永遠の闇3

「みんな、大丈夫か……?」

 あたりは何者かが落下してきた土煙と、もとからこの部屋に充満していた闇のブレスがもうもうと立ちこめて仲間の状況がよく見通せない。慎一郎は咄嗟に〈念話〉で皆の状況を確かめた。


『高橋です。あたしは大丈夫!』

『問題ありません。あ、今井です』

『細川、問題なし。オーバー』

『菊池だ。こちらも問題ない』

 どうやら、仲間たちは全員無事のようだ。


『しかし、何が起こった?』

 いつしか、慎一郎の周りを多くの〈エクスカリバーⅢ改〉が彼を守るように浮かんでいた。メリュジーヌも剣を戻したようだ。

 剣に風を纏わせ、このもやを吹き飛ばすことも考えたが、状況がわからない今の状態では危険すぎる。


「みんな、その場で待機。何かあったらすぐに〈念話〉で連絡してくれ。くれぐれも警戒を解かないこと」

 慎一郎の指示にそれぞれが『了解』という返事を返してきた。


 あたりを取り囲む土と闇のブレスが混ざったもやはしばらくすると徐々に晴れてきた。

 その向こうにやがて現れる大きな


「なっ……!」

『なんじゃと……!?』

 慎一郎とメリュジーヌがともに絶句する。煙が晴れた先に見えたのは。どちらも全く同じ形状をしている。


『全員、距離を取れ! 密集していては一気にやられるぞ!』

 メリュジーヌの言葉に即座に動く仲間たち。


『くっ……。奴の気配がわからんかった。この部屋全体を薄くブレスで覆っていたのはそういうワケか!」

「はははははは! ヴァーカ。やっと気がついたか、竜王よ。てめーも落ちぶれたもんだ。こんなフェイクも見抜けないなんてな」

『…………』


「死霊術士舐めんなってんだ……!」

「シンイチロウ。二体のうち、どちらか一体を引き寄せられるか? 奴らを引き離さねば勝てるものも勝てぬ』

 メリュジーヌが慎一郎にしか聞こえないように耳打ちした。


「やってみる」

 慎一郎が二体のうち、近い方のヴァースキに向かって走っていく。

 しかし、その動きは敵からも見えていた。


「見ぃつけた!」

 その声と共にまだあたりを薄く包む土煙をかき分けて炭谷が猛スピードでやってきた。


「くそっ……!」

 鋭く剣を振り下ろす炭谷に慎一郎は〈エクスカリバーⅢ改〉で防戦する。

 炭谷の攻撃で体勢を崩さなかった慎一郎は反撃に出た。残る〈エクスカリバーⅢ改〉を全て振り分けて〈ドラゴンハート〉と共に連続攻撃を行う。メリュジーヌのものとあわせて合計三十三本の手が絶妙にタイミングをずらして炭谷に襲いかかる。


「ははははははははははははは!」

 しかし炭谷はその全てを信じられないほどの手さばきで全て弾いてみせる。

「その程度か? もっと来い、全力でな! 叩き潰してやっからよォ!」


 三十三本の片手剣からの攻撃を捌きながら、炭谷はさらに間合いを詰めてくる。その動きはすでにヒトの領域を越えている。


『こやつの動き……何じゃ……?』

 いくら竜人といえど、ヒトの姿形をしている以上、その身体能力には自ずと限界がある。しかし炭谷のこの動きはそれを大きく凌駕している。嫌な予感にメリュジーヌは肉体を持たぬ身でありながら背筋が寒くなるのを感じた。


「とうちゃくぅ~」

「…………!!」

 気づけば炭谷が文字通り目と鼻の距離にいた。背の低い炭谷が下から見上げるように慎一郎の顔をしたから挑発するように見上げてくる。息がかかるほどのゼロ距離だ。


「くっ……!」

 この距離では不可視の腕に持った〈エクスカリバーⅢ改〉はもちろん、〈ドラゴンハート〉も近すぎて使うことができない。

 慎一郎の目の前で炭谷はにやりと笑い、右手に持った彼の片手剣を捨てた。


「それじゃ……死ね」

 次の瞬間、片手剣を持っていた反対側の左手に密かに握られていたナイフが慎一郎の顎目がけて振り上げられた。


「…………!」

 瞬時の判断で首を動かして避けられたのは僥倖以外の何物でもないだろう。それでもナイフは慎一郎の首筋を軽く切り裂き、赤い血が流れる。

 振り上げられたナイフを炭谷は今度は逆手に持ち替え、首筋目がけて振り下ろしてきた。


 しかしこれはある程度読めていた。自分の身体とナイフの間に〈エクスカリバーⅢ改〉を滑り込ませ軌道を逸らした。同時に炭谷の身体を蹴って間合いを取る。


「ちっ。慣れねぇコトするもんじゃねーな。ま、俺はこれよ、これ」

 炭谷は先ほど放り投げた剣を拾って肩に担ぐ。


「さーて。どこから切り刻んでやろうかな。……ん?」

 炭谷の死角を狙って〈エクスカリバーⅢ改〉が背後から襲いかかる。しかしそれはいとも簡単に弾かれてしまった。


「ちっ。厄介な手だ」

 忌々しげに吐き捨てたが、その表情はすぐに喜色に変わる。


「いいこと思いついた。お前、そんな芸当ができるなら、もう腕はいらないよな? 決めた!」

 炭谷は猛然と慎一郎に斬りかかってくる。


「お前の左腕も斬ってやるぜ……!」

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