永遠の闇2
「お前の相手は俺だっつったろ?」
「速い……!!」
目の前に突然、炭谷が現れ、そのまま斬りかかってきた。
ヴァースキの所にすでに放たれていた〈エクスカリバーⅢ改〉はもう間に合わない。慎一郎は咄嗟の判断で〈ドラゴンハート〉を炭谷の剣の間に潜り込ませ、ぎりぎりのタイミングでその攻撃をはじき返すことに成功した。
しかし炭谷の勢いはそれで減じることはなく、さらに二の太刀、三の太刀を繰り出してくる。
「くっ……!」
「はははははははははははは! 踊れ踊れ!」
炭谷の勢いに慎一郎は間合いを取るために後ろに下がるしかない。必然、ヴァースキとは離れていく。
「浅村君!」
菊池が加勢しようと慎一郎の所に駆け寄ってくる。しかしその眼前に巨大な影が現れた。
「ちっ……」
ヴァースキが菊池の前に立ち塞がり、やむを得ず間合いを取る。
『ミズチ、そなたはヴァースキを抑えよ。わしも加勢する。シンイチロウよ、そなたにこの男は任せるぞ!』
「わかった!」
前方に出ていた三十二本の〈エクスカリバーⅢ改〉のうち、半分が戻ってきて、もう半分は菊池が抑えているヴァースキの方へと飛んでいった。
「さあ、お楽しみの虐殺タイムだ。切り刻んでやるぜぇ……」
慎一郎の前に立ち塞がった炭谷が不敵に笑う。
そのとき、こよりはドーム型の封印の間の入り口に残っていた。
慎一郎たちがそれぞれのポジションに向けて走り出したとき、こよりは援護をせず、持ってきた大きなリュックの中身を検め始めた。
「……よし」
リュックをひっくり返し、中身を全て出す。
出てきたのはすべて石ころだった。色とりどりの石ころ。鉄鉱石やその他の鉱石、宝石の原石も含まれている。
こよりはそれをそれぞれが同じ割合になるように五つの山に分けた。山の下には魔法陣が描かれた大きなマットが敷いてある。
魔法陣に手をつき、呪文を唱え始めた。
少しすると、魔法陣が光り始め、それに釣られるように石も光っていく。
石はまるで自らの意思を持ったかのように動き始め、それぞれの融合してひとつになっていく。五つの山、すべてで同じ事が起こっていた。
融合した石は銀色に輝きを放ちだし、まるでパンを捏ねているかのように自在に形を変え、やがてずんぐりした人型の人形になった。
それはいつものこよりのゴーレム、“レムちゃん”であった。銀色に輝いていることを除けば。
こよりはさらに別の呪文を唱え始めた。
背に一から五の番号が刻んであるゴーレム達は魔法陣の中央に集まり、円陣を組んだ。まるでスポーツをするかのようである。
しかし彼らは円陣を崩すのではなく、そのまま融合しつつあった。硬いゴーレムがそれぞれ肩を組んでいるその部分だけがグミのように柔らかく変わり、徐々にその境目がなくなっていく。
気がつくと五体いたゴーレム達は全てが融合してひとつの大きな塊になっていた。
少しいびつな銀色に光るその塊は銀ではなく、近年になって開発された新素材、超硬ミスリルと呼ばれる素材だ。硬くて魔法をよく通し、耐性もある素材。
こよりはこの一ヶ月を掛けて地下迷宮を探索する部に材料を集めさせ、ようやくこれだけの超硬ミスリルを手に入れたのだ。その一部は慎一郎の〈ドラゴンハート〉にも使用されている。
「はい!」
呪文を唱え終えたこよりが手をぱんと叩くと、銀色の塊から頭と手足が現れた。その額にはピンクダイヤモンドが輝いている。そして足元にあった魔法陣が描かれたシートがふわりと浮かび上がり、ゴーレムの背に装着されマントのようになる。
全高二メートル半にもなるゴーレムの完成だ。体育館やプールを素材にしたゴーレムと異なり、大きさはそれほどでもないが、超硬ミスリルを素材にした純粋なゴーレムなので戦闘力は比較にならないレベルにある。
「レムちゃん!」
こよりが菊池と戦うヴァースキを指さすと、ゴーレムは『も”も”!』と返事をしてのそのそとした足取りでドラゴンへと向かっていった。
ヒトの姿でドラゴンと戦うのは初めてだった。しかし、ドラゴンの特性はよくわかっている。動きを読むのは容易かった。
菊池は巨大なヴァースキの攻撃を絶妙のタイミングでかいくぐり、足元にたどり着くと魔法で刃が作られる“無銘”でドラゴンの脚を切りつけた。
ヴァースキが叫ぶ。
ドラゴンゾンビの肉体は痛みを感じにくいとされているが、ここまで痛がるということはそれなりにダメージを与えているはずだ。
しかし同時にドラゴンゾンビはタフだ。ドラゴン以上に。
生者ならとうに倒れていてもおかしくないダメージを受けていても平気で襲いかかってくる。
「やはり全身を切り刻むしか手はないか……」
菊池はそう考えながらドラゴンの攻撃を再びかわし、カウンターで攻撃を加える。
上の方ではメリュジーヌの操る〈エクスカリバーⅢ改〉が攻撃を加えるのが見えた。
順調に相手にダメージを与える菊池達。しかし、彼は同時に違和感を覚えていた。
(おかしい……。こんなに手応えがないはずがない……)
ドラゴンゾンビとなってその特性が変わったとはいえ、かつては〈十剣〉の“零の剣”であったドラゴンだ。しかし今、菊池の攻撃をなすすべもなく受け続け、遠距離からの援護攻撃を躱すこともできない。
ヴァースキの口が開いた。口元に黒い粒子が集まってくる。
「ブレス……!?」
黒霧が勢いよく吐き出された。それは全てを腐らせる死の霧であるが、完全な対策が施されている今の菊池には恐れるものではない。
「ふんっ!」
菊池が光の剣を振るうと、周囲の霧がかき消えた。霧を目くらましに攻撃を仕掛けて来るのかもしれないと警戒したが、ヴァースキはメリュジーヌからの攻撃に対処しているようで菊池を見ていない。
しかし――
「菊池さん、危ない!」
背後からの声にそちらを向こうとしたとき、菊池の横合いからヴァースキの尾がなぎ払われてくるのを見た。咄嗟に防御の姿勢を取る。が、間に合わない。
その時、視界の外から大きな影が菊池と尾の間に割り込んできて尾をしっかりと受け止めた。石に石を叩きつけたような鈍い音。
こよりの作りだしたゴーレムがそこにいて、しっかりとヴァースキの太い尾を両手で掴んでいる。
「すまない、助かった!」
そう叫びながら、再び頭をよぎる違和感に顔をしかめる。
(何かがおかしい……なんだ……?)
――ギャァァァァァァァァ!
ヴァースキが再び叫んだ。同時に再び尾がなぎ払われる。
「わかっていれば……!」
菊池は冷静に尾の軌道を読んで、体勢を低くしてこれを回避した。ぶんという空気をかき分ける重い音が菊池の背を撫でる。
ドラゴンと戦うとき、その尾は最も気をつけなければならない攻撃だが、来るとわかっていればどうと言うことはない。先ほどのように不意を突かれるなどという失態はもうしない。
「…………?」
また違和感。
「待て。何故僕は最初に不意を突かれた?」
ドラゴンの身体の構造はよく理解している。相手がドラゴンゾンビといえど、そのちょっとした筋肉の動きから次に次の動きはある程度予測できる。菊池には絶対に自信があった。
「そうか……わかったぞ……!」
菊池の違和感の正体。それはないはずのものがあるということにあった。頭からその動きが完全に消えていたために、不意打ちを受けたのだ。
菊池は自らを踏み潰そうとするヴァースキの脚をうまく躱しながらこの場にいる仲間たちに向けて叫んだ。
「皆! 気をつけるんだ! こいつはヴァースキじゃない! フェイクだ!」
「……!!」
『なんじゃと……!?』
「ご名答……!」
瞬間、巨大な質量が落下し、轟音と共に衝撃がそこにいる全ての存在に叩きつけられる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます