暗黒竜の屈辱3

 その後、メリュジーヌは眷属を呼び、後始末をさせた。余裕の表情を繕っていたが、さしもの竜王でも〈十剣〉番外と戦いつつ山頂まるごとという巨大な岩塊を持ち続けるという戦いは彼女に多大な負担をかけた。


「なにもそんな無茶をせずとも、我らを率いてくれればよろしかったものを」

 と、〈十剣〉のファヴニールなどには呆れられた。


 ドラゴンたちはメリュジーヌがたたきつけた隣の山の山頂を丁寧に取り除き、ヴァースキの死体を確認した。

 それは確かに絶命していたが、確実を期すためにメリュジーヌは配下の竜魔術師部隊を呼び寄せ、ヴァースキに“人化の儀式”を行わせた。


 それは竜の本体を〈竜石〉と呼ばれる石に封じ込めるもので、メリュジーヌをはじめとする竜人族であればこの時代、ほぼ全てのドラゴンが行っているものであった。

 これを行うことで竜人族は人と竜の姿を自在に変えることができる。


 このときヴァースキに行ったのはこれとは逆に、竜の本体である死んだ肉体はそのままに、すでに死亡した魂を取りだし、こちらを石に変えた。


 この前代未聞の逆“人化の儀式”とも言える作業により産み出された彼の竜の魂の結晶ともいえる〈竜石〉は細かく砕かれ、二度と蘇ることのないよう、山を隔てたチベットの山中にメリュジーヌ自らが広く散布させた。


 ヴァースキの死後、しばらくの間はこの地を監視するドラゴンが派遣されていたが、メリュジーヌが歴史の表舞台から姿を消したあとは徐々にそれもなくなっていった。


 その後、竜の庇護をなくしたこの土地が竜の後ろ盾を持つ列強の手によって植民地化されたことにこの一件の影響がなかったとは言えない。

 それからおよそ千年が経ち、暗黒竜ヴァースキの伝説は忘れ去られていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る