進撃の南瓜4
「救世主様をお守りしろ!」
生き残っている兵隊達があたしに迫るカボチャの前に立った。その数、わずか三。もうこれだけしか残っていないのだ。
どうればいい……? あたしは必死で考えた。あたしの与えられた仕事は救世主として加護を与えること。でも加護って……? あたしは本当に救世主なの?
必死になって考えた。だって、武器もないあたしには他に何もできやしないじゃない。そりゃ、碧に比べたらあたしはバカだけど、それでもあたしなりに一生懸命考えた。
ヒントは思わぬ所に転がっていた。
「おのれトリッカーズめ! 我ら死すともトリート同盟の志は死なず!」
そう叫んだおもちゃの兵隊は直後にカボチャに踏み潰された。
あのカボチャのお化けはトリッキーズというらしい。
トリッキーズ……トリート同盟……魔女のコスプレの救世主……。
「あっ……! わかった!」
あたしは足元に置いてあったまま放置されていたカゴを手に取った。そしてその中に手を突っ込み、ハンカチの下にある試供品のクッキーを取り出した。加護と籠――なんてダジャレだ。
「トリックオア――トリート!!」
そしてそれを思いっきりカボチャにぶん投げた!
――も”
クッキーはカボチャの頭にクリーンヒット。その衝撃でカボチャは二、三歩よろめくが、それだけだ。
「あれぇ? これも違う?」
あたし、もしかして間違った?
カボチャのうつろな目がこっちを向いたような気がした。いや、気のせいじゃない。周りのカボチャたちが足元の人形たちでなく、はっきりとあたしにめがけて進撃を始めた。
「や、やば――」
逃げ場はない。どうしようと思ったのもつかの間、変化は遅れてやってきた。
カボチャに命中して砕けた試供品のクッキーがあたりに降り注いだ。それのいくつかは傷つき倒れた、あるいは今もまだ戦っている兵隊達に降り注いだ。
「……!!」
クッキーの破片をその身に受けたおもちゃたちはキラキラと虹色の輝きを発して、みるみる大きくなって行くではないか。カボチャの怪物たちと同じ大きさ――人間サイズに。
「救世主様だ!」
「救世主様のご加護だ!」
「救世主様、ばんざい!」
加護によって力を得た兵隊達は次々と救世主――これがあたしなんだよね、恥ずかしいことに――を讃え、辺りを取り囲むカボチャに向けて反撃の狼煙を上げた。
大きさで対等になった兵隊達に対してカボチャはなすすべもない。兵隊達の統率のとれた動きにカボチャは一体、また一体と叩き潰される。
「あはははは! いいぞ、もっとやれー! トリックオアトリート!」
あたしは上機嫌になって籠の中のクッキーを手当たり次第放り投げた。
南瓜に当たって砕けたクッキーの破片がきらきらと光りながらカボチャ畑に降り注ぐと、畑の中から次々と等身大の兵隊が起き上がる。倒れた兵隊たちだ。
次々起き上がる兵隊達に対し、その兵隊達になすすべもなく叩き潰されるカボチャの怪物たち。戦いの趨勢はすでに明らかだ。
「救世主様のおかげです」
気がつくと、あたしの隣に一人の兵隊が立っていた。あたしが最初に蹴っ飛ばして、カボチャにやられてあたしの足元で倒れた兵隊の隊長だ。
その衣服から覗き見える首や手首は球体関節だったが、彼の頭部はそれまでの目鼻のない木でできた頭ではなく、金髪に大きな碧眼をもつ、人間のそれだった。
やだ、ちょっと好みかも……。
「たぁぁっ!」
隊長が気合い一閃、腰のサーベルで最後の一体の頭を真っ二つにした。
畑には数十人の兵隊達とあたしだけが立っている。全てのカボチャたちは黄色い実を大地にぶちまけてもとの動かぬカボチャに戻っていた。
『革命的トリート同盟』の完全勝利だ。
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