♯56 聖女ソフィアちゃんプレゼンツ
それからは聖城内の大広間によって聖女発案による披露宴が始まり、各テーブルを埋め尽くすほどの料理が提供され、街中の人々がお祝いのプレゼントや出し物を披露。
もちろん、以前フィオナが搾乳経験をさせてもらった『聖牛』のミルクやそれを使った食べ物なども振る舞わされ、盛大なお祭り騒ぎとなった。
ここまでの規模の披露宴を執り行うのは貴族や有力者など裕福な家庭の夫婦のみであり、それでもここまで金の掛かった宴など普通は行わない。
今回はクレスとフィオナ二人のために街中からお金と――そして善意が集まったからこそ、ここまでのことが出来ていた。それは、聖女が代表として、先頭に立って式を成功させようと邁進していた結果でもある。
今では都民の前でも時折“素”を見せるようになった聖女ソフィアの姿には多くの者たちが信頼を寄せており、“普段の『聖女』らしい浮き世離れした凜々しいお姿も良いが、年齢相応な女の子らしい『ソフィア』の姿も愛らしい”と、彼女のファンが増えたことも理由である。
そして時間は過ぎていき――
「ハイハァーイ! 皆さんお待たせしましたー! 主役の新婦さんが戻ってきましたよー! お色直し完了でーす!」
披露宴も半ば。セリーヌが大きな声を上げて近くの控え室から戻ってくると、大きな拍手が起こる。
その後ろにいたのは、ドレスチェンジしたフィオナと、裾を持ってサポートするリズリット。
先ほどの純白なドレスとはまた違う魅力を持つ、淡い桃色の花をイメージされた煌びやかなデザインのドレスはフィオナの美貌をより新鮮に引き立てており、見る者を虜にする。着替えを手伝ったシスターたちも思わず手を組んでしまっているほどである。
「クレスさん、ただいま戻りましたっ。あの、ど、どうでしょうか……?」
「うん。そのドレスも綺麗だね。とてもよく似合っているよ」
「え、えへへ……ありがとうございます!」
その場でくる、と回って見せるフィオナ。また場内から拍手が起こる。
「セリーヌさんとご両親にも、後で改めて礼を言おう」
「はい、そうですねっ」
賓客席でこちらに目を向けてくれているフィオナの両親に、クレスとフィオナが二人で頭を下げる。また父親の方だけが泣いており、母親が隣からハンカチを渡していた。
今フィオナが着ているドレスは──元々、フィオナの母が結婚式の時に着用したものだった。
それを是非フィオナにも着てほしいということで譲り受け、セリーヌが今風に少々のリメイクを施したのである。
「……うううう~」
「ん? フィ、フィオナ? どうした?」
突然、口元をむずむずさせながら眉をひそめたフィオナに、クレスは少々驚く。
するとフィオナが言った。
「嬉しすぎて、もう泣いてしまいそうなので、我慢、しているんです~~~」
「え?」
「せっかくの、おめでたい席、なのに、もう、これ以上は、泣きたくないんです~~~」
そう言いながらも目を潤ませているフィオナに、クレスは思わず笑ってしまう。泣いてもいいではと思ったのだが、それもまたフィオナらしいとクレスは感じていた。
そこで、新郎新婦二人が座るメインテーブルの近くにある壇上から、聖女が注目を集めるように軽く聖杖を掲げて言う。
「お集まりの皆さま。本日は、お二人のために本当にありがとうございます。新婦のお色直しも終わったところで、いよいよとっておきのイベントを始めたいと思います。神に祝福されしお二人をさらにお祝いするために、僭越ながら
『おおおお~~~!』
会場から空気を震わすほどの歓声が響く。
「ん。いよいよ聖女様の出番か」
「わわっ。な、何が始まるんでしょう……!」
盛り上がる熱気に、クレスもフィオナもそわそわとする。当事者である二人も詳しいことは何も聞かされていない。
「昨日まで、シスターさんたちがいろいろと街を駆け回っていましたよね? 聖女様もちょくちょく街に出ていらしたようですし……それと関係しているんでしょうか?」
「どうだろうか。聖女様が一体何を考えているのか、俺にはまるで見当が……」
そもそも雌の聖牛にクレスの名をつけるような乙女である。クレスには依然として彼女の思考はわからない。
今回の披露宴を聖女がすべて自分で執り行うと決まったときから、新郎新婦である二人にさえこのことだけは一切の情報が秘密にされてきた。何が起こるのか知っているのは聖女本人と、準備に奔走したシスターたちのみである。教会の幹部たちにさえ秘密裏に進められてきたイベントが、今幕を上げようとしていた。
ざわつく会場で、聖女が「こほん」と咳払いをする。傍らの専属メイドが静かに拡声器を用意していた。
聖女──ソフィアは息を吸い、大きな声で宣言した。
『ソフィアちゃんプレゼーーーーンツ! 第1回! 《幸せをお裾分け! 聖都を駆けめぐってあなたも幸せになっちゃうお宝探しゲーム》の開催で~~~~~~~~すっ!!!!』
その高すぎるテンションに呼応して、すぐに大歓声が飛ぶ。既に聖女モードが終了したソフィアが「どうどう! 落ち着いて!」と皆をなだめた。
クレスとフィオナは、揃って目を点にする。
「お、お宝探し?」
「ふぇ……せ、聖女様は何を……」
メインテーブルでそわそわと緊張する二人を横目に、ソフィアは続けて説明をする。
『ルールは簡単っ! 参加者みんなでこの聖都を駆け回って、あちこちにたくさん隠してある『宝箱』を見つけてください! その中にはいろんな“宝物”が入っています! 例えばアタリのものだと無料で結婚式を挙げられる特別優待ペアチケットや、中にはお家一軒プレゼントする契約書なんてものもあったりするよ! もう大奮発しました! 他にもたくさんのお宝がいっぱいです!』
『うおおおおおおお~~~~~~!!!!』
豪華なプレゼント内容に歓喜する一同。だが教会幹部たちは大いに慌てていた。当然ながら、その宝物には教会の資金が使われているだろうからである。
ソフィアは胸を張って「ふっふっふ」とほくそ笑む。
『そしてそしてぇ……一番の大アタリはぁ……』
もったいぶるような言い方で自身の頭部を指差すソフィア。
途端に、全てを察した一部の教会関係者たちが青ざめる。
──そこには、
本来彼女のプリズムヘアと、そして聖杖とセットになるべき教会の至宝が、なくなっていた。
果たしてソフィアは言った。
『わたしの冠!
一瞬だけ、時が止まったように静まり返る。
そして、全員が大声を上げて仰天した。
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