冬来たる9

「楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ」


「…………!!」

 慎一郎と徹が声のした方――野菜が青々と茂る暗闇の中の畑の方を見た。


『皆、伏せろ!』

 メリュジーヌの警告が飛ぶが、それよりも早く大地が大きく揺れる。

 と同時に、


「……!?」

 畑に植わっていた作物と、その作物が植えられていた畑の土が塊となり上空に巻き上げられ、やがて二人の周りに降り注ぐ。

 巻き上げられた作物が彼らに当たらなかったのは僥倖というより他にないだろう。


 慎一郎と徹はそれらに気を配っている余裕はとてもなかった。巻き上げられた土の下から出てきた巨大なものに目を奪われていたから。


 隣に立つ体育館ほどに大きな体躯。まるで夜空の全体を覆いつくさんほどの巨大な翼。そして見すくめられると魂の底からすくみ上がるような恐怖をかき立てられるその瞳。


 この地下で巽によって石化され、慎一郎たちが十二のほこらを再封印することによってそれを強化したはずのヴァースキ。

 まさにその暗黒竜が地上に現れ、慎一郎たちを睥睨していたのだ。


『貴様がヴァースキだったのか……』

 忌々しげにメリュジーヌが睨む。

 ただし、その対象は巨大なドラゴンの頭部ではなく、その上に立つ小柄な一人の人物。


 文化祭の日以来、姿をくらましていた北高剣術部の一年生、炭谷豊すみたにゆたかは全てを見下すように腕を組み、顔を歪ませる。


「よう、メリュジーヌ。ドラゴンの姿で会うのは千年ぶりか? ようやく恨みを晴らせるときが来たってワケだ」

 不気味に笑う炭谷の声に慎一郎は怖気を覚えるのだった。

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