♯31 酔っ払い美少女魔術師は脱ぎ上戸?

 素直なクレスの質問に。


 ヴァーンとエステルが、凄まじい勢いと形相でクレスの方に顔を近づけてくる。


「オイオイオイオイやめろやクレス。祭りの席でもさすがにそれはねーぞコラボケ!」

「クーちゃん。言っていい冗談とそうでない冗談があるのよ。貴方の質問は後者。今すぐに撤回して。もはや冗談ではすまない蔑視よ」


 ズズズ!ズズズッ!と詰め寄ってくる二人。

 もはや凄みや殺気すら感じられるその迫力に、クレスは目を点にした。


「そ、そうなのか? すまない。二人は以前からずっと仲が良いように見えていたから……」

「ハァァァァァン!? マジかよオイ! テメェ! それなりに長く一緒に旅した仲だろーが! このオレがこんな冷血貧乳女に惚れてるとでも思ってんのか!? つーか仲良くねぇだろ!? どんな目してんだよ!」

「こんな目だが」

「うん、曇りのねぇクソ真面目野郎の目だね! ってバカヤロー! かぁーたまったもんじゃねーぞコラ! だいたいオレはフィオナちゃんみたいな清楚系巨乳が好きなんだ! オレ様の好みぐれぇ知っとけや!」

「ふぅ、気持ちの悪い人ね。たまったものじゃないのは私の方だわ。目が合っただけで女を妊娠させてしまうような危険人物と旅をする私の清廉な覚悟を察して」

「ブハハハ!バカかテメーはそんな人間いるわきゃねーだろ!」

「つまり貴方は人間ではないということね。納得だわ。これからは『性獣ヴァーン』と呼びましょう」

「いや納得すんな! 呼ぶな! つーかな、そもそもお前みたいのが結婚できるわけねぇだろが! そっから勘違いなんだよ貧乳チビ!」

「いいえ、しようと思えばいつでも出来るわ。そうね、明日にでもクーちゃんの第二婦人になってもいいのよ」

「ハァァァ? ブハハハハ笑わせんな! フィオナちゃんみたいなパーペキ巨乳美少女がいるってのに、クレスがお前みたいなヤツと結婚するわけねーだろ! そもそもお前みたいな可愛げも乳もねぇ幼児体型のクールぶった勘違い女が調子にのん――ぎゃあああああ!? オイコラ無言で酒ごとオレの手凍らせんじゃねえええええ!」


 ヴァーンを無視したエステルは立ち上がって席を移動し、クレスの隣でじっとこちらを見つめてくる。


「クーちゃん、私のことは嫌いかしら」

「いや、嫌いなわけがないだろう」

「可愛いと思う?」

「ああ」

「胸がぺったんこでも?」

「関係ないと思うが」

「なら好き?」

「ああ」


 その答えに、エステルは満足そうに薄い胸を張って流し目を送る。


「見なさい、ケダモノ男。これが大人の女の魅力よ」

「クレスの返事はどう聞いてもそういう意味じゃねーだろ!? いいからこの手ぇどうにかしろ!」

「私もクーちゃんが好きよ。幸せになりましょうね」

「ん? エ、エステル? どういう意味だ?」

「子供は何人作りましょうか。南の温かいところに住むのもいいわね。少し憧れがあるわ」


 そっとクレスの腕に抱きついてくるエステル。

 クールな無表情でそんなことを言われるものだから、クレスには冗談なのかなんなのか、よく意図がわからなかった。だから反応に困ってしまう。


 そこで、クレスの逆の腕が強く引かれた。


 クレスがそちらを見ると、フィオナが目を細めてこちらを見ている。



「クレスしゃん…………浮気れすかっ!」



「えっ?」


 がばっと起き上がったフィオナは、なんといきなりクレスにキスをしてきた。


 ほんのり酒の匂いがするキスに、クレスは呆然となる。


「──なっ! フィ、フィオナ?」


 そんなクレスをフィオナはさらに強く引っ張り、その勢いにエステルが思わず手を離す。


「クレスしゃんのおくさんは、わらひです! わらひが、ずっと、ずぅっと、クレスしゃんのおせわをするんれす! わらひだけが、おくさんなんです!」

「フォオナ、よ、酔っているのかい?」


 キッ、とクレスの方に視線を向けるフィオナ。

 眉尻が上がっており、その目はあきらかに据わっている。


「酔ってなんか……いましぇん! わらひはオトナなので、酔いませんっ! です!」

「呂律が回っていないし、酒を飲めば普通は大人でも酔うものだが……む、無理はしないほうがいい」

「酔っていましぇんっ! ですかりゃ、いますぐさきほど話した宿屋さんにいきましょふ!」

「え? な、なぜ?」

「ふーふとして、おとなのかんけいになるためれす!」

「大人の関係?」

「わらひだって、たくさんべんきょうしたんれしゅ! クレスしゃんのために、たくさんおべんきょーしたんれす! だから、らからっ」

「あ、ああ、うん。わかっているよ。と、とにかく一度落ち着こう」


 完全に酔っ払ってしまった彼女をなんとかしようとするクレスだが、酒の力によっていろいろなタガの外れたフィオナはこんなことまで言い出した。


「だから……えっちなことだってできましゅ!!」


「!? フィ、フィオナ!?」


 大声でそんな大胆宣言をしたフィオナは、肩に掛かっていたクレスの上着をはね飛ばし、なんとその場で服を脱ぎ始めた!

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