を選んでいたリズリットが恋人の浮気現場でも目撃したような顔をしており、意外にも一番やる気のようであった。


 そこでコロネットが仁王立ちして腰に手を当てながら笑う。


「ふっふっふ、あんしんしてほしいのだ~! 『コロネットのびしょびしょサバゲー』はただの水あそびじゃないのだ! オトナもコドモも、男の子も女の子も、みぃんないっしょになってあそべる楽しいウキウキゲームなのだ!」

「む。そうなのか?」

「うん! しこーさくごの末によーやく完成したゲームなのだ。だからクレスたちもえんりょなくさんかするのだ! じゃあまずルール説明しまぁす!」


 満面の笑みで語るコロネット。クレスたち大人組はそれぞれ顔を見合わせた。


 それからデビちゃんが触手で掴んだ赤と青の二本の旗を持ってくると、コロネットが大きな声でルールの説明を始めた。


「このゲームは、いっぱい水にぬれて楽しくあそぶゲームです! フィールドはこの島ぜんぶです! 赤チームと青チームにわかれてさくせんをねって、さきに相手チームをみんなたおすか、相手チームのハタをうばいとっちゃえば勝ちなのだ! 勝ったチームには、『ごーかしょーひん』も用意していますなのだ!」


 意外にもそれなりのゲーム性があったことでなのか、砂浜に寝っ転がっていたヴァーンが「ほぉ?」とわずかばかりに興味を示す。


「チーム戦ねぇ。ガチバトルでやりあってもいいし、戦略的に旗を奪ってもいいと。旗を守るために攻守のバランスも考えなきゃいけねぇし……ハッ、ガキの遊びにしちゃなかなか手が込んでんな」

「小さいころから、デビちゃんやみんなと一緒にあそんで作り上げたゲームなのだ! チームはバランスよくわけたからあんしんするのだ。それじゃあチームをはっぴょうするのだ~!」

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