♯97 女湯sideⅡ
フィオナと腕を組んで密着しながらソフィアが言う。
「お風呂なんだからリラックスリラックス~。そんなに固くならないで! それにさ、わたしからすればフィオナちゃんの方がスタイル抜群の美少女ちゃんなんだけどなー?」
「へ?」
「だって髪は綺麗な銀髪だし、おめめはパッチリだし、肌はつるつる! なによりもぉ……わたしとは歳も同じくらいなのにぃ……どうしてこんなに胸がおっきいのーっ!」
「ひゃわぁ!? せ、聖女さまっ!?」
その場でフィオナに抱きつき、両手でフィオナの胸を鷲掴みにするソフィア。そのままゆっくりと揉みしだき始めた。
「うわっ、おお~~~なにこれすごぉーい! おっきくて、ふわふわで、もちもちして、スベスベな……」
「んんっ! あ、あの……聖女さまっ? ――あんっ! だ、だめですぅっ、そこはっ」
「それにフィオナちゃんの反応がカワイイ……。あれ、なんかイケナイ気持ちになっちゃいそう……えへへ……おっぱいってすごい……」
ポワーンと恍惚の表情を浮かべるソフィア。白い指先は繊細な手つきでフィオナの胸に沈みこみ、時折不意に先端に触れてフィオナが高い声を上げる。
さすがにメイドが「はしたない真似はおやめください」と口を挟み、ハッとしたソフィアはすぐフィオナからその手を離した。
「わっ、ごめんねフィオナちゃん! つい気持ち良くなっちゃって!」
「い、いえ。ちょっとだけ驚きましたけど……」
いそいそと胸を隠そうとするフィオナだが、腕に収まらないそのボリュームにソフィアは感嘆するばかりだ。
「ほんとにごめんね? なんだかつい気持ち良くなっちゃって……お詫びに、わたしのも好きなだけ触ってどうぞ!」
「ええっ!? せ、聖女様にそんなこと出来ませんよ~! あの、ちょ、ちょっと驚いてしまっただけですから大丈夫ですっ」
「遠慮しないでいいんだよ? 仲良くなるには裸の付き合いがイチバン! というわけでぇ、もっと仲良くなろ~!」
「わぁ~~~!?」
ソフィアが勢いよくフィオナを押し倒し、二人は飛沫をあげて湯の中に沈む。メイドがため息をつきながら二人を救出し、エステルがくすりと笑った。
「ふふ、聖女様に触れてもらえるなんて光栄なことね。それに……なんだかそうしてじゃれあっていると、姉妹のように見えるわ」
エステルの言葉に、フィオナとソフィアがお互い顔を見合わせる。頭からずぶ濡れになった二人は、そのままおかしそうに笑い始めた。
それからソフィアが言う。
「んふふ、それにしてもクレスくんはすごく幸せ者だね~。こーんなフィオナちゃんをお嫁さんに出来たんだから!」
「え? ど、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよー。さっき、フィオナちゃんはわたしたちをキレイだって言ってくれたけどね、フィオナちゃんだってすっごいキレイなんだよ?」
「聖女様の仰るとおりよ。正直なところ、私のような体型の女から見ればフィオナちゃんは羨望の固まりみたいなものね」
「ニャ-。フィオナはイイニオイだし、ふにふにしてるし、優しいから好き!」
「皆さまの仰る通りかと」
「え? え? わ、わたしが?」
各々の発言に、フィオナは何度もまばたきをする。まさか皆にそう思われているとは考えてもいなかったようだ。
未だにフィオナと密着したままのソフィアがキリッと凜々しい目をして話す。
「フィオナちゃんはさ、もっと自信を持っていーの! あのクレスくんを捕まえたくらいなんだし、こーんな魅力的な身体を持ってるんだから、それを自覚してクレスくんにどんどんアピールしないと!」
「ア、アピールですか?」
「そうだよー。男の人が外でおいたしないように、お嫁さんはちゃ~んと旦那様を魅了しておかなきゃ! この身体はもちろん、笑顔と涙も女の武器だよ! ってお母様が言ってた!」
「女の……武器……!」
力説して拳を握るソフィアの迫力と前聖女のありがたいお言葉に、フィオナはごくんと息を呑む。
ソフィアはそこでようやくフィオナから身を離し、ぐーっと背伸びをしてから言う。
「なんとなーく想像できたけど、フィオナちゃんもクレスくんも真面目そうだからな~。きっとあんまりスキンシップしてないでしょ? ダメだよー、新婚さんなんてもっとラブラブしないと」
「ら、らぶらぶですか」
「そうね。結婚して精神的な繋がりは強まっているでしょうけれど……クーちゃんがあの野獣のようにフィオナちゃんを手込めにするとは思えないし、夫婦関係を良好に保つためにも、フィオナちゃんが積極的に誘うべきかしら。わたしは、あなたたちのプラトニックなところも好きだけれどね」
「ニャー。オスはメスが大好きだからねー。メスがいっぱい甘やかさないと、すぐ別のメスのところにいっちゃうかもしれないにゃ」
「私はそのようなことには知識がありませんが……私が知る限り、妻が優位に立っている家庭の方が上手くいく傾向にあるようですね」
さらにエステルとショコラ、メイドまで続き、フィオナは真剣に考え込む。
「そ、そういうものなんでしょうか? もっと、積極的になった方がいいのかな……。他の夫婦さんたちって……も、もっと大胆なんでしょうか……?」
「そうだよフィオナちゃん! 新婚さんはもっとこう、こっちが話を聞いていられないよーってくらいにイチャイチャしないと! 二人の世界に入っちゃって周りが見えなくなっちゃうみたいな! そうやってラブラブを高めるのだ!」
「ラブラブを高める……!」
ソフィアたちの助言に感心するフィオナ。
結婚し、初夜を迎え、お互いの愛が最大限まで高まったと思っていたフィオナであったが、それでは足りないのかもしれない。
クレスの浮気などありえないどころかそもそも考えたことすらないフィオナではあるが、自分よりも魅力的に思える美女たちは近くにだってこんなにいるのだ。将来どうなるかはわからない。
それに、クレスの命は自分の魔術が繋いでいる現実がある。
その責任を取るためにも、一生をかけてクレスを守りたい。もうクレスの身体に異変なんて起こしたくはない。ならば、セシリアが言っていたように精神的な繋がりをさらに強めていく必要があるだろう。その方法もセシリアから教わっているし、幸い、セシリアから預かった『あの薬』もある。
そう思ったとき、フィオナの瞳にやる気の炎が灯った。
「……うん、そう、ですよね。わたし、結婚してなんだか気が抜けてしまっていたような気がします。でも、クレスさんをもっと幸せにするためには、ここからまだまだ頑張らなきゃなんですよね。わかりました! わたし、もっとがんばってラブラブを高めます! 最高で最強なお嫁さんになるんです!」
「あははっ、フィオナちゃんにとっては自分よりクレスくんの方が優先なんだねー。相談ならわたしいつでも受けるからね! そういうときはお城に来て! 時間つくる!」
「良い心がけね。何かあればまた連絡してちょうだい。もうしばらくは聖都にいると思うから」
「フィオナがんばってねー! また薬が必要だったらウチがお店に送ったげる~!」
「ご夫婦の良好な関係を影ながら応援しております」
決意を表明したフィオナに、皆はそれぞれ温かい声を掛けてくれる。その喜びにフィオナは思わず手を組み合わせた。
「聖女さま……エステルさん……ショコラちゃん……メイドさん……はい! ありがとうございます! がんばりますね!」
すると、そこでソフィアがまたフィオナの腕を取って言う。
「ところでフィオナちゃんっ? “今のわたし”のときは、『ソフィア』って気軽に呼んでくれていいよー? 『聖女さま』なんて、壁を感じちゃうから寂しいし」
「え? で、ですけど」
「だいじょーぶ。ここにはわたしたちしかいないし、レミウスたちにバレなきゃ問題なしよ☆ わたしね、みんなとお友達になりたいの。こうやって、みんなと一緒に遊んだりするの初めてだから。なんかね、すっごい楽しくて、つい本当の自分になっちゃう」
「聖女さま……」
「それに、フィオナちゃんには特に気軽に呼んでほしいんだ。それともやっぱり、そこまではダメかな?」
じっとこちらを見つめるソフィアの美しい瞳に、フィオナは吸い寄せられる。その目にはいろんな感情が宿っているように見えた。
「……わ、わかりました。えっと、それじゃあ…………ソフィア、ちゃん?」
そう呼ぶと、ソフィアは幼い子供のように無邪気に笑う。
「うんっ! ありがとうフィオナちゃん!」
「きゃっ。あ、あの、そ、そんなにくっつかれると!」
「あー! ソフィアまたやってる、ずるい! フィオナのイイニオイひとりじめするのダメ! ウチもおっぱいふにふにしたい!」
「わぁ! ショ、ショコラちゃんまで? や、やめてくださぁ~~~い!」
二人にくっつかれて身動きが取れなくなるフィオナ。そんな光景にエステルがクールに微笑み、メイドも静かな顔で見守っている。
そこで露天風呂に続く内湯からの扉が開かれ、新たな入浴客らが姿を現す。
「こんばんはー? えーっと、お誘いありがとう。店が忙しくて遅れちゃったわけなんだけど、ホントに聖女様もご一緒なのね……。これ、あたしたちも来て大丈夫なやつ……?」
「はわわわわ……リ、リズ処刑されませんかっ? へいきですか!? あのあの、リ、リズはどうすれば……!?」
姦しい夜の露天風呂を見て、セリーヌとリズリットの二人は目を丸くするばかりであった。
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