進撃の南瓜3

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」


 ――も、も、ももももももも……。


 奇妙なうなり声を上げながら迫り来るカボチャの化け物たちにおもちゃの兵隊達が一斉に襲いかかる。

 カボチャたちはあたしと同じくらいの大きさだから、手のひらサイズの兵隊達と比べてかなり大きい。

 しかし、兵隊達は統制の取れた動きで巨大で数も多いカボチャ相手に互角以上に立ち回っている。


 ――ももも、もももも……。


 木の兵隊達は数人ずつグループを組んでいるようだ。数人がかりでカボチャの注意を受けて引きつける。カボチャが目の前の兵隊に夢中になっている隙に、別の兵隊がカギ付きのフックをカボチャの頭に引っかけて怪物によじ登っていく。


 ――ももも、もももももももももー!


 取り付かれたカボチャが激しく暴れるが、フックはカボチャにしっかりと噛みついていて容易には離れない。兵士は慣れた様子で暴れるカボチャの身体をロープをうまく使いながらすいすい登っていく。

 やがてカボチャの首筋に取り付いた。

 おもちゃの兵士は腰に取り付けている剣を引き抜き、首筋を一閃。


 ――も、も、も……も…………。


 瞬間、カボチャと傘のようなマントを羽織った胴体が分かたれた。カボチャの頭にくりぬかれた瞳の奥で輝いていた鈍い光がスッと消え、人の大きさほどもある大きな胴体がズンという音を立てて倒れた。


 かと思ったら、その瞬間に頭を失った胴体は塵と消えてしまった。その上に支える物のなくなった穴あきカボチャが落下し、衝撃でぱかりとカボチャが真っ二つに割れた。


「おおっ、やった、やった!」

 あたしはおもちゃの兵隊達が見事にカボチャの怪物を倒すのを見て思わず両手を挙げて喜んだ。カボチャの数は多いが、この調子で倒していけばきっと勝てるだろう。


 ――も、も、も……。


 同胞を倒されたカボチャたちはそれによって怒りを覚えたのかそうでないのか、瞳の中の光を鈍く輝かせ、まるで水泳のクロールのように腕を大きく振り回した。


 しかし、その動きはまるでスローモーションのように遅く、素早く動き回る兵隊達には全く脅威とならない。

「よし、いけ! がんばれ!」

 あたしは周りをカボチャの怪物に囲まれていることも忘れ、興奮して兵隊達の活躍に声援を送っていた。




「たぁっ!」

 カボチャの頭に取り付いた兵隊が大きな針のような剣を振ると、また一体、カボチャの怪物が倒れた。


 戦いが始まってもう何十分経っただろうか。カボチャの怪物たちは次々と仕留められている。しかし、辺りを取り囲むカボチャの数は一向に減る気配がない。おもちゃの兵隊達が疲れると言うことはないだろうが、あまりの数の違いに徐々に押されてくるようになった。


(ていうかこれ、ハロウィンのショーだよね? ちょっと長すぎるような……)

 そんな違和感はすぐに吹き飛んだ。あたしのすぐ目の前にうつろな瞳のカボチャのお化けが現れたからだ。


「きゃっ……!」

 思わず悲鳴が出た。兵隊達に助けを求めようにも、いつの間にか近くから兵隊がいなくなっていた。もしかして、カボチャたちに誘い出された?


「くっ……。負けてたまるか!」

 あたしは咄嗟にその場に生えていた高さ一メートルくらいの枯れ木を引っこ抜いた。

 そしてそのまま、野球のスイングのように枯れ木をカボチャめがけて振り抜いた!


「なめんなよ!」

 ばごーん! という派手な音がして、カボチャが大きく吹き飛んだ。枯れ木が当たったカボチャの一部分が大きくへこみ、カボチャはそのまま動かなくなった。細長い手足が消えて、ただのカボチャへと戻る。


 大勝利だ。しかしその代償にあたしの唯一の武器となる枯れ木もぽっきり折れてしまった。

 そんなあたしの所に別のカボチャが現れた。しかも二体!


 ヤバい。これって絶体絶命のピンチ……?

 あたしの背丈と同じくらいの二体のカボチャが大きく手を広げてあたしに覆い被さろうとする。


「ひっ……!」

 両手を顔の前にかざしてカボチャの攻撃から身を守ろうとする。カボチャの攻撃がどんなものかはわからないが、そんなことで身を守れるとはとても思えない。


 が、いつまで経ってもカボチャの攻撃は来なかった。いつの間にか閉じていた目を恐る恐る開いてみると、二体のカボチャの頭がずるりと胴体からズレて下に落ちていった。カボチャが地面に落ちるよりも前に胴体が消滅する。


「救世主様、ご無事でしたか!」

 兵隊の一人があたしの無事を確認してきた。多分この人はあたしが最初に蹴っ飛ばした隊長だろう。


「あ、ありがと。助かったよ」

 あたしは笑顔で隊長に向けて親指を突き出した。隊長も同じようにした。もっとも隊長には親指がないので、木でできた手を突き出しただけだったが。


 気がつくと、散らばっていた兵隊達があたしの周囲に集まってきていた。しかし気のせいか、最初の頃よりもずいぶん数が減ってきたように思う。

 いや、それは気のせいではなかった。畑の中をよく見ると、割れたり潰れたりしたカボチャの間に木の人形の残骸が転がっていたからだ。


「救世主様をお守りしろ! 傷ひとつ付けてはならん!」

「はっ!!」

 木の兵隊達がぐるりとあたしを取り囲んで、さらに外側からやってくるカボチャたちに対峙する。しかし、これまでのように自由に動き回れないためか、明らかに苦戦している。


 カボチャの怪物たちは先ほどと同様、ゆっくりとした動きで大きく手を振り回す攻撃しかしてこないが、先ほどよりも密集しているために攻撃が兵隊に当たる確率が上がっていた。


「ぐはぁ……!」

「うわぁぁぁ……!」

 少なくなったおもちゃの兵隊達はカボチャに蹴散らされ、さらに数を減らしていく。


「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ……!」

 悲鳴を上げた兵隊がカボチャに踏み潰された。

 あたしも手伝わないと……。半分に折れてしまった枯れ木を握りしめた。


「えい、やあ!」

 気合い一閃、あたしは最も近くにいて兵隊の一人を蹴飛ばそうとしていたカボチャに向けて突きを放った。


 ――もももももー!!


 気の抜けるような声を出してカボチャはのけぞった。カボチャは頭にあたしが突き出した枯れ木が刺さったままだが、倒すまでには至らなかったようだ。しかも、枯れ木はカボチャに突き刺さってしまったのであたしの武器はなくなってしまった。


「ヤバ! これ、どうすんの……!?」

 逃げ出したくなった。しかし、逃げだそうにも前後左右全ての方角からカボチャの化け物が押し寄せてくるために逃げることもままならない。


「救世主様、我らに加護を!」

「加護を!」

「えっ!? か、カゴ……?」


 そういえば、そんなことを行ってたような気も……。でもあたしは、カゴがなんなのか、どうすればいいのか全くわからない。

 でもおもちゃの兵隊達のすがるような目――いや、あたしがそう感じてるだけなんだけど――を前に、「カゴなんてできない!」とは天地がひっくり返っても言えない。


 ええい、ままよ。なるようになるだ!


「この者たちに加護を!」

 あたしは両手を大きく挙げてそう叫んだ。すると――


「うぉぉぉぉぉぉぉ……!」

「力がみなぎってきた!」

「いくぞ、総員、突撃!」

「おぉ!」

 やる気に満ちあふれる兵隊達。あれ、もしかしてうまく行った……?


 迫り来る巨大なカボチャたちに突撃する小さなおもちゃたち。次の瞬間、一蹴されて蹴飛ばされるおもちゃたち。

 ……ですよね~。


 蹴飛ばされた兵隊のうち、一体があたしの所へ転がってきた。例の隊長だ。

「む、無念……。救世主様の前でこのような醜態を見せる我らをお許しを……」

 隊長はこちらに向けて這いずりながら、力なく片手を挙げた。あたしがそれに向けて手を伸ばそうとしたとき――


 ぐしゃっ……。

 おもちゃの隊長はカボチャのお化けに無残にも踏み潰されてしまった。木製の球体関節が吹き飛ぶさまがみえた。

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