運命のカウントダウン6
聖歴2026年12月28日(月)
普段ならばとうの昔に冬休みに入り、暮れも押し迫った頃、慎一郎は姫子に呼び出され、彼女がいつも作業をしている中庭にある鍛冶部の炉までやってきた。
そこは真冬ながらもまるで夏のように暑い。つい先ほどまで作業していた炉にはまだ火が入っている。
「で、できた……ついに……できました。うひっ……!」
姫子の前に並んでいるのは全部で十本の片手剣。
黒い剣身などその意匠はこれまで慎一郎が愛用していた〈エクスカリバーⅢ〉とよく似ている。見慣れている慎一郎がじっくり見てようやくその違いがわかる程度だ。
しかし、その攻撃力は劇的にアップしている。生徒会室の隠し部屋で手に入れた名剣を溶かし、惜しげもなく織り込んだ剣身は〈エクスカリバーⅢ〉より攻撃力が五十パーセントアップし、さらにとある方法で〈エクスカリバーⅢ〉では不可能だった〈浮遊剣〉状態での属性の変更が可能になっている。
「その名も……〈エクスカリバーⅢ改〉。です。うひっ!」
姫子の説明を聞きながら、慎一郎は魔力で編み上げた仮想の腕でできたての剣を持ち上げた。
縦に横に振る。なぎ払い、突き上げ、振り下ろす。
振ってみる感じ、ほとんど旧来の〈エクスカリバーⅢ〉と変わらない。
『他の剣も振ってみよ』
メリュジーヌに言われるとおり、慎一郎が今同時に使うことができる四本を同時に〈浮遊剣〉で持ち上げた。
それらはまるで四人の男女がダンスを踊るかのように中庭の中空を舞い、やがて元あった位置にきれいに戻された。
『ふむ。切れ味に関しては使ってみんことにはわからぬが、良さそうじゃの。少なくとも、ミズチが持ち込んだ剣よりは良さそうじゃ』
「それで、外崎さん」
「はひっ……!?」
突然話の矛先を向けられた姫子が驚きすくみ上がった。
「とある方法で属性を変えることができるようになったっていうのは?」
〈エクスカリバーⅢ〉は握り方を変えることによって柄に刻まれた魔法陣を起動させたり不活性化させたりしてあらかじめセットしてある属性を戦闘中に自在に変えることができた。
しかしそれは『手に握る』ことが必要であるために魔法で作った不可視の腕で剣を操る〈浮遊剣〉では使えない欠点があった。
「こ、これを……」
姫子が取りだしたのは〈エクスカリバーⅢ改〉とは異なる一本の片手剣。〈エクスカリバーⅢ改〉よりもさらに精緻な意匠が施されている。
それだけではない。濡れたような表面をしている剣身には光の当たり方によってさまざまな魔法陣が見え隠れしている。柄の部分には〈エクスカリバーⅢ改〉以上に細かい魔法陣が描かれている。
「これは?」
「こ、これは浅村氏が左手で持つ専用の剣。〈エクスカリバーⅢ改〉の属性はこの剣と同じ属性になる」
『ほほう、なるほど。さしずめ剣たちの司令塔と言うところじゃな。この意匠といい、込められた技術といい、見事な出来じゃ。わしはこれ以上の名剣を見たことがない』
「えへへ……」
メリュジーヌからべた褒めと言っていいレベルで褒められた姫子は腕で自分の頭を抱えてくねくねと奇妙な動きで照れている。
「やってみよう」
姫子からその剣を受け取った慎一郎が剣の掴み方を変える。その剣身がほのかに赤く輝いた。炎の属性を纏わせたのだ。
すると足元に置いてある十本の〈エクスカリバーⅢ改〉の剣身も同じようにうっすらと赤く輝く。
慎一郎が持ち方を変えると、今度は手持ちの剣の色が青白く、氷属性に変わった。それにあわせるように〈エクスカリバーⅢ改〉の色も同じように変化していく。
握り方は従前の〈エクスカリバーⅢ〉と同じだから、説明なく使いこなすことができた。雷属性に、無属性に、その他にもさまざまな属性に切り替えて試してみた。
『うむ。見事である』
慎一郎が剣を柄に戻し、メリュジーヌが満足げに頷いた。
『で、この剣の銘は何じゃ? やはり、エクスカリバーⅣか?』
その問に姫子はゆっくりと首を振った。この剣の名はもう決めてあると言わんばかりに。
「
「ドラゴンハート……」
慎一郎が柄に収められたその片手剣を見つめながら繰り返した。
『竜の心か。なるほど、よい名じゃ。よし。今日、今この瞬間、新たなる名剣〈ドラゴンハート〉が誕生した!』
メリュジーヌの宣言に姫子はやりきった満足感でいっぱいになった。
『よし、それではこの〈エクスカリバーⅢ改〉をあと五本、いや十本期限までに用意せよ』
「えっ!? も、もう〈エクスカリバーⅢ〉は全部使っちゃった……使いましたけど?」
「そうだぞメリュジーヌ。だいたい、そんなにたくさん作っても使い切れないじゃないか」
メリュジーヌの無茶ぶりに姫子と慎一郎が講義する。しかしメリュジーヌはどこ吹く風とばかりに肩をすくめる。
『何を言っておる。〈エクスカリバーⅢ〉もヒメコの作品ではないか。なら一から作れば良かろう。それにシンイチロウよ、わしの訓練はまだ終わっておらんぞ。二十本全て同時に使いこなせるようになるまで特訓じゃ』
「そ、そんな……」
さらなる無茶ぶりに顔が青くなる慎一郎と姫子。
『なんじゃ、できんのか? 情けないのぉ』
「む……。できないとは、一言も言ってない……言ってないです。ざ、材料さえあれば」
『よかろう。材料はミズチに調達させるとしよう。迷宮に入っている子供達に探させればすぐに見つかるじゃろうて。で、シンイチロウ。そなたはどうする? ヒメコはやる気のようじゃが?』
「わかったよ。やるよ。やればいいんだろ?」
『よろしい。ではまず八本持ちからじゃ。そうじゃな。年内に習得するぞ』
「ま、マジで? 今日、十二月二十八日なんだけど……」
やる気マックスのメリュジーヌとうなだれる慎一郎。二人の年末はまだ終わらない。
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