進撃の南瓜6
聖歴2026年10月31日(土)
「ふぁ~あ、よく寝た……」
翌朝。ちょっとだけ寝坊して起きた。同室の碧はもう部屋にはいない。園芸部の朝は早いのだ。
朝ご飯を食べに高橋家のキッチンに行くと、ちょうど結希奈ちゃんがキッチンに立っていた。
「結希奈ちゃん、おっはよ~」
「おはようございます、翠さん」
結希奈ちゃんはまな板でキャベツを刻む手を止めずに挨拶した。多分、今日のお昼のお弁当を作っているのだろう。彼女、ああ見えて結構料理上手なのだ。まあ、あたしほどじゃないけど。
「おっ、アスパラの肉巻きだね。うんうん、よくできてる」
「ありがとうございます。味見、してみます?」
「えっ!? いいの? 悪いなぁ。なんか催促しちゃったみたいで」
遠慮なくとあたしは結希奈ちゃんの作ったアスパラの肉巻きをつまんで口に入れた。肉汁とアスパラの苦みがほどよくマッチして実においしい。
「うん、おいしい」
「ホントですか? ありがとうございます!」
「あ、でももうちょっと味付けは濃い方がいいかも。今日も地下迷宮行くんでしょ? なら身体が塩分を欲しがると思うよ」
「なるほど……! そうします!」
素直にあたしの助言を受け取った結希奈ちゃんは再びキッチンに向き合って料理を続けた。鼻歌なんか歌っちゃって、かわいいんだから。
あたしは炊いてあるご飯をよそい、今日の朝食当番が作ったオムレツを取り分けてテーブルに並べて自分の朝食を始めた。
「翠さん、今日は遅いんですね」
「うん、昨日いろいろあってちょっと疲れたからね~。あ!」
思い出した。昨日のアトラクションのお礼言わないと。
「昨日の結希奈ちゃんたちのアトラクション、すごく面白かったよ! まるで本当におもちゃやカボチャが動いてるみたいで」
「アトラクション? 何のことですか?」
「へ?」
あたしは口に入れかけのお豆腐を落としそうになった。
「いやだって、昨日ハロウィンでやってたでしょ? おもちゃの兵隊が『救世主様~』とか、カボチャのお化けが『ももももも~』とか」
てっきり結希奈ちゃんがからかってるのかと思ったが、結希奈ちゃんの反応は予想外だった。
「あぁ! 昨日ハロウィンだったんですね! 昨日は一日地下迷宮に籠もってたからすっかり忘れてましたよ。ダメですね、地下にいると日付の感覚がなくなってくるんです」
「マジで……?」
「それで、えっと……? 何の話でしたっけ? ああ、ハロウィンのアトラクションですか? そんなのやってたんですか? いいなぁ。あたしも参加したかったなぁ」
「……ごちそうさま」
「あれ? もういいんですか? 今来たばかりなのに」
「うん。あたしちょっと食欲ないんだ。部活行ってくるね」
「行ってらっしゃい……」
心配そうに見つめる結希奈ちゃんを後にして、あたしは登校した。
その後校内のいろいろなところをまわってみたが、おもちゃの兵隊たちはもちろん、大きなカボチャの馬車も、見渡す限りの一面のカボチャ畑もどこにもそれらの痕跡は残っていなかった。
「夢……だったのかな……」
あの日着ていた魔女のコスプレのスカートの裾が木の根っこを振り回したときに少しほつれたこと。今となってはそれだけがあの日の痕跡として残されていた。
ハロウィンの日には不思議なことが起こるという――
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