木から落ちた猿5
ズシン……という鈍い音とともに幅広のゴーレムが石畳の上に着地した。
身長は一メートルにも満たないくせに幅は人二人分以上もあるいびつな形のゴーレムの上には四人の男女が乗っている。
左右の腕に捕まるように慎一郎とこより、背に取り付けられた
慎一郎が瑠璃の夢を見た日から〈竜王部〉は“申”のほこらを目指して地下迷宮を探索していたが、思いのほか難航していた。
彼らを悩ませたのはこれまでと同じく、数多くの崩落箇所である。
通路を塞ぐ崩落した岩をこよりがゴーレムの術の応用でどかすなど工夫を重ねて進んではいるが、何度も袋小路にはまり、そのたびに姫子に連絡して〈転移〉の魔法で外に出てやり直し、別のルートを開拓するという地道な作業を繰り返すしか前に進む方法はなかった。
今も大きな竪穴を意を決して専用ゴーレムの上に乗って飛び降りてきたところである。
「着地成功……みんな大丈夫?」
「ねえ、今、何か踏まなかった?」
「ええっ!?」
結希奈の指摘にこよりが慌ててゴーレムの腕から飛び降りてゴーレムの足の周りを調べるが、何も見つからない。
「何もないじゃない……。もう、驚かせないでよ、結希奈ちゃん!」
「ごめんごめん」
あははと笑う結希奈。確かに足元に何かいたような気がしたとはさしもの結希奈も言わなかった。
「ようやく砦の中に入れたな」
「長かったですね……」
慎一郎と楓がゴーレムから降りた、続いて結希奈もゴーレムから降りる。
「ここから先は問題なさそうだ。歩いて行こう」
『トラップがあるやもしれぬ。十分注意せよ』
「それならわたしに任せて」
こよりが着地に使った扁平型のゴーレムを消して、新しく小型のゴーレムを創り出した。
「レムちゃん」
こよりが命じると、小さな真っ黒いゴーレムが歩き出す。それについて行くように一行も歩き出した。
以前、この瑠璃の作った砦に入ったときもこの中はトラップだらけだった。このゴーレムは見かけよりも重くて硬く、人間に先行させて歩かせることによってトラップを見つけるために開発されたものだという。
『前に来たときは大玉に追いかけられたのぉ。今となっては懐かしい』
そういえばそうだったと辺りを見渡すと、その時に大玉から逃げるために入った横道が見えた。しかしそこは崩れ落ちた岩で完全に塞がれており、とてもではないがそれをどけて中に入れるようなものではなさそうだ。
「思い出させないでよ、ジーヌ。あの時は酷い目に遭ったわ……」
結希奈がため息をついた。
横道を通り過ぎてそのまま進むとキャットウォークのある通路にさしかかった。ここも以前来たときは周りを細かい装飾が施されたたいまつが照らしていたが、今はその面影すらない。
「ここで松阪さんと初めて会ったんですよね」
『うむ。そして〈誘眠〉の魔法で眠らされたのじゃ。今思い出しても口惜しい』
どうやら、瑠璃に眠らされたあの出来事はメリュジーヌにとってかなり屈辱的だったようだ。悔しがるメリュジーヌを見て楓が笑う。
「ここから先は未知の領域だ。気をつけていこう」
慎一郎がそう言ったものの、先行するゴーレムはここまでひとつのトラップも見つけていない。この荒れ具合からすると、トラップも全て死んでいたとしてもおかしくはない。
『じゃが、油断は禁物じゃ。シンイチロウの言うとおり、気を引き締めよ』
「ねえ、あれ……!」
こよりが指さした。これまで通路の奥には結希奈が出している〈光球〉の魔法以外の光源がなかったのに、その奥の一カ所からは光が漏れているのが見えた。
「行ってみよう」
少し速度を上げて、しかし慎重に一行は光のある方へと進んでいった。
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